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メディアを一世風靡した貿易会社の社長殺害事件は、その息子の犯行が判明して終了した。
息子の自宅から、血のついたナイフが発見されたことが最終的な証拠となった。
そして担当の京本班は、調書作りをしているところである。
「ちょっとジェシー、ここ漢字で書けないの?」
ジェシーが書いた供述調書を見た大我が言うが、
「……難しいじゃないですか…」
そう口をとがらせる。
「書き直してって言ってるの」
「すいません」
その様子をどこか楽しそうに眺める樹と慎太郎。
「ほらそこの2人、手が止まってる」
高地の声が飛んできて、並んで首をすくめた。
するとドアが開いて、北斗がジャケットを脱ぎながら入ってきた。
「なんかマル暴から相談が来たんだって。暴力団の団員が傷害事件起こして、一課に回ってくるらしい」
マル暴とは、捜査四課のことだ。主に暴力団関係を担当している。それを聞いた樹の表情が何やら強張る。
「え? どういうことですか」
言いながら、大我はデスクの内線電話を取って話し始める。やがて受話器を置くと、5人を振り向く。
「係長に確認したら、確かに四課から情報が来たって言ってた。都内の指定暴力団の奴が加害者と被害者で、それで逮捕できたら摘発できるかもって」
「俺らが担当するんですか?」
樹が声を上げるが、わずかに上ずった。
「…そうらしい」
「被害者は?」
高地が尋ねた。
「入院してる。命に関わるほどじゃないらしい。加害者は逃走中」
その言葉に、5人は息を呑む。
「まあ拳銃の許可は出るだろ。こっちに暴力団関係の事件が来ることはめったにないから、気をつけような」
そう大我が言って、みんなは気を引き締めた。
その後、大我は捜査四課の課長と対面していた。
「被害者、加害者ともに指定暴力団『狩崎組』の構成員。八尾川彰という男が、港原亮司という男を突き飛ばして全治2か月ほどだそうだ。被害者によると、八尾川は『お前のせいで追われてんだよ』と言って襲ってきたらしい」
「と、言いますと…」
「八尾川は特殊詐欺の犯人として二課が捜査してるそうだ。それが、その情報を港原が外部に漏らしたのが捜査開始の原因で、まあ憤怒されてやられたとか」
はあ、と大我は曖昧に相槌を打つ。「その事務所に行けば見つかるんじゃないですか」
「それがな」
係長は声をひそめた。「場所が割れていないんだ」
えっ、と軽くのけぞる。
「もちろんこっちも捜査する。ただ、一課にも少し協力してもらいたい」
わかりました、と大我は答えた。
こんなの珍しいな、と思いながらもデスクへ戻る。彼らのいる捜査一課は殺人や傷害など、強行犯を扱うもので合同でやることはほとんどなかった。
そして班のメンバーにそれを告げると、一様に驚いた顔になる。
「でも何だか新鮮ですね!」
無邪気な声を上げる慎太郎の横で、樹だけが苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
続く