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7話 遅れない電車
ホームの表示は、
いつも同じ時刻を示している。
薄手の上着に、
内側が少し擦れたバッグ。
肩にかける癖で、
片側だけ形が馴染んでいる。
髪は短く整えられていて、
額に触れない。
寝不足でも、
目立たない長さ。
到着まで、
あと二分。
その数字は、
減るだけで止まらない。
隣の人が、
腕時計を見る。
針は進み、
表示と合っている。
アナウンスは静かで、
声に抑揚がない。
注意も、
謝罪もない。
電車は、
予定どおり滑り込む。
ブレーキ音は短く、
揺れは最小。
遅れは、
理由ごと存在しない。
発車時刻。
ドアが閉まり、
表示が切り替わる。
誰も急がない。
誰も焦らない。
途中駅でも、
同じ。
確認作業は見えるが、
滞りはない。
人の流れは、
止まらず、
詰まらず、
解けない。
窓に映る顔は、
少し安心している。
遅れないことが、
期待ではなく、
前提になっている。
終点で降りる。
時刻表は、
最初からそのまま。
誰かが、
遅れを許さないのではなく、
遅れが起きないように、
先に整えている。
そう考えて、
すぐに打ち消す。
考える必要はない。
電車は、
今日も遅れなかった。
それだけで、
十分だった。