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私の名前は、天川秋人(あまかわ あきひと)。どこにでもいるような高校二年生だ。成績は中の上くらい。運動は苦手だが、体育の授業には真面目に取り組む。友達は少なくはないが、多いと言うほどでもない。
家族は父さんと母さんの三人暮らし。父さんの仕事の都合で転校が多く、その度に新しい学校に馴染むまでに苦労してきたから、そろそろ落ち着いてほしいと思う。
趣味と呼べるほどの趣味はないが、読書だけはよくしている。本を読むのが好きなのかと言われると、正直わからない。ただ他にやりたいことも思いつかないし、学校帰りに書店へ寄って適当な文庫本を一冊買うというのが日課になっている。
そんな私が今ハマっているものがある。それはVRMMORPG『ソードアートオンライン』略してSAOと呼ばれるゲームだった。
最初はβテストに参加しただけなのだけど、あまりのリアルさにすっかり虜になってしまったのだ。正式サービスが始まってからは毎日ログインしてプレイしていたのだが……今日はいつもと様子が違った。
「えっと、これはどういう状況?」
目が覚めたら、そこは見知らぬ部屋だった。
ベッドから起き上がり、辺りを見渡す。
知らない景色だ。
「ここはどこ?」
僕はそう呟きながら記憶を探る。
しかし、何も思い出せなかった。
僕の名前は確か……あれ? どうして思い出せないんだろう? 自分の名前すらわからないなんて……。
そんなことを考えているうちに、だんだんと腹が立ってきた。
(あいつらは俺のことをバカにしているんだ)
そう思うと悔しくて、恥ずかしかった。
「もういい!お前らなんて知らん!」
「え!?ちょっと待てよ!!」
「…………」
「おい!無視すんなって!」
僕は振り返らずに歩き出した。後ろから僕を呼ぶ声が聞こえるけれど、立ち止まるつもりはない。しばらく歩いていると、急に僕の足音以外の音が聞こえなくなった。不思議に思って辺りを見回すと、いつの間にか周囲は霧に包まれていた。濃密に立ち込める白い闇の向こうには誰もいない。その瞬間、何かが壊れるような小さな音をたてて、世界が崩れ落ちたような気がした。
少年が見たものは、幻覚だったのか? それを確かめる術はないが、少なくとも、それが真実ではなかったことだけは確かだ。
そうでなければ、今ここに彼がいることの説明ができない。
彼はもう二度と振り向かない。
自分が、既に人ではないことを自覚しているからだ。
たとえ誰かとすれ違ったとしても、それは自分の知る人物ではなく、かつて親しかった人々なのだということを理解していた。だから決して振り返らないし、立ち止まってもいけない。
彼はどこまでも歩いていく。
己の居場所を求めて彷徨う旅人のように。
そしていつか、自分が何者かを知るために。
今日もまた、誰かの笑顔のために、自分の存在理由を探す。
しかし、そんな彼を、人々はこう呼ぶのだ……。
「プリズムコレクター」と……。