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テオは静かに溜息ためいきをつき、意を決したように喋り始める。


「……タクトは、【鑑定】使えるんだよな?」

「何で知ってんだよ!」

「後で説明する。直接見てもらったほうが早いと思うんだ。俺が【偽装】で『10歳の時のステータス』を再現するから、タクトはそれを【鑑定】してよ」

「ってかお前【偽装】使えるのか?! あれ、ものすごくレアなスキルって聞いたんだけど」


【偽装LV1】は、自身のステータス項目を任意の内容に見せかけられるスキルだ。

原初の神殿でエレノイアに教えてもらった情報では、【偽装使用者はごく限られた人物に限られる上、このスキルの存在自体知られていないという話だったはずなんだが……?



「そういうタクトも使えるんだろ、【偽装】」

「?! お前、それも知ってるのか……!」

「まぁ後で全部まとめて説明するからさ…………うん、これでよし。タクト、俺に【鑑定】かけてよ」

「……分かった」


テオを【鑑定】し、表示されたステータスウィンドウをのぞき込む。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

名前 テオドーロ・コーディー

種族 人間

称号 器用貧乏

状態 健康

LV 12


■基本能力■

HP/最大HP 78/78

MP/最大MP 65/65

物理攻撃 18

物理防御 10

魔術攻撃 25

魔術防御 12


■スキル■

万能術LV5★

いばらの道LV5★

(※以下全てLV1のスキル、多すぎるため略)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「へ?! な、なんだ、このスキルの数!!」

俺は自分の目を疑った。


ウィンドウを何度スクロールしても終わりが見えないほどの、大量のスキル。

加えて『器用貧乏』というゲームでは見た事が無い称号。



「テオ、これのどこが『可能性ほぼゼロ』だよ! 数えきれないぐらいスキルを持ってるとか、可能性のかたまりじゃないか!」

「……称号とスキルの、詳細も見れば分かるって」

悲しそうに言うテオ。


半信半疑ながらも、続けてステータスの詳細を確認してみる。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

名前 テオドーロ・コーディー

種族 人間

称号 器用貧乏:大成しにくい器用人


■スキル■

<称号『器用貧乏』にて解放>

万能術LV5★:称号・アイテムのみで解放可能な固有スキルを除く、全スキルを習得

いばらの道LV5★:スキルのLVアップに必要な熟練値が、100万倍になる

<スキルにて解放>

(※以下全てLV1のスキル、多すぎるため略)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「……ひゃくまんばい……? え、熟練値が100万倍必要ってなんだよ?!」

俺はようやく、かつてテオに突き付けられた“残酷な事実”を理解し始めた。



スキルにおけるLVは、基本5段階である。

LVごとの強さはスキルごとに定義が違うが、大まかにはこのような感じだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

●スキル無し:素質一切なし

●LV1:少しスキルを使える程度の『初級者』

●LV2:スキルをまあまあ使える『中級者』

●LV3:一人前の『上級者』

●LV4:国宝級の『名人』

●LV5★:世界屈指の『達人』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

スキルを使うと『熟練値』を貯めることができる。

そして熟練値を一定値貯めると、スキルLVが次の段階へアップする。


仮に『普通の人』が、スキルLVを1段階アップするのに『1ヶ月』かかるとするとしよう。

その100万倍だと『100万ヶ月』、つまり『およそ8万年』。

普通にやっていては、一生かかってもスキルLVアップは不可能だ。



テオは少しうつむいたまま、再びぽつぽつと語り始める。

「確かに、称号のおかげで沢山の素質スキルを生まれ持ったよ。でも、そのままじゃ全部『LV1:初級者レベルの技』ばかりなんだ。周りみるとさ、誰でもひとつはスキル持ってて、普通にスキルを使っていけば、『LV3:一人前レベルの技』ぐらいまでは割と簡単にあげられるんだよ、俺と違って……」

何よりもスキルがものをいうこの世界。なのに彼は、どの可能性も極めることが不可能で――

――まさに「“器用貧乏な人生」を10歳にして運命づけられてしまったと言える。



「……でもさ」

顔を上げるテオ。

「ある人に言われたんだ。『決して上手くはないけれど、テオの歌には何か味があるな。俺は好きだぞ』って。すごく……すっごく嬉しくて……だから決めたんだ。俺の歌で、皆を笑顔にしようって!」


その後テオは、たまたまその街に立ち寄っていた冒険者パーティに頼み込んで同行させてもらい、家出同然で冒険者として生活を始めた。

駆け出し冒険者としての少ない稼ぎで楽器を買い、独学で歌を作るようになると、冒険者ギルドの依頼クエストをこなす合間を見つけては、街角で歌い続けていた。


そんな生活を何年も続けるうち、テオにある変化が現れたのだという。





「ステータスの【偽装】は解除したからさ。もう1回、俺を鑑定してみてよ!」


笑顔のテオに言われた通り、再度【鑑定】スキルを使う。

ついでに詳細も出しておく。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

名前 テオドーロ・コーディー

種族 人間

称号 吟遊詩人:詩や曲を作り歌い奏《かな》で続ける者に与えられる

器用貧乏:大成しにくい器用人

状態 健康

LV 38


■基本能力■

HP/最大HP 376/376

MP/最大MP 342/342

物理攻撃 151+36

物理防御 84+54

魔術攻撃 177+20

魔術防御 91+54


■スキル■

<称号『吟遊詩人』にて解放>

なし

<称号『器用貧乏』にて解放>

万能術LV5★:称号・アイテムのみで解放可能な固有スキルを除く、全スキルを習得

茨《いばら》の道LV5★:全スキルのLVアップに必要な熟練値が100万倍になる

<スキルにて解放>

(※以下全てLV1、多すぎるため略)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「あ、称号に『吟遊詩人』って付いた!」

「そのとおりっ!」


普通『称号』は、自分で名乗りはじめるものじゃない。

何かを成し遂げた証、何かを認める証として与えられるものなのだ。


「……テオ、ほんとに頑張ったんだな」

照れくさそうに「えへへ」と笑うテオ。

俺もつられて笑う。


何だか“良い話っぽい雰囲気”になっていたのだが――





ふと、気がついた。

「……あれ? 結局その『皆を笑顔にしたいって夢』と『テオが俺に付きまとってるの』とに、何の関係があるんだよ?」


「え、タクトが勇者だからに決まってんじゃん」

さも当たり前かのように答えるテオ。


「いやだから、そこが一番知りたいんだって!」

「わかれよ」

「わかんねぇよ!」

「なんでだよ!」

「俺が聞いてんだよッ!!」


しばらく同じようなやりとりを繰り返す。

このままじゃらちが明かないとさとった俺は、話の切り口を変えることにした。



「……ところでさ、テオは夢を追いかけてる最中さいちゅうなんだろ?」

「もちろん全力で追っかけ中!」

「追いかけるために、具体的には何をしてるんだ?」

「とにかく歌を作りまくってるよ」

「へぇ、今までどんな歌を作ってきたんだ?」

「んっと……歌の題材は、景色が綺麗だなぁとか、ふと思ったこととか、旅先で会った人に聞いた話とか……でもやっぱり今は、勇者を題材にした歌を作りたいんだ!

「え、なんで?」

「だって魔王が復活したんだぜ? まだエイバス辺りまではあまり侵略されてないから割と平和っぽいけどさ、世界の西のほうというか……魔王城に近づけば近づくほど、皆の顔から笑顔が消えてたんだ……」


悲しそうな顔になるテオ。


「テオ、お前……実際に見てきたのか?」

「……うん」

テオは遠い目をしながら、話を続ける。

「魔王が復活してすぐの頃は、冒険者として魔王城近くで魔物の討伐に参加してたんだよ。でも俺、戦闘力は高いほうじゃないから、逆に足手まといになっちゃって…………だから、自分にできるのは何だろうって考えたんだ。そんな時、大人も子供も冒険者も街の人も含めて皆が、合言葉みたいに言ってたんだ。『伝説の勇者様は、絶対にいらしてくださる。それまで俺達で持ちこたえるぞ!』って」



――勇者。

魔王に対抗できる、唯一の存在。

そして人々に残された、唯一の希望。


俺の頭の中で、色んな点と点が繋がり1本の線になった。



「あ、もしかして――」

そう! 俺は勇者を題材にした歌を作って皆に聴かせたいって思ったんだ。そのために各地に残された勇者伝説を調べてたら、500年前に勇者が初めて現れた場所は『原初の神殿』だったって分かって。だから神殿に1番近いエイバスの冒険者ギルドを拠点にしてれば、本物の勇者に会える確率が高いんじゃないかと踏んだのさっ!」



その言葉を聞きながら、俺はゲームの中のテオを思い出していた。


勇者プレイヤーに出会ったあと、各地を転々としながら『勇者の様々な偉業がテーマの自作曲』を街角で歌うテオ

それこそ世界中の色んな街で、場合によっては魔王城の中で。

どの街でも、歌い続けるテオの周りを、笑顔の人々が囲んでいた。

トラブルを巻き起こす問題行動の数々も、テオなりに人々の為を思って空回りして……ほんの少し彼が不器用過ぎたからこその結果だったような気もしなくもない。



「で、依頼クエストを時々こなしながら、エイバスの街で情報収集を続けてたら、まさか勇者のほうから俺に話しかけてくるなんて……ほんとビックリだよねー」

「それなんだけどさ、テオはなんで俺が勇者だって分かったんだ? 一応【偽装】スキルでステータスは隠してたはずなんだけど」

「言ったろ? 勇者が現れる場所は神殿だってリサーチ済みだって。あんな身の上話されたら怪しむに決まってんじゃん! ただ最初に話した時はまだ、タクトが勇者かどうかは確信持てなかったんだよねー。【鑑定】してみても『見習い剣士』としか出ないけど、ステータス自体に細工してる可能性も考えられるしさ……だから、“奥の手”を使ったのさ!」


ニヤッと笑うテオ。


「奥の手ってなんだよ?」

「俺あの時、『2時間ぐらい待って出直せ』って言ったよな?」

「うん」

「さぁここで問題です! その2時間、俺はいったい何をしていたでしょ~か?」


「……あ! テオ……お前まさか、原初の神殿に――」

「せいかーい!!」



冒険者ギルドで俺と初対面を果たしたテオは、急いで神殿へと向かったという。

エイバスから神殿まではゆっくり歩いても片道1時間。成人男性が走って向かえば片道20分程度もあれば余裕で到着するのだ。

テオが神殿に着くと、中庭で妙に嬉しそうな顔で【水魔術】の練習をしているイアンを見かけたので声をかけた。


「え? テオってイアンとも知り合いだったのか?」

依頼クエスト関係で色々あってね。それで……」


テオによれば、勇者の事をそれとなく聞いても、イアンはとぼけていた。

だが、ちょっと“鎌”をかけてやると、勇者が神殿に来てから旅立つまで何があったのかを事細かに教えてくれたとのこと。


「【光魔術】が『男の約束』かぁ~。いいねぇ、青春だね~♪

「うっ……イアンの馬鹿バカ……そこまで喋んじゃねぇよ……」

「あはははー」


からかうテオ。

思い出して恥ずかしくなる俺。


「勇者って身分を隠して修行するのは、エレノイア発案らしいね。まぁ元はと言えば、俺が【偽装】スキルについて話しておいたおかげだよな!」

「え? エレノイア様に【偽装】の存在を教えたのってテオだったのか?」

「生まれつき使えたスキル一覧の中に【偽装】も入ってたから、気になって色々調べてみたんだよねー。まぁそもそもこのスキル自体知らない人が多かったり、知ってても必死に隠そうとしたりで、あんまり世間には広めないほうがいいと思ってたんだけど……でもエレノイアは賢いし、知識を悪用するような子じゃないし、職業柄【偽装】の存在自体は教えたほうがいいかなと思ってさ」

「そういうことか……」


そもそもエレノイアの情報源がテオだったのだ。

そういう経緯なら、そりゃテオは【偽装】も使えるし、【偽装】についても知ってるよなと納得する。


テオの持つ称号『器用貧乏』で解放される【万能術LV5★】は、称号・アイテムのみで解放可能な固有スキルを除く、全スキルを習得できるスキルである。

裏を返せば【万能術LV5★】で解放可能なスキルは、「固定の称号やアイテムに頼らずとも何らかの習得方法が存在する、習得可能なスキル」だということ。


ゲームで見た事がない『器用貧乏』という称号の影響で、おそらくテオは他にも独自の知識を持っているのだろう。

中には、俺含めゲーム『Braveブレイブ Rebirthリバース』を検証し続けてきたプレイヤー達ですら知りえないような“極秘情報”も多数存在するかもしれない――


――その可能性に気づいてしまった俺は、思わず喉をゴクリと鳴らす。



「というわけで、俺もエレノイアの作戦に全力で協力させてもらうぜ!」

「はぁ?! じゃあ何で『あのことバラす』とか言ったんだよ、しばらく生きた心地しなかったんだぞ」

「タクトが悪いんじゃないか」

「なんでだよ!」

「考えてもみろよ。俺はこの半年間、勇者に直接会う、ただそれだけのために、この世界を端から端まで駆けずり回ってきたんだぞ!! そんで今朝タクトに偶然出会って、念のため神殿に確かめに行って、やっぱり勇者だって確信して……どんだけ嬉しかったと思ってんだ…………それなのに! お前というヤツはっ!!!


俺をビシッと指さすテオ。


「なんで俺の事、避けようとすんだよっ!! 今日初めて会ったばっかだぞ? しかも初対面の時はギルドの事も丁寧に教えたし、感謝こそされても嫌われる筋合いないじゃんッッ!!」

「えっと……それは……」

まさか『架空世界ゲームの中で、元々テオの事はよく知ってました』なんて言えない。言えるわけもない。


一瞬悩んで出した答えは……。



「……野生の、勘?」


「ひでえッ!!!」

「すいませんでした、テオさんッ!」

思わず大声で叫ぶテオ。

返す言葉もない俺は即座に土下座。



「…………まぁ……いいんだけどさ」

テオはクスッと笑った。





2人それぞれ色んな事を考えながら、すっかり冷めてしまった昼食を食べる。



「あッ!!」

沈黙を破ったのは俺だった。



「な、なんだよ急に?」

突然の声に驚くテオ。


「テオ、お前……強くなれるかも!!」

「何言ってんだ。スキルLV上げるのがほぼ無理なのに強くなんてなれるわけ――」

「いるんだよ! 全部のスキルが『LV1』の状態で……凄く強くなった奴がッ!!」

「え……」



俺が思い出したのは、ゲーム攻略サイトのあるプロジェクトの掲示板にUPされていた、1人の女性プレイヤーによる『制限縛りプレイ日記』。

そこには、彼女が「自らが操作する勇者キャラのスキルをLV1から上げないようにする」という自主的な制限、つまり『制限縛り』のもと、魔王討伐ゲームクリアを成し遂げるまでの『地道な努力の日々』が記されていたのだ。

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