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#契約結婚
鷹槻れん

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#第4回テノコン
れの
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※このお話は『コノカレ』の本編「34.例えキミがどんなにダメだと言っても」の裏話的な短編です。
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【スパークリングワインで乾杯】
「何でこんなことに」
ひとり眉根を寄せてつぶやいた宗親だったけれど、彼にしがみついた春凪は一向に引き剥がせそうにない。
「引っ越し祝いにスパークリングワインでもどうですか?」
誘いかけたのは確かに宗親のほうで、
「えっ。宗親さんと飲むとろくなことがないので嫌です」
渋ったのは春凪だったはずなのだ。
なのに――。
いつか春凪が自分の出した取り寄せのつまみを随分美味しそうに食べたのを思い出した宗親は、今日も彼女を唆すために旨いものを振る舞ってもいいかなという気持ちになった。
実は宗親自身、言葉にはしないけれど同居に至るまでの間、春凪にきつく当たり過ぎてしまったかな?という反省もあったから、今日くらいは甘やかすのも有りかな、とか思ったりしたのだ。
「美味しいつまみもありますよ?」
言って、キッチンにチーズの盛り合わせ3種――グリュイエール、ブリー、クリームチーズ――、生ハム、ドライマンゴー、日向夏とオレンジのフルーツジャムを並べて、ついでにワインのために作られたとかいう、1枚1枚手焼きの〝モンドヴィーノ・クラッカー〟も1箱添える。
どれも辛口のスパークリングワインに合うという触れ込みだ。
それらを見た途端、春凪の目の色が変わったのが分かった。
「私、チーズ大好きなんですっ!」
ワインには釣られなかった彼女は、しかし天板上に並べられたチーズに目をキラキラと輝かせて。
その期待に満ち溢れた大きな目を見て、宗親は内心「ちょろいな」と思ったのだ。
初めて彼女をこの部屋に招き入れた時のようにソファーに座らせると、
「僕が準備しますのでキミはそこでおとなしく待っていてください」
と、これまたあの日と同じような言葉を投げかける。
宗親は、基本的にキッチンに立つのは嫌いではない。
だからと言って、自分の城を汚すなとは思わないのだけれど、今日ぐらいはまぁ、自分がもてなしてやってもいいかなと思ったのだ。
明日からは春凪にも少しずつ料理をさせてみて、お手並み拝見といこうじゃないか、とか思っていたりもする。
「わ、私もお手伝いしますよっ!?」
やはりいつかと同じようにソワソワとこちらを窺う春凪に、「明日からは柴田さんにもあれこれやってもらいますから、今日のところは大人しくもてなされていなさい」と、わざと苗字で呼んで上司口調で命令を下す。
「しょ、承知いたしました」
途端まるで条件反射のように春凪がソファーの上でピシッと居住まいを正すのが見えて、宗親は思わず小さく口の端を引き上げた。
(やっぱりこの娘は面白い)
そんなことを思いつつ。
よく冷えたスパークリングワインのボトルを、氷たっぷりのワインクーラーに入れて、皿に盛り分けたつまみと一緒にソファー前のローテーブルの上に置く。
「とりあえず、これから宜しくお願いしますね、柴田春凪さん」
彼女のすぐ横に腰掛けて、わざとフルネームで春凪の名を呼ぶと、細かな気泡の立ちのぼるワインが注ぎ分けられたシャンパングラスの片側を差し出す。
おずおずと言った様子で、春凪がそれを受け取ったと同時。
「乾杯」
軽くグラスを掲げて宗親が告げると、春凪は宗親の目を一瞬だけ見つめて「乾杯」と応えてグラスを首の辺りまで持ち上げてみせた。
(そう、こういうところ)
時折春凪が見せる、マナーをよくわきまえたこんな振る舞いが、宗親の心を堪らなくくすぐることがあるのだと言うことに、彼女自身気付いているだろうか。
ビールジョッキを合わせるみたいにカチンと音を立ててグラスを合わせようとしてこなかった春凪に、宗親は内心ほくそ笑む。
(合格ですよ、春凪)
端々で、自分が一緒に生活を共にする伴侶として、春凪を再教育せねばならないところがあるかどうか密かにチェックしている宗親だ。
今日、春凪が好きなビールではなく、ワインを祝いの席に用意したのだって、実は乾杯の時の彼女の振る舞いが見たかったからに他ならない。
「さぁ、遠慮なくどうぞ。ここからは無礼講です」
何気なく言ったら、春凪が「今までは違ったみたいな言い方ですね?」と疑うような目で宗親を睨みつけてきて。
時折こんな風に勘の鋭さを垣間見せるところがあるのも、宗親的には好ましい。
「ちょろいところがあるくせに、時折見せるキミのそういうところ、僕はとても高く評価していますよ」
クスッと笑ったら、「褒めるか貶すかどっちかにしてください」と溜め息を落とされた。
【コアラと大木】
「私、同居するからには家の中れは宗親しゃんのこと、上司とは思わないようにしますのれ。覚悟してくらはいね」
グラスに3杯目のスパークリングワインを飲み干しながら、春凪がどこか目の据わった表情で宗親をじっと見つめてくる。
「好みのお顔だかりゃって、容赦はしないのれす」
いつもなら「好みのお顔すぎてしんどいので、こっち見ないでください!」とか何とか言って視線をそらす春凪が、自分を真っ直ぐに見つめてくることに宗親は瞳を見開いた。
それに明らかに呂律が回っていないこの舌っ足らずぶり。
「酔ってますか?」
分かっていたけれど、つい確認せずにはいられない。
真の酔っ払いならここで――。
「酔ってないれしゅ。失礼しちゃいましゅね」
そう。こんな風に酔ってないと豪語するのだ。
「完璧に酔ってますね。――グラス、取りますよ」
ふらりふらりと揺れる身体を支えるようにして、春凪の手からグラスを抜き取ってテーブルの上に乗せたら、いきなりギュッとしがみつかれてしまった。
「ちょっ、春凪っ!?」
呼びかけてみるけれど「えへへ。捕まえましたぁ〜」とふにゃふにゃ笑うばかり。
あまりにしっかりしがみつかれてしまって、「据え膳食わぬは男の恥ですよね?」とキスのひとつでもしてやろうか思ってみた宗親だったけれど、悲しいことにその隙がない。
「春凪。少し僕から離れませんか?」
呼びかけて見たけれど「お断りしまぁ〜す♡」とクスクス笑われてしまった。
仕方なくソファーの上、宗親は春凪の皮を被ったコアラにしがみつかれた大木みたいに、所在なく座っていることしか出来なくて。
ややして、スゥースゥーと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた時には、盛大に溜め息のこぼれてしまった宗親である。
だけど、何故か不思議と寝落ちして緩んできた春凪の手を振り解く気にはなれなくて……。
「僕の気も知らないで」
ひとり眉根を寄せてつぶやいてみた宗親だったけれど、その表情とは裏腹、本心ではそんなに腹立たしく思ってはいないのも確かだった。
いや、それどころかむしろ――。
弱みを握って妻になることを承諾させた負い目もあるし、それに宗親にも春凪にだけは知られたくない秘密があるから――。
たまにはこの歳の離れた春凪のことを、こんな風に分かりやすく甘やかしてみるのも悪くないかな、とか思う宗親だった。
END(2021/05/02)
コメント
2件
はなちゃん、お酒飲んだらダメな人だ(笑)
うわあ、この甘々な空間……。仕事モードの宗親さんがふと見せる、柴田さんへの細やかな気配りと「育成ゲーム感覚」みたいな視点にニヤニヤしてしまいました。彼女が酔ってコアラみたいにしがみつくラスト、もう「離せない」って本音がダダ漏れな宗親さんが可愛すぎます。スパークリングワインとチーズの描写もおしゃれで、二人の距離が確かに縮まっていく空気がよく出てました!