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~始まって間もない春~ 高野御幸(たかのみゆき)side
『ねぇ、迎えに来てよ。』
またこの夢か、と目をこすると時計が7:30を指していることに気がついた。学校は正直嫌いだ。何のためにあるのかすら分からない。動きたくないと言う足を無理矢理動かしながら窓を開けた。
『まだ寒いし…』
この季節には夢をよく見る。中学生の時の夢を特に。
こんにちは。高野さん、急で申し訳ないんですけど、放課後、屋上に来てくれませんか
そんな内容の手紙を持って屋上に行くと一人の女の子が居て、こっちに笑顔を向けている。
『御幸、好きだよ。私と付き合ってほしいんだ。』
呆然とする私にさらに笑って言った。
『なーんてね。冗談』
まったく、告白されると思った私の時間を返せ!って思っちゃったっけ。けど、それは一瞬で覆された。
『やっぱ、御幸を前にすると言葉がでないなあ』
彼女…いや、歩実のショートヘアが風に揺られてる。顔を少し赤らめて。
『こうなっちゃったものは仕方ない。御幸と、恋愛したい。』
こうなる、というのは差別とか私に迷惑がかかるとか。前にもにっこり笑って言ってたっけ。
少女は宝物のインスタントカメラを持ってきた。何も返さない私にいつも通りあきれた顔して。
『撮るよ?笑って』
不意を突くようなシャッター音に笑ってしまった。あぁこの子は明るいなぁ、と。カメラからは二枚の写真が出てきた。そして歩実はそれを流れるような動作で私に一枚を渡すと、靴を脱ぎ始めた。それが意味することはただ一つだったのに、止めれなかった。フェンスの前に立ってもう一度振り返った歩実の手はすごく白くて、可愛かった。毎日手を繋いだ手が。
『来世では、男になるよ!それで御幸を迎えに行く!』
やっと動いた私の足は相変わらず遅かった。どれだけ叫んでも変わらない世界の被害者にでもなったような顔して走り出した。目の前の写真を手にふらっと揺れる少女は言った。
ごめん。君が、大好きだ