テラーノベル
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距離が、近い。
ソファに沈むチャンスと、それを見下ろすマフィオソ。
空気は静かで、張り詰めている。
「次はどっちが動揺するか、賭けるか?」
チャンスがそう言って、わずかに笑う。
その目は、完全に覚めている。
マフィオソは数秒、黙ったままその視線を受け止めた。
「……いいだろう」
低く返す。
「ならば、その勝負。受けてやる」
一歩、距離を詰める。
チャンスの呼吸が、ほんのわずかに変わる。
だが表情は崩さない。
「へぇ」
「今度は逃げるなよ」
マフィオソは手を伸ばす。
頬に触れ、顎へと指をかける。
その仕草は丁寧で、だが確実に逃がさない形。
「お前が始めた勝負だ」
「言われなくても——」
チャンスは軽く笑う。
そのまま、少しだけ身を乗り出す。
(来る)
マフィオソは確信する。
あの時と同じように、
今度もチャンスから来ると。
だから——
わずかに目を閉じた。
その瞬間。
ひやり、とした感触が唇に触れる。
「……?」
違和感。
柔らかさではない。
冷たい、硬い感触。
目を開ける。
目の前で、チャンスが笑っている。
手に持っているのは——
ペットボトル。
「さっきの仕返しだ」
軽く、唇にそれを押し当てたまま。
「どうだ、動揺したか?」
数秒、沈黙。
マフィオソは何も言わない。
ただ、そのままチャンスを見下ろしている。
空気が、変わる。
さっきまでの余裕が、少しずつ剥がれていく。
「……なるほど」
ゆっくりと、言葉が落ちる。
「そういうつもりか」
チャンスは肩をすくめる。
「ただの遊びだろ?」
「そうか」
その返答は、妙に静かだった。
だが次の瞬間——
手首を掴まれる。
「っ、」
一気に引き寄せられる。
体勢が崩れる。
背中がソファに沈む。
「おい、何——」
言い終わる前に、押し倒される。
マフィオソの影が覆いかぶさる。
距離が一気にゼロになる。
「遊び、か」
低い声。
先ほどまでとは明らかに違う温度。
「ならば、少し度が過ぎても構わんな」
「……は、」
チャンスが笑う。
だがその笑いに、わずかに混じるもの。
——予想外。
(こいつ……)
手首を押さえられている。
逃げようと思えば逃げられる。
だが——
(逃げる理由、ねぇな)
むしろ、面白い。
マフィオソが顔を寄せる。
「今度は、誤魔化させん」
「やれるもんならやってみろよ」
視線がぶつかる。
ほんの一瞬、沈黙。
そして——
キス。
今度は、明確に“奪いにいく”もの。
押さえつけるようで、だが乱暴ではない。
逃げ場を与えない、計算された圧。
「……っ」
チャンスの呼吸がわずかに乱れる。
さっきとは違う。
一瞬で終わるものじゃない。
続く。
離れない。
「どうした」
ほんの少しだけ離して、囁く。
「さっきの余裕はどこへ行った」
「……まだ、余裕だろ」
チャンスは笑う。
だが今度は、ほんの少しだけ息が混じる。
「むしろ、楽しくなってきた」
そのまま、わざと距離を詰める。
ほとんど触れる距離。
「なぁ、これも“勝負”か?」
「……ああ」
マフィオソは答える。
視線を逸らさずに。
「なら、」
チャンスの口元が歪む。
「負けねぇよ」
空気が、完全に変わる。
遊びだったはずのそれは、
もうただの遊びじゃない。
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