テラーノベル
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森の中の開けた場所。
手早く昼食を終えた俺たち2人は、早速テオの魔術の強化方法を模索し始めた。
「テオは火・水・風・土属性の魔術スキルは習得してるってことだったけど、それぞれの属性の球系魔術は、ひととおり使えるか?」
「もちろんいけるよー」
通称『球系』。
魔力を球形にして具現化する術式だ。
ゲームでも、「魔術を覚えた者がまず練習する術式」といわれる基本中の基本。
俺が初めて使う【光魔術】として、『光球』を選んだ理由もそこにある。
「じゃあテオ、試しに球系でどれか使ってみせてよ」
「OK、水球!」
――シャラッ
テオの指先に渦巻くように現れたのは、直径10cmほどの水の球。
「無詠唱で即発動って……まじかよ……」
俺は度肝を抜かれてしまった。
Brave Rebirthの『魔術』とは、『精霊』の力を借りて発動する術である。
術者のイメージを伝えるために、節をつけて唱える言葉を『詠唱』と呼ぶ。
ただし、あくまでゲーム内の“設定”だ。
オプションで「詠唱のON/OFF」を選ぶこともできる。
発動が早いほうが戦闘で有利だし、設定のデフォルトは『無詠唱』。
もっとも「詠唱こそがかっこいいんだろ、省略なんてありえないッ!!」と熱く主張するプレイヤーも一定数はいたけどな。
そんなゲームの常識は、現実だと全く通用しなかった。
俺が【光魔術】を使ったとき、詠唱の省略どころか、かなり時間をかけて集中したりイメージを固めたりしなければ、術の発動自体すらも危うかったのだ。
対してテオは『無詠唱』で魔術を発動させた。
つまり言葉に頼ることなく、一瞬で精霊にイメージを伝えきったということ。
――俺は素直に、すごいと思った。
「なぁテオ、元から無詠唱で魔術を使えたわけじゃないよな?」
「うん。最初は発動すらできなかったよ」
「けっこう練習したのか?」
「まぁね! じゃあ術を解除するぞー」
宙にふわふわ浮いていた球体は、テオが解除した途端“ただの水”に戻って落下。
そのまま地面へと吸い込まれていった。
「へぇ……現実では術式を解除しても、魔術で出したものは残るのか」
ゲームだと『術式解除=具現化した物は消滅』が当たり前だったのを思い出す。
「意識して消さない限りは残るよ。だから【水魔術】や【火魔術】の使い手は、旅の冒険者パーティで重宝されるんだよね!」
「なんで?」
「あちこち旅してると、どうしても野宿が多くなるだろ? そんな時、水や火を出せると旅の快適さが全然違うってわけ」
確かに、飲み水にも料理にも便利だもんな。
「……だったら両方使えるテオは大人気じゃん」
にゃみ3
526
#チート能力
厨二病の創破
98
#ロマンスファンタジー
百はな🍑
4,290
#婚約破棄
霞花怜
322
「生活面ではね。俺の場合、スキルが全部LV1だからさ……戦闘じゃ使い物にならないんだけど」
「そんなことないさ! 今から証明してやるよ」
寂しそうな笑顔のテオを励ますよう、俺は明るく笑った。
ゲームの魔術スキルは、LV1でもLV5★でも使える術式の種類は変わらない。
影響するのは『最大威力』のみである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
●魔術LV1:最大威力1倍
●魔術LV2:最大威力8倍(2×2×2倍)
●魔術LV3:最大威力27倍(3×3×3倍)
●魔術LV4:最大威力64倍(4×4×4倍)
●魔術LV5★:最大威力125倍(5×5×5倍)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なお有志の研究によれば、球系の直径サイズはスキルLVに比例する。
つまりLV3の『水球』は、最大でLV1の27倍の体積ということ。
他の術式もサイズ増減はほぼ同じ。「具現化できる物の体積がスキルLVの3乗に比例するから、そのぶん与えるダメージが増える」って説が有力だ。
魔術の威力を強化するなら、普通はスキルLVを上げることになる。
だが、俺が思い出した1人のプレイヤー。
彼女は「勇者のスキルをLV1から上げない」という制限を設けた『縛りプレイ』の元で魔王討伐を成し遂げた。
そのために、普通ならやらない面倒な方法を極めたのである。
「テオは【魔術合成】っていうスキルを知ってるか?」
「いや、初めて聞いた」
「だろうな……でも【万能術】を持ってるなら、たぶん習得してるはずだぞ」
「確認してみる」
テオはスキル欄を開くと、画面をスクロールし始めた。
【万能術LV5★】は、固有のものを除く全スキルを習得するというスキルだ。
その習得数が多すぎて、本人すら把握しきれていないようだが。
「……あっ、習得してた!」
俺の読みは当たったようだ。
表示されたスキル詳細を確認しつつ、テオは首をかしげる。
「【魔術合成LV1】の効果は『複数の魔術を合成できる』って書いてあるけど……いまいちピンとこないな~」
「ああ、それはな――」
本来、1つの魔術には1つの属性しか入れ込めない。
その鉄則を破れるスキルが【魔術合成】である。
別に発動した2つ以上の術式を合成し、特性融合・効力倍増などを狙えるのだ。
ゲームでは、とある依頼をこなすと、報酬として習得できる。
だけど依頼者は辺境に住んでいるし、他からこの話題が出ることもない。
結果、プレイヤーからはレア扱いとなっていた。
ただしはっきり言って、わざわざ合成するメリットはあまりない。
あまりにも、デメリットが多すぎる。
ゲームで普通に魔術を使う場合は、ボタン1つで確実に発動できる。
対して合成する場合、以下のように複雑な操作をしなければならなくなる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1つめの魔術を発動
→魔術の威力調整
→2つめの魔術を発動
→魔術の威力調整
→スキル【魔術合成】発動
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しかも魔術の威力調整は、操作がリズムゲームに近い。
決められたコマンドを、タイミングを合わせて入力する必要がある。
ほんの少しでも間違えると、狙った効果が出ないどころか、魔術が暴走して自分にダメージが跳ね返ることもあるなど、失敗リスクが非常に高いのだ。
なお、やろうと思えば10でも20でも制限なく合成できる。
しかし数が増えれば増えるほど操作は難しくなる。
2つの時点で、既に難易度が高い。
それ以上ともなると、普通のプレイヤーならお手上げだ。
俺も試したが、すぐにやめてしまった。
かかる手間と時間とリスクに対し、見返りが釣り合わなかったのである。
だが魔術スキルLV1のまま火力を出す、という前提なら話は別だ。
――【魔術合成】こそが、唯一の解決策なのだから。
「……と、はっきり言って実戦で使いこなすのが難しいんだよ」
「なるほどねぇ……」
ゲーム特有の諸々をごまかし解説すると、テオは難しい顔で考え込んでいた。
「どうするテオ? 無理に挑戦しなくてもいいんだぞ?」
「いや。せっかくだからやってみたい!」
テオの決意は固いようだ。
なら俺も、ちゃんと教えてやんないとな……!
「合成で最も大事になってくるのは『威力調整の精度』なんだけど……テオはどれぐらいの精度で調整できるんだ?」
「割と得意だよっ。特に【火魔術】は調整できると料理とかに便利なんだよね~」
「やってみせてくれるか?」
森の木々に火が燃え移らないよう陣取ってから、テオは【火魔術】を使う。
「火球」
――ボワッ
人差し指の先に現れたのは、直径10cmぐらいの真っ赤な火の球。
軽く説明しながら、テオはその威力を調整していく。
「これが俺の最大火力。炒め物がおいしく作れる強火だな。こっから少しずつ弱めていくぞ。続いては中火。食材を焦がさずに火を通すには1番使い勝手がいい火加減だっ! で、お次は弱火。長く煮込みたい時なんかに便利だな。最後はとろ火。スープなんかの保温に使えるすごく弱い火だぜ」
「……ああ」
コントロールの正確さに感心しつつも……俺は何だか、切ない気分になった。
ここまで細かくテオが調整できるようになるまで、相当な修練を積んだはずだ。
だけど、そんな威力じゃ、強い魔物には通用しない。
例えが全て『料理の火加減』だったあたり、彼の魔術が役立ったのは、本当に生活面がメインだったことは想像できる。
――強くなることへの憧れを、人一倍持つテオ。
いったい彼はどんな思いで修練し、どんな思いで魔術を使ってきたのだろう。
そんなことを考えていると、テオが声をかけてきた。
「今の威力調整、どうだった?」
「ここまで正確にできる奴は初めて見たよ……お前、けっこう凄いな」
「えへへ」
嬉しそうに笑うテオ。
「じゃあこっからは実践に入るぞ。まずは『同じ属性の魔術2つ』の合成だ」
「おう!」
同じ属性同士2つまでなら、威力調整ミスによる失敗判定が発生しない。
リスクがないぶん最初に試すにはぴったりだ。
わざわざ【魔術合成】するメリットもないのだが……テオの場合は特殊だな。
まずはテオに、両手それぞれ火球を1つずつ出してもらった。
どちらも最大威力だ。
「テオ、もしこの同じ威力の火球2つをぶつけたら、何が起こるか分かるか?」
「相殺して、消えるっ」
「普通はそうだな。だけど【魔術合成】を使うと、面白いことになるんだ!」
ゲーム内の動きや操作を思い出しながら、俺はやり方を教えていく。
「今、両手に火球を1つずつ持ってる状態だな」
「うん」
「ベースは左手。合成素材が右手。ここで【魔術合成】を発動し、ベースの『火球』に、素材の『火球』をぶつける。これでOKだ」
「いくよっ、【魔術合成】!」
スキルを発動したテオが、左の『火球』に、右の『火球』を勢いよくぶつける!
――ゴオゥッ!
瞬間、左手の球体がもう一方を吸収した。
赤く燃え上がってうねり、ひとまわり大きな火球へ姿を変えたのだ。
「おおっ、すげぇ!」
素直にテンションを上げるテオ。
「大きさだけじゃなくて、これで火球の威力は元の2倍になったはずだ」
「2倍!?」
「驚くのはまだ早いぞ。【魔術合成】の凄さはこっからだからな!」
威力が上がったとはいえ、せいぜい2倍。
魔術師の基準となる『魔術LV3の威力/27倍』には遠く及ばない。
だけどこれから教えることを習得できれば……いや、テオならできる。確実に。
――何となく、そんな気がした。
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