「お待ちしておりました聖女様」
神殿につくと、神官らしき老人が出迎えてくれた。
「ちょっと、エトワール様!」
「おえぇ……馬車、もう乗りたくない」
馬車から降りてすぐのところでへたり込んだ私に、リュシオルは駆け寄ってきた。優しく背中を撫でられ、何とか立ち上がることができた。
うぅ……乗り物酔いするタイプじゃないんだけど、馬車の揺れあれは想像以上だった。
「もう、はしゃいじゃって……ちゃんと酔い止め渡したのに飲まなかったのはエトワール様ですからね」
「……ごめんなしゃい」
責めるような視線を向けてくるリュシオルに謝った。
だって、初めて見る馬車に興奮して忘れちゃったんだもん……
そう言い訳したかったが、また何か言われそうな気がしたので口にはしなかった。
「テレポートとかないのかな……」
「テレポートは、ごく僅かな魔道士しか使えないんですよ。それに、テレポートの準備にはとても時間がかかります。複数人になると尚更」
「……もう、馬車乗りたくない。お尻痛い」
ルーメンさんにも宥められてしまい、私はしょんぼりと肩を落とした。二人して、私が馬車酔いしたことに呆れてるんだ。
「あのぅ……聖女様は……」
「お気になさらず。ただの馬車酔いですから。ね、エトワール様!」
オロオロと声をかけてきた神官に、リュシオルは愛想笑いを浮かべながら答えていた。
「ほら、しっかりして巡」
「まだ頭がぐわんぐわんするよ……」
頭を軽く揺すり、気持ち悪さをやり過ごす。
こんな状態で、神殿の中を歩けるのだろうか……そんな不安を抱きつつ、私は重い足取りで歩き出した。
しばらく歩くと、厳かな雰囲気漂う大きな扉が見えてきた。
(ここが……神殿の入り口……金かかってそう)
その迫力に圧倒されながらも、私はゆっくりと中へと入っていった。
中に入ると、正面に大きな祭壇があり、床は大理石のような石でできていて、豪華な彫刻が施された柱が等間隔に並ばれている。
正面の壁には大きく美しい女神と思われるの像が飾られており、部屋の中央には大きな水晶玉が置かれていた。
「気分はよくなりましたか? 聖女様」
「え、ああ…あ、はい。とっても」
神官の言葉に慌てて返事をする。
私の顔色を確認して安心したのか、神官もほっとした表情をしていた。
確かに、神殿の中に入ってから吐き気も頭痛も治まった。なるほど…聖域というだけある。
私は辺りを見渡し、感心しながら部屋を眺めた。
神殿に入るのは初めてだけど、まさかここまで綺麗だとは思わなかった。それに、何だか空気も澄んでいるような気がする。
画面越しにしか見てなかったから、ここまで美しいともはや芸術作品……
「それで早速なのですが、聖女様の魔力の測定をさせていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
私の思考を遮るように、神官は話しかけてきた。
あぁ、そういえばステータスの確認をするとか言っていたっけ。ダメだ、此の世界にきてから記憶がかなり飛んでる。数分前に言われたことすら忘れている。今を生きるのに必死すぎてか、何か知らないけど。
「ど、どうやって測定を?」
「この水晶玉に触れていただければ、魔力の測定が出来ます」
(完全に装飾品だと思ってた。そんな凄いものものだったとは……ま、まあ、部屋の中央にこんなもの普通置いてないか)
ゲームで見たことがあるから知っていたが、実際に見ると何とも不思議な感じがする。
「光魔法の適性があるものは白色に、闇魔法の適性があるものは紫色に光ります。どちらも、光の強さによって魔力量の多寡が分かります」
「な、なるほど」
私は完全に分かったフリをして頷いた。内心魔法という二文字に混乱しているのだが。
確かに、本編のヒロインルートでも同じような場面はあったがあまり魔法云々には触れなかったため、こうして目の前で魔力測定しますとか言われてもあまりぴんとこない。
そもそも、まず此の世界にきて一度も魔法を見たこと無いのだ。召喚は別として。
私がためらっていると、神官は大丈夫ですよ。と優しく微笑んだ。
「聖女様は、予言にあった救世主になるお方なのですから魔力量はそれはそれは膨大なはずです」
神官はそう言ってルーメンさんや、リュシオルを見た。二人は首を縦に振っている。
その神官の期待の目は、私がそれはもう凄い光魔法の才能を、魔力を持っているという目であろう。
しかし、残念なことにヒロインルートを見てきている私にとってエトワールが闇魔法の使い手であることは変えられない事実である。
(絶対がっかりさせちゃうよね……)
此の世界では、闇魔法の魔道士はあまりいい風に思われていない。光と闇相反する存在故に。
「こ、壊れる心配はないんですか? そのこの水晶玉」
「その点はご心配なく。女神から授けられた聖なる物ですから。過去の災厄を救った聖女様でさえも壊せなかったので」
神官は笑顔でそう言った。
(うーん……まあ、壊したら弁償って言われても無理だし……)
過去の災厄、聖女のワードに引っかかりつつもそれは後々聞けばいいと思い私は、恐る恐る水晶に触れる。ひんやりした冷たさが手の平に伝わってくる。
「……え!?」
私が触れたと同時に、水晶玉は青白く光り初め、光はどんどん強くなり、やがて視界を覆いつくすほどの眩しさに変わった。
そして――――……
「きゃあぁ――――ッ!」
突然、耳をつんざくような轟音と共に神殿全体が揺れ、目の前の水晶玉が木っ端微塵に砕けた。
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