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『えっ? もう犯人を詰められる?』
受信機のスピーカーから聞こえてきたのは、少し間の抜けた大我の声だった。
「そう。だから行ってきていいか」
『俺も行きたいです』と声を上げたのは北斗だ。
『ちょっと待って、じゃあみんなで行きましょう』
ジェシーの声もする。『こっちも動機がわかってきたんです』
みんなは黙って、主任の指示を仰ぐ。
『平日だから会社には出てるはず。それで任意同行だ。本社集合な』
「アサミヤグループ」本社の駐車場に停まった、3台の捜査車両。逃げられた時のため、北斗と樹は車で待機する。
受付で身分を示すと、すぐに通してくれた。
応接室に着いてソファーに座る。
高地と大我が目を合わせたとき、ドアが開いて息子の圭一が入ってくる。
「…まだあるんですか。この間、全て話しましたけど」
いくらか面倒くさそうな声で言った。「仕事を抜けてきているんで、手短にお願いします」
「手短に終わるかどうかは、これからの話を聞かないとわからりませんね」
返したのはジェシーだ。「全てではないですよね。話すことは」
その鋭い視線に射抜かれ、圭一の頬がぴくりと震える。それを、4人の刑事が見逃しているはずがなかった。
「では順を追って説明します」
大我が口を開く。
「被害者である『アサミヤグループ』の創始者であり取締役社長、麻宮総一郎氏は巨額の遺産を持っていた。彼の功績により、たったの一代で富を築き上げたから。それを欲しがる者は山ほどいる。具体的に言えば、この社内では社長本人以外、とでも言えますね」
圭一の表情は変わらない。射抜くような視線を向けたまま、高地があとを継ぐ。
「ではその中で、あの時間、あの場所で殺害することができた人間は誰か。まず被害者は自宅に帰ってから襲われたから、合鍵、もしくはマスターキーを持っている人物。しかしマンションの管理人や大家には動機がありません。となれば、合鍵を持つ秘書と息子がまず候補」
そこで一旦言葉を切る。と、慎太郎が持っていたタブレットを操作して画面を見せる。そこには、北斗と樹が証拠として持ってきたドライブレコーダーの映像が映し出されている。
「これは被害者の送迎車のドライブレコーダーです。日時は9月10日の午後7時5分。自宅マンションの地下駐車場に入り、その数分後に出てきています。秘書の佐々木さんによると、この日は7時頃に送り届けたと言っているので、これは間違いないかと」
説明して映像を閉じた慎太郎は、別のフォルダーに切り替える。
「こちらはマンションの防犯カメラ。同じ時刻に、駐車場からエレベーターに乗って自宅へ入る被害者の姿が確認できます」
「そしてその12分後ですが」
高地が口を開き、画面に目をやる。
「黒い帽子に上下黒の服装の長身の男が、正面玄関からやってきます。男は迷わず205号室に鍵を開けて侵入し、7分後に走り出てくる。これは女性とは思えない」
大我も続く。
「副社長に聞きましたが、被害者は自分が社長の座を退いたあとは息子ではなく『自分』に後を継いでほしいと言っていたそうです。つまり副社長のこと。あなたには素質がないことを感じていた被害者は、遺産を息子に全て受け継がせるのではなく、会社に寄付しようとしていたと。あなたはそれを知り、憤慨した。それで合鍵を使ってマンションに入り、殺害した。たった一人の受取人しかいない、生命保険金を手に入れるために」
証明終了、とでも言うように手をぱんと叩いた。
「……証拠はあるんですか」
絞り出すように圭一が言った。
「まずこの映像はそれなりに説得力のあるものになります。あとあなたの部屋を捜索したら、凶器でも出てくるでしょう」
余裕の面持ちで大我が言い、とうとう圭一はうなだれた。
「意外と早かったですね」
車に戻ってくると、樹が言った。
「推理を並べたら、結構あっさり自供した。まあ、度胸とかなさそうだもんな。あの息子」
大我はほのかに笑っている。やがて到着していたパトカーが赤色灯を回して走っていく。
「あとは家宅捜索して凶器探しか」
高地が言って、「じゃあそれは俺と主任でやってくるから、みんなは取り調べお願い」
了解、と4人は答えた。
続く