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事務所で店内の様子を映したモニターを眺めながら大きく溜息を吐くのは、目の前の気紛れなNo.2と同じようで。
「やーっぱ人、少ないねぇ…。レンは相変わらず取っかえ引っかえだけど。」
「そうだね…。出勤してから降るとは思ってたけど、ここまでとはね。」
「リョウどうする?今指名無いし、若手育てるために控えてはいるけど…やっぱ場内回った方が良い?俺は楽しけりゃそれでいいし。」
そう気遣うサクは若干低気圧にやられているのか、多少メイクをしているとはいえ顔色が悪く見える。普段から呑んでいるとはいえ、今日は少し心配だな。予報と雲の動きの動画を観て、俺は提案をした。
「もう少しで雨が弱まるとは思うから、先に軽く胃に入れてから回ってきたらどうかな?」
「確かにちょっと腹減ってんだよなー…何かある?」
キッチン周りは他の管理者に任せているため、正直把握はしきれていない。モニターに再度目をやると、丁度いい人材がキッチンで注文を受け、既製品のつまみを盛りつけていた。
「…コージに何か作ってもらう?」
「コージメシ!?食べる!」
目の輝きが増すサク。どうやら以前に食事を作ってもらってから可愛がっている──いや、可愛がられに行ってる?──様子で。
最近ではサクがコージへほぼ強引に『さっくん』と呼ばせている現場も見かけたこともある。あの時の根負けしてスンとしながら《…さっくん。》と呼んだ時のコージの顔と、サクの喜び様との対比は今でも少し面白く感じる。
「ちょっと聞いてみようか?」
そうしてインカムのスイッチをオンにし、モニターを観ながらその本人へ声をかけた。
「──コージ?」
『、はいっ?』
突然の指名にびく、と肩を跳ね、慌てながらも同じくインカムを点けながらマイクを寄せて応答するコージの様子にサクはけらけらと笑う。
「サクに何か軽食作ってくれないかな?」
『えっ、と…何でもええんすか?』
「うん。ほんとに軽く。おかずだけでいいよ。」
そう告げると、盛っていたつまみを別の黒服へ提供を依頼し、マイクを持つ手はそのままに冷蔵庫の中身をチェックする。《軽め。おかずだけ…》と独り言を呟いた彼はメニューが決まったのか軽く頷いた。
『じゃあ5分程ください。さっくん今場内です?』
「ううん、事務所までお願い。よろしくね。」
『はい。』
ぷつ、と切れる通信。《えー!コージ何作るんだろー!》とソファにうつ伏せで寝転がるサクは、そこからモニターを観ることは一切なく、ただただ脚をぱたぱたさせてネタバレ防止と営業チャットに努めていた。
そして、本当に5分後。3回のノック音が鳴ると、遠慮がちにゆっくりドアが開き、ひょっこり顔を出すコージ。
「失礼しますー。ほんまに軽くで簡単なもんすけど…ええんすかね。」
サクの前のローテーブルに置かれたのはベーコンエッグと焼きソーセージ、添えられたベビーリーフとカットミニトマト。そして、野菜の横に置かれたココットの中身を指さしてコージは説明を始めた。
「これ、野菜用のドレッシング。僕の好みで作ったから口に合うかは知らんので…ダメそうやったら市販の持ってきますわ。」
「おわぁあ…!こういうので良いんだよ!コージありがとうー!」
「お、おん…。」
ソファに座りながら、前屈みの状態だったコージの腰にしがみつくように抱き着くサク。その衝撃で手にしていたもう1皿を落とさないよう、体幹をしっかり保ってぐっと固まるコージ。相変わらずサクの近い距離感がよく解っていないようで、首を傾げながら恐る恐るぽんぽんとその鮮やかなピンク色を撫でる光景をつい保護者さながらの立場で見てしまう。
不意にコージが俺の方を見たと思えば、すっと差し出された同じ内容のもう1皿は俺に向けられていて。
「…一応2皿持ってきましたけど、リョウさん食べます?」
「えっ、俺のも?」
思わぬ提供に驚く俺に、彼は少々気まずそうに顔を伺ってくる。
「あ…もしかしてあかんかった、…すか?」
彼の気遣いに心が温まる。俺はその皿を受け取ると首を横に振って素直に思ったことを口にした。
「ううん、まさか俺のもあるとは思ってなくて。遠慮なくいただくね?ありがとう、コージ。」
その言葉に安堵したように薄く微笑み、尚も腰元でぐりぐりと頭を擦り付けるサクの頭を引き剥がすように、コージは空いた両手で肩に手をやる。
「さっくん、そんなしたらヘアセット崩れますて。いつ呼ばれるか分からんし、早よ食べんと。」
「あっ、そうだよね!いただきます!」
「俺も、いただきます。」
《ほな、僕は戻りますわ。》と軽く会釈をして事務所を出て行く彼を見送る。既に食べ始めていたサクの表情を見て、俺は食事への期待感が上がった。
その前にモニターを改めて観れば、続々とテーブルが埋まっていく。この後の繁忙に備えつつ、且つこれからの食事を楽しみにしつつ、俺は回転率と売上への計算を始めた。
#めめあべ