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理想
中学三年の冬。時間は平等に与えられている、と担任がよく言っていた。嘘だ。あくまで例えばの話だが、両親と自分の三人で暮らしているAさんがいたとする。それに比べBさんは母親と自分、妹に弟。ましてや下の子がまだ幼い。二人を比べたとき、自分に使える時間が多いのは前者だと言える。それでも時間は平等に与えられていると、言い切れるのだろうか。いつだって不平等な時間だけが、平等に与えられている。
「私立高校を、推薦で受けないか。」
顧問と担任にそう言われた。私は吹奏楽部に所属していた。日々怒鳴られ、あまりメンタルが強くなかった私は以前自殺未遂をしたことがある。だけどそれは、誰も知らない。家族でさえ。誰にも話さなかった。話せなかった。
推薦で高校を受けた。合格した。でも、怒られた。学費はどうするのか、部費はどうするのか。三教科の試験と面接を終えた末、合格した。ただ、褒めてほしかった。認めてほしかった。推薦を推してきたのは、そっちじゃないか。本当は通信制高校を受験したかった。そんなこと今更言えない。言っても変わらない。そんな現実に嫌気がさしていた。
母親と話がしたかった。できなかった。お金のことになるとすぐに怒鳴るような母親だ。通信の話は一度だけした。きっとわかってくれると思っていた。だって私の母親なのだから。だけどそれは私の妄想であり幻想にすぎなかった。
「通信制なんか、不登校か病気の人が行くところでしょう。」
あまりにも偏見がすぎる。その考えに吐き気がした。それから話すのは諦めた。この人には何を言ってもだめなんだろうと、そう感じた。
実の娘の話を真摯に聞いて向き合って。提案しあって。より良い方法はないかと探り合ってくれる。そんな母親が私の理想だった。父親はいない。いたけれど、もう思い出せない。家を出ていったのが母親だということは知っている。頼りになる父親と話し合いができる母親。それだけでよかった。単純に愛されたかっただけなのかもしれない。