別に壱花は死ななかった。
死にかけたのは、枕返しだった。
倫太郎の叫びに目を覚ました壱花がつぶされて弱っていた枕返しを手のひらにのせる。
「かわいい~。
ごめんね、枕返し」
あ、そうだ、と壱花がポケットに入っていた金太郎飴を一粒あげると、枕返しは喜んでそれをせっせと運び、またぱたん、と銭箱に入っていった。
倫太郎が床の間に行き、それを開けてみる。
「なんにもいないな。
何処か別の空間につながってるんだろうな」
と呟いていた。
「まだ時間があるから、もうちょっと寝るか」
そう言って、倫太郎が欠伸をする。
「そうですね。
三十分くらいですけど。
今度はちゃんと枕使って寝ます」
壱花は、ぽんぽん、と枕を整えるために叩いたが、それを見ていた倫太郎が、
「二回叩いたら、枕の神様の呪いによって、二時にしか目が覚めないんじゃないのか?」
と言ってくる。
いや、……なんの呪いですか、と思いながら、壱花は、
「いや、単に形整えただけですよ」
と言う。
「枕返しと枕の神様は別物なのだろうかな?」
そう倫太郎が言ったので、壱花の頭の中で、枕返しと枕の神様がいっしょになり。
さっきの可愛い枕返しが、小さな手で、てしてし、壱花の額を叩いて起こしていた。
「じゃあ、六時半で頼んでみます」
と言って、壱花は枕を六回と、ふんわり一回叩いてみた。
ふと見ると、男たちも枕を叩いてみている。
枕返しの可愛さにやられたのだろう。
「まあ、枕返しと枕の神様は別かもしれませんけどね」
と壱花が笑うと、冨樫が、
「起こしてくれる枕の神様と。
普段から信仰してる神様が夢に出てきて、お告げをしてくれるという枕神。
そのふたつも同じなのか、別物なのかわからないよな」
と言ってきた。
まあ、日本には八百万の神々がいるっていうからな、と思いながら、壱花は布団にもぐる。
六時半、三人は飛び起きた。
「駄菓子屋のババアがっ」
「高尾さんがっ」
「ガチャガチャで出てきたお地蔵様がっ」
「六時半だってっ」
「六時半だよってっ」
倫太郎が、冨樫が、壱花が叫ぶ。
三人とも、夢の中で、それぞれ違うモノに六時半に起こされていた。
「六時半だよって、お告げか……?
っていうか、なんだガチャガチャで出てきたお地蔵様って」
何故、ガチャガチャのだとわかる? と壱花は倫太郎に訊かれた。
「つ、継ぎ目があったんで……」
「しかも、地蔵なら、神様じゃないじゃないか」
と突っ込む倫太郎に冨樫が、
「本人が思う、神様的存在ってことなのでは?
それより、なんで社長は駄菓子屋のオーナーが神様なんですか」
と言ってくれる。
「……商売の神だからじゃないのか?」
「冨樫さんは、なんで高尾さ……」
と言いかけた壱花だったが、
「いや、なんとなくわかります」
と思わず、言って、
「いや、なんでだ……」
と言われてしまった。
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