「渡辺君、連絡先…教えてくれませんか?」
少しだけ人当たりが良くなった渡辺の人気は…事務所の中でも上がっていって
後輩に、たまに声を掛けられるまでになっていた
「僕、渡辺君に憧れてて…」
キラキラとした憧れの目で見つめられると
今まで他人との関わりを避けて生きてきた渡辺は…どうして良いか分からない
「ごめん、今スマホ持ってなくて…。でも、そう言ってくれて嬉しいよ、ありがとう」
ズボンの右ポケットに、スマホが入っているのに気付いていながら…苦笑いしてやり過ごす
「はぁ…」
いつまで経っても慣れない自分に、溜息をついて人の居ない場所を探す
「………」
やっぱり、1人は楽だし落ち着ける…
人目を気にしなくて済むし…無理に笑う必要も無い…
自分には、憧れられる様な要素もないし…他のメンバーの様に、何か秀でた才能もある気がしない…
今だ自分が好きになれない渡辺は…突然やって来た事務所内でのモテ期に、戸惑いを隠せないでいた
「しょっぴー、またこんな所に1人で…何してるん?」
隠れて一人でいる所を向井に見つかって、声を掛けられた
「ちょっと、休憩…」
「どうせまた、誰かに話し掛けられたく無くて…隠れてるんやろ?」
「そうだよ、悪い?」
「しょっぴーは、恥ずかしがりなんやね…」
「うるさい」
唯一、向井といる時は気を使わなくて良いので…話しやすいし苦にならない
「俺のトーク力…しょっぴーに、分けてあげたいやりたいなぁ…」
「そんなモノ、俺はいらない…」
下手に喋りが上手くなると…バラエティーやトーク番組の仕事が来そうで、それはそれで面倒くさい
「まぁ、しょっぴーの場合…喋れなくてもイケメンやから、居るだけで…絵になるからな」
「………」
不服そうに口を尖らす渡辺に、向井が呆れた顔をする
「まだ自分の魅力に気付いてへんの?歌声、容姿…運動神経、たくさん色々あるやんか…」
「そんなの、全部…気のせいだし」
「後はな…俺が懐いてるっていう所やな。これは得点高いで〜」
「それ…自分で言ってて、悲しくないか?」
「いや、全く」
メンタルの強い向井に、渡辺は呆れてしまう…
こんな風になれたら、俺も少しは楽になれるか?
その鋼のメンタルを、ほんの少しだけ羨ましく思う渡辺だった
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