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ゆゆゆゆ
ゆゆゆゆ
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意識が浮かび上がる。
柔らかい、だが沈み込むような感触。
革張りのソファ。
重たい瞼を開けると、天井は見慣れない。
「……どこだ、ここ」
ぼんやり呟いた瞬間、
ひやり、と冷たい感触が頬に触れた。
「っ、!」
反射的に顔を引く。
視界に入ったのは、ペットボトルと——
マフィオソの姿。
「起きたか、酔っぱらい」
落ち着いた声。
いつも通り、少し丁寧で、余裕を含んだ声音。
チャンスは顔をしかめる。
「……最悪な目覚めだな」
上体を起こす。
まだ頭が少し重い。
「水だ。飲め」
差し出されたペットボトルを、チャンスは奪うように受け取る。
一口飲んで、息を吐く。
沈黙。
そして、ふと——昨夜の記憶がよぎる。
バー、酒、勝負。
それから——
(……キス、したな)
一瞬、思考が止まる。
だがすぐに、いつもの調子を取り戻すように口を開く。
「……で?」
わざとらしく視線を向ける。
「お前、あの程度で動揺してたよな」
マフィオソの眉がわずかに動く。
「……何の話だ」
「とぼけんなよ」
チャンスは笑う。
「軽く触れただけであの顔。案外チョロいじゃねぇか」
内心、ほんの少しだけ熱が残っている。
だがそれを悟らせる気はない。
むしろ——
(負けたくねぇ)
理由は分からない。
いつもの賭けとは違う。
だが、マフィオソ相手だと
“負け”が妙に引っかかる。
「……そうか」
マフィオソは静かに言う。
「お前は、あれを遊びの延長だと思っているのだな」
「違うのか?」
挑発的に返す。
視線が交差する。
一瞬、空気が変わる。
マフィオソはゆっくり歩み寄る。
ソファに座るチャンスの前に立つ。
「ならば、確かめてやろう」
「は?」
次の瞬間——
顎を軽く掴まれる。
「おい、何——」
言い終わる前に、
唇が触れた。
今度は、はっきりと。
逃がさないように、わずかに押さえつけるようなキス。
「……っ」
一瞬、思考が空白になる。
数秒。
それだけで十分だった。
ゆっくりと離れる。
「これでも、同じことが言えるか?」
低く問う。
チャンスは、しばらく動かなかった。
そして——
ふ、と笑う。
「……はは」
顔を上げる。
「いいじゃねぇか」
目は、完全に覚めている。
「そういうの、嫌いじゃねぇ」
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