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土砂降りのある日のこと。開店から1時間ほど経った今も、客1人入ることはおろか、目の前の人通りも勿論無く。
「…暇だねー。」
「暇ねぇ…。」
カウンターで頬杖をつくラウ。カウンターの隅で辰哉は絶賛喫煙中である。
壁に置かれたボトルの残量を見ながら1本1本拭いていく俺は、あまりに『暇』と口々に言うそんな気怠さ全開の2人を見ながら、やることはあるだろと思い口に出す。
「言霊ってもんがあるからさ、あまり言うなって。手が空いてたら、今だからこそやれる細かい掃除とか一旦の棚卸とかしたらどうなの?」
「「えぇぇえ…?」」
俺の指摘にそれぞれが正直にめんどくさそうにしながら脱力する。…お前らさぁ…。
「いやえぇ?じゃなくて。辰哉はまだオーナーだからいいけどラウは違うだろ。雇われてんだから働け。」
「ねー!照、下の名前言うのやめてって!」
最近になって、辰哉はそう言うようになった。『アイツ』の紹介で知り合ってからはお互い下の名前で呼びあってて、いざ雇ってくれるってなってもずっとそのままだったし…今更直すのもじゃない?
「ママぁ、パパが働けって言ってるけどどうする?」
「まずお前は俺をパパって呼ぶのやめろって。」
──いや、俺も嫌な呼び方あった。確かにオープン時からいるけどさ、ママが居るならパパってのは違うだろ。安直か。いっつもこの所為で周りから勘違いされるしさぁ…。
そんな俺の言葉を無視してラウはカウンターにぺたりと脱力したまま、未だ降りしきる外の雨を眺めながら辰哉へ提案する。
「俺、一旦あがろっか?その辺の店も同じだろうから、顔出ししてくるよ?」
「そうねぇ…まだ開店して間もないけど見た感じ人通りがないし、正直ラウちゃんあがってもいいかなーって思ってはいるんだけどさぁ。」
同じく外の様子を見ながら煙を吐き、尚も思案する辰哉は続ける。
「その分の時給も出ずに、この雨の中外に出すのもねぇ。先に賄い食べて…いっそもう皆で呑んじゃう?」
「えっ、いいの?!」
よくねぇよ。まあ確かにこの雨で帰すのは可哀想だけどさ。
「賄いはいいけど、さすがにお客さん居ないのに呑むのはダメだろ。それなら働け。」
最後の1本を拭き終え、ぺしっとラウの頭を軽く叩いてカウンターの奥へと向かい、辰哉の隣に立つ。
小休憩のつもりでライターで煙草に火を点けると、その様子に辰哉は入れ替わりで吸い終わった煙草を灰皿に置き、《あれ?》と俺を見上げた。
「照が吸うの珍しいね?」
「…そりゃ付き合い程度しか吸わないけどさ、こんだけ暇だと吸いたくもなるでしょ。」
思わずぽろっと出てしまった、先ほど俺が指摘した単語をラウが聞き逃すことはなかった。にやりとこちらを見てはイタズラっぽく口を開く。
「…結局パパも『暇』って言っちゃってんじゃーん。言霊は?」
「ねーえー!だからさぁ…!」
パパじゃないんだって。と言ったとしても別に直ることはない。半ば諦めて煙草の煙を肺へ送り込み、大きく溜息を吐く。
少しの沈黙。辰哉が《あーぁ。》と退屈そうに声をあげると、珍しくその場の全員が口を揃えた。
「「「…暇だわー…。」」」
ドアのベルが鳴るまで、どれくらいかかるか。そもそも、それを鳴らす人のは居るのか居ないのか。
道を叩きつける雨音だけが響く中、賄いは何にしようかと俺は考えることにした。