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#主人公最強
かませ犬S
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#転生
歯磨き粉
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ディアナさんの「深化されたい」という探求心、あれはもう純粋な知への渇きでありながら、レクト君への歪んだ好意として滲んでて、凄く怖くて美しかったです……。最後の「好きだよぉ」も、愛情というより未知への憧れが形を変えたものに感じられて、背筋がゾクッとしました。一方でレクト君が剣気を発現させて、エステルさんが飛び込むシーンにはじんわりきました。ふたりの距離が確かに縮まってるのが伝わって、次の展開が楽しみです🌷
――夜。ディアナの研究室。
彼女は窓辺に立ち、静かに星空を見上げていた。
……彼女の中にレクトはいない。
しばらく憑依するのは中止だと切り出され、それを受け入れていたのだ。
「今……、この身体にはあたしだけ。今ある意識が、あたしの意識……」
ディアナは小さく、そう零した。
自分の意識が無いときの記憶は、それ以外のときと同様……しっかりと彼女の中に残されている。
レクトに憑依されているとき――彼女の身体には、彼女の意識は無かったはず。
つまり今、彼女が自分の意識を認識できている以上、彼女の意識は確かに存在するのだ。
「魂の証明――とは、また違う。
これはただの、意識があるという認識だけ……」
そっと髪の毛をかき上げる。
不思議なことに、その所作だけで……自分が女性であることに注意が向かう。
「――レクト君の価値観……。
いや、彼の考えたことが記憶として根付いて――あたしの感覚に、作用している……」
そんなことを考えながら、ディアナは口元を緩ませた。
本来ならあり得ない、他人との記憶の共有。それを介して生まれる、自身の内側での変化。
錬金術には様々な分野があるが、一通りを学んできたディアナにとっては――
……その変化も、憑依スキルという存在も、強く興味をそそるものだった。
「――君は、あたしの身体を使って、動かして……何を考えた?」
ディアナは、レクトが憑依していたときの記憶を掘り起こした。
思考的な部分は明瞭には残されていないが、状況から察すれば、ある程度のことは知ることができる。
「――あたしのことを、女としては……見ていない」
エステル、セシリア、フローラ、リゼ……そして、自分。
さすがに5人目ともなれば、女の身体としては意識しないかもしれない。
……あるいはディアナという存在を、そういう目で見れなくなっているのか。
ただ、だからこそ――性差という観点で、思考を邪魔されることは無い。
彼がディアナという容れ物に入っているとき、不純な思考を最初から除外できる――
「……素材としては、打ってつけだよ。レクト君。
だからこそ、あたしは……気になるんだよ……」
ディアナの見解では、魂というモノはある程度の『形』を持っているはずだった。
通常の憑依というのは、きっと自身の魂がある場所――魂の座から抜け出し、他人の魂の座に潜り込むことなのだろう。
ならば憑依の深化とは、他人の魂の座で、他人の魂と同じ形を取ることを指す……?
同じ形の魂がふたつあることによって、身体が魂を誤認してしまう……?
……まったく同じ形の魂があるのであれば、両方を自身の魂として扱い……そして、いずれは混ざり合ってしまう……?
――そうなれば、最終的にどうなる?
元々の身体の持ち主……例えばディアナの意識が残り、そこに統合されるのか。
あるいは憑依者……レクトの意識が残り、そこに統合されるのか。
もしくは、ふたりの魂からまた別の――全く別の、新しい意識が生まれるのか。
……リゼの身体で深化を行った話を考えれば、外の世界からは何も変わらないはず。
リゼはリゼのまま存在して、リゼの思うように、考えるように、彼女の人生を歩んでいくだろう。
ただ、そのとき――彼女の意識は、どうなっている?
それは、リゼのもの? レクトのもの? あるいは、全く別のもの……?
「――ああ。深化されたい……」
外の世界から見て、何も変わらないのであれば――
今あるこの意識が残っても、残らなくても……どちらでも、良いように思えてしまう。
……そこに見えるのは、純粋な好奇心。探求心。知を得たいという――欲望。
ディアナは壁にもたれて、目を閉じて、自身の鼓動をそっと確認した。
今、自分はここに在る。しかし、この世界から自分が失われても――自分という客観的存在は残り続ける……という可能性も存在する。
不思議な感覚。想像だけの領域――
――歪んだ、知への価値観。
ディアナはそれを、認識している。認識しながら、了としている。
「レクト君……ッ。好きだよぉ……?」
ただ、その好意もまた歪んでいる。
自分の知らない領域に連れていってくれる存在――……愛情とはまったく別の、歪んだ感情。
ディアナは妖艶な笑みを浮かべて、研究室に沈んでいった。
……誰も来ない、夜は続いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
放課後、修練場にはレクトの姿があった。
いつになく真剣で、エステルはいつも以上に距離を空けている。
レクトの剣の一振り一振りが力強い。
今までに覚えたものではなく、何かを探しているような……そんな剣筋。
「えっちゃん、こんにちはー♪」
「あ。ディアナさん。こんにちは」
「ふふっ。レクト君、頑張ってるねぇ」
「はい……、本当に」
エステルはレクトを優しく眺めたが、ディアナの目はエステルに向かっている。
それに気付いたエステルは、警戒心を強める。
「……ど、どうかしましたか?」
「ううん。えっちゃんって、本当にレクト君のことが好きだなぁ……って」
「そそそっ、そんなんじゃないですよ!? た、ただの幼馴染ですし……!」
「……それじゃ、あたしが告白しても良い?」
「へ……?」
ディアナの言葉に、エステルはおかしな声を上げてしまった。
顔に熱がこもるが、それは突然変なことを言われたから――エステルはそう思うことにした。
「わ、私があれこれ言うことではありませんし……」
「可愛いけど、そんなんじゃ大切なものを取りこぼすよ?」
ディアナは笑みを浮かべて、エステルを真っすぐに見て言った。
エステルはそんな彼女から目を逸らし、何も無いところに目を移す。
「――あはは、うそうそ♪ しばらくは、そういうことはしないから安心して!」
「しばらくは……って!? そのうち、その……告白する、ってことですか!?」
「えっちゃんがのんびりしてたら、そうするかもね?
でも――」
ディアナは少しだけ歩いて、エステルに背を向けてから……静かに言った。
「……レクト君の気持ちは、あたしなんかに向いてないからね」
「え……? いや、まぁ……何でしょう。
フォロー、しなきゃダメですか?」
「してくれないの!?」
「いや、だって……。ディアナさんって、レクトとよく喋るようになったの……最近でしょう?」
エステルの言葉に、ディアナは驚いた。
確かに……以前から話したり、取り引きをしたりはしていたが――ここまで惹かれたのは、ごく最近のことだ。
ディアナは改まって、それについて考え始める。
「なるほど……。頭が良いっていうのも、こういうところでは不便だね」
「えぇ……? どういうことですか……?」
頭の回転が速いからこそ、他人よりも思考が速く進んでしまう。
そして思考が進みやすいのと同じように、感情もまた……速く進んでしまうのかもしれない。
「――うん、わかった。
えっちゃんの説得により、あたしからの告白はしばらく止めておくよ」
「はぁ……。でもそれって、やっぱりいつかは……告白するってことですよね?」
「ふふっ、そういうことだね♪」
ディアナは身体を伸ばして、改めてエステルに向き直る。
「ところで、本題なんだけどさ」
「あ、今からですか? な、何でしょう?」
「この前、黒い海と守護者の話をしたでしょ?
それで、たぶんレクト君が欲しがっている剣――リベリオンなら、ちゃんと戦えると思うんだよ」
「はい。普通では斬れないものも、斬れますからね」
「その素材の魂律鋼は、あたしが作ってるんだけど――
……レクト君だけに何かをあげるって、ちょっと差別してない?」
「んん……? と、言いますと……?」
ディアナの言葉の真意を、エステルは汲み取れなかった。
「うん。だから、えっちゃんにも……何か作ってあげようかな、って。
ほら、剣気も発現させたでしょう?」
「ありがとうございます。……ご存じだったんですか?」
「それはもう。ここで抱き合った記憶もあるよ♪」
あのとき、レクトはディアナの身体に憑依していた。
だからこそ、ディアナの記憶としても残っているのだ。
……エステルは、改めて顔を赤くした。
「――ごめんね。あたしが邪魔しちゃったみたいで」
「え……? いえいえ、全然……!?」
「とまぁ、そういうわけで。お祝いとお詫びを兼ねて~って意味でさ。
せっちゃんとリゼたんにも何かあげる予定だから、えっちゃんも遠慮しないでね!」
「はぁ……。そうですね、それなら私も――」
エステルはディアナに相談しつつ、話を進めていった。
一通りの話を聞くと、ディアナはエステルの肩を軽く叩いてから……修練場をあとにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――レクトは集中していた。
修練場で、まわりを丁寧に意識して――誰もいないスペースで、虚空の一点に集中し続ける。
心象世界で、リンドブルムと戦いながら使った剣気……。
あのときのイメージを浮かべても、現実世界ではなかなか手が届いてくれない。
ただ、以前よりも手は届きそうになっている。
……もどかしい状態。
あと一歩なのに、その一歩が難しい――
レクトはふと、エステルの方を見た。
いつの間にか、ディアナが来ていて、ふたりで話している。
ディアナ自ら、こんな場所に来るなんて珍しい……。
レクトは頭を振り、再び集中した。
最近……憑依スキルを手に入れてから、本当にいろいろなことが変わった。
右足を怪我して以来、ずっとエステルにも心配を掛けてしまったし――
……しかし彼女のおかげで、久し振りに剣を持ったときは……どれだけ嬉しかっただろう。
勝手に憑依してしまい、今となっては申し訳ないと思うが……。
ただ、あの経験が無ければ、ずっとポーターの道を歩み続けていただろう。
そのあと、セシリアと知り合い、リゼと出会い、ディアナと話すようになって――
……彼女たちとの関係は、一体なんだろう?
パーティ活動室を借りている以上、パーティという関係なのだろう。
そうだとすれば、彼女たちは仲間――
ふと、虚空の一点に集中していたことが、狭々しく感じてきた。
自分の剣は、自分の夢を開くためのものであり、そして……仲間のためのものでもありたい。
……今まで、まわりの人々には世話になってきた。
中にはフローラのような人間もいるし、迷宮の中で勝手なことをする人間もいる。
でも、だからこそ……仲間である人たちは、大切にしたい。
だから、そう……。
一点に集中するのではなく、広い範囲を、包み込むようにして――
――突然の風に、エステルは驚いた。
見ればレクトの身体を中心に、力強く風が巻き起こっている。
あれは――……
エステルは身を乗りだした。
彼女の視線の先で、レクトの身体には揺らめきが生まれ、そして木の剣に収束されていく。
つい先日、自分にも起こった出来事。
エステルのときとは違い、揺らめきが外に溢れすぎているような気もするが――
だからこその力強さ。だからこその頼りがい。
……そんなものが感じられた。
「だああああああ――ッ!!!!」
レクトは木の剣を、宙に突き放った。
揺らめきは塊となり、修練場の地面を削り飛ばしていく。
その反動は凄まじく、レクトも地面に倒れてしまう。
「――お……おぉっ!?
やった……やったぞッ!!」
自身の手を眺めてから、レクトは慌てて立ち上がった。
そしてすぐに、エステルの姿を探していく。
しかし――
「レクトぉ!! おめでとう――ッ!!」
エステルはすでに飛び出してきており、そのままレクトの胸に飛び込んだ。
思わぬ突進力に、レクトはよろめいて……倒れてしまった。
「ははは……、これくらいで倒れるなんて……。
次は、右足の魔法も……頑張らないとな……」
リゼのリンドブルムから魔力を受け取り、セシリアから魔法を教わり始めている。
剣気を発現できた今、レクトは剣聖を名乗ることができる――
しかし……まだまだ、道半ば。
レクトはエステルの身体を抱きしめながら、将来に想いを馳せていった。