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学校で樹と鈴に守られながら「日向さくら」として過ごす昼間と違い、レッスン場での「ちぇりー」は、プロとしての自分と向き合わなければならなかった。
グループ「Starlight Wish (SW)」の活動が本格化するにつれ、ちぇりーの才能は際立ち、センターとしての露出は増していった。
しかし、それと同時に、最年長リーダーの凛からの指導は、一層厳しさを増した。
「ちぇりー、今のターン、軸がぶれた。表情に迷いが出てる。センターであるあなたのたった一度のミスが、グループ全体に水を差すことを忘れないで」
凛は休憩中も水分補給をせずに、ストイックに鏡を見つめている。
彼女は、ちぇりーの才能を誰よりも評価しているがゆえに、一切の甘えを許さなかった。
ある日のダンスレッスン後、ちぇりーは疲労困憊で座り込んでいると、凛が冷たいタオルを渡してきた。
「才能に溺れるな。私は二年、血を吐くような努力をしてセンターを掴もうとしてきた。あなたがたった数ヶ月でそのポジションに立っているのは、運と才能。けれど、プロは持続する努力で証明する。あなたの学校生活が楽しいのは結構、でもレッスンに集中できないなら、その椅子は私がもらう」
厳しい言葉だったが、ちぇりーはその言葉の裏に、凛のグループに対する覚悟と、自分への期待を感じた。
ちぇりーと凛の間に流れる張り詰めた空気を、他のメンバーたちも感じ取っていた。
水無月 希(のん)は、ちぇりーと同じ15歳。ラップスキルが高く、本来はグループのムードメーカーだが、最近はちぇりーを見る目が鋭くなっていた。
「チッ、またちぇりーばっかり映ってるじゃん」
雑誌の撮影で、ちぇりーが単独で表紙の小さな枠を勝ち取ったとき、希は悔しさを隠さずに言った。
「のんちゃん…」葵が心配そうに声をかける。
「だって、おかしいじゃん!私は二年ずっとこのグループのために頑張ってきたのに、韓国から来たばかりのちぇりーが全部持ってくの!才能って言えば全部許されるわけ?」希は、努力が報われない焦燥感に苛まれていた。
一方、ビジュアル担当の赤城 華(はな)は、希とはまた違う複雑な感情を抱いていた。
「ちぇりーの笑顔は、本当に華やかだよね。誰にも真似できない『天性のアイドルスマイル』。私は…華なのに…全然華やかじゃない…!」華は鏡を見つめながら、静かにそう呟いた。
華は地方から上京し、厳しいダイエットとトレーニングで自身の美を磨いてきた努力家だ。
彼女にとって「ビジュアル担当」という役割は、血の滲むような努力の結果だった。しかし、ちぇりーはただそこにいるだけで、すべての視線を集めてしまう。
「私は努力でここにいる。ちぇりーは自然にここにいる」
華は、ちぇりーの存在が、自分のプロとしてのプライドを静かに刺激しているのを感じていた。
グループ内に緊張が走る中、唯一、メンバー間の緩衝材となっていたのが、サブリーダーの星野 葵だった。
葵は、希や華が抱える焦りや嫉妬を理解しつつも、決してちぇりーを非難しなかった。
「みんな、ちぇりーちゃんの才能は認めているよ。でも、私たちはStarlight Wish、5人で一つ。ちぇりーちゃんが輝けば、私たち全員の光が強くなる。お互いの長所を認め合わなきゃ」
葵はレッスン後、希と華を呼び止め、自身が作詞した新曲の歌詞を見せた。その歌詞には、「一人では見えない、五つの光」というメッセージが込められていた。
ちぇりーもまた、メンバーの複雑な感情を肌で感じていた。彼女は、学校では「さくら」として普通の居場所を求める一方で、レッスン場では「ちぇりー」として、メンバー全員から認められるセンターになるという決意を固めた。
(私、逃げない。希も華も、凛も葵も、みんなプロとして真剣に私を見てくれてる。だから、私もプロとして、みんなの努力を裏切らないセンターになる!)
グループ内の軋轢は、まだ小さく、表面化していなかったが、それはやがて、
「ちぇりー」という個人の問題が、「Starlight Wish」というグループ全体の問題へと変わる、大きな波紋の前触れだった。
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