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ギルベルト・カーディアック (21歳)
父上とジオンが抱き合ってる中、ふと芣婭の様子が気になり視線を向けると、芣婭の表情が曇っている事に気が付いた。
俺達と顔を合わせないように視線を逸らし、何かを思い出しているような感じで。
「どうし…」
「どうしたんだ芣婭?」
俺とケルベロスの声が重なり、芣婭の様子を伺う。
「あ、ベロちゃん…、何でもないよ」
「悲しい顔をしてるのに、何もない訳がないだろ?何か言われたのか?」
「何も言われてないよっ、本当に気にしないで?芣婭は大丈夫だから」
「芣婭、今日はもう帰ろう。見舞いに顔を出したんだ、さっさと帰って良いんだよ」
「うん…」
ケルベロスの言葉を聞いた芣婭は、俺と視線を合わせずに帰る支度を始めてしまい、シエサも帰りの馬車の
手配をする為に部屋を出て行く。
いつもと違う、ジオンに俺達が友達なのかと聞かれたのに、曖昧に濁した事が気に入らなかったのか?
本当に気に入らなかったら、芣婭は直接言って来る筈だ。
気に入らないんじゃなくて、言えない事だったら?ケルベロスの2人にもシエサにも言えない事だったら?
芣婭は誰に相談できずに、1人で苦しむだけ…。
「ギルベルト君、今日は帰るね?ジオン君とイケおじ
と家族の時間を過ごしてね」
「お姉ちゃん、もう帰っちゃうのですか?また、遊びにきてくれますか?」
「うん、遊びに来るよ!」
ジオンの言葉を聞いた芣婭は声のトーンを上げて、優しく笑いながらジオンの頭を優しくなでる。
「帰りはニックとレヴァリオに護衛を付けさせる。君が無事に、シュバルトの家に帰れるように」
「ニックとレヴァさんは修行中なんじゃ?わざわざ送ってもらうのも申し訳ないよ」
「2人から聞いたよ、君に騎士の誓いを立てたと。なら、2人は君の騎士だ、君が好きなように命令出来るし、連れて行く事だって出来るんだ。何も遠慮する事はないんだよ」
「芣婭はこれ以上、わがままな事は言いたくないよ」
「え?」
芣婭の口から予想外の言葉が返って来たので、父上もエリアもケルベロスの2人も驚いていた。
それは俺もだ、芣婭なら明るく冗談めいた言葉を使って答えると思っていたからだ。
このまま芣婭を返したらいけない事だけは分かり、下を向いている芣婭の腕を掴むと、芣婭は驚いて顔を上に上げる。
「ギルベルト君?どうしたの?」
「まだ帰らないでくれ」
「え?」
「芣婭を連れて行きたい場所があるんだ、だめか?」
俺の言葉を聞いた芣婭は暫く考えた後に、答える為に口を開いた瞬間だった。
「旦那様、ギルベルト様!」
部屋の中に慌ただしく入って来たのは、コンラットとヒューズ、ローレンツの3人で様子からして何か起きた事が分かる。
俺と父上の名前を呼んだ処からして、宮殿から呼び出しが掛かったのだと悟った。
クソッ、このタイミングで呼び出しかよっ。
芣婭の様子がおかしい時に…、父上と俺の2人を呼び出してくるなんてな。
「コンラット、要件はなんだ」
「失礼します、旦那様とギルベルト様宛に宮殿から連絡鳥が来まして…。この間のゴブリン討伐の件で、詳
しい事が聞きたいとの事です」
「皇帝からの呼び出しか、ギルベルトと俺の2人同時に呼び出すのは珍しいな。急ぎか」
「至急、2人で宮殿に来るようにと…」
コンラットからの報告を聞いた父上は、ジオンの体から手を離してマーヴィンとサバサに視線を向ける。
「マーヴィン、馬車の手配を。サバサはギルベルトの身支度の手伝いをしてくれ」
「「かしこまりました」」
父上に指示を受けたマーヴィンとサバサの2人が返事をし、俺と芣婭を置いて話がどんどん進んで行ってしまう。
「芣婭…」
「ギルベルト君、お仕事に行っちゃうの?」
「あぁ…、皇帝に呼ばれてしまったからな。連れて行きたい場所があるって行ったのに、連れて行けなくてすまない」
「ううん、良いの。お仕事なら仕方ないよ!また、連れっててくれれば…、良いからね?」
芣婭の表情が曇ったままの状態で置いてって良いのか?
俺は芣婭が好きだ、芣婭も俺の事を好いてくれているのは分かってる。
だけど、俺達の関係は顔見知りでも友達でもない、どちらかが気持ちを伝えれば恋人になれる関係。
不安にさせたのか?芣婭、俺はお前が思っている以上に芣婭の事が好きだ。
出会ってから日が浅いのに、俺の心は少年のように恋焦がれている。
「ギルベルト様、身支度の支度をなさらないと…」
「分かっている、芣婭の見送りだけでもさせ…」
「芣婭ちゃーん!」
サバサの呼び掛けに答えた後、すぐに芣婭の顔を見ながら声をかけたのだが、芣婭の騎士になったニックスとレヴァリオが部屋に入ってきた。
「あれ、ニックにレヴァさん!昨日ぶり!」
「俺達がちゃんと芣婭ちゃんの事を送り届けるからね!お前、芣婭ちゃんにべったりじゃん!いつの間に仲良くなったのか?」
「別にべったりなんか!」
「いやいや、芣婭ちゃんの腕に抱きついてる時点でべったりしてるだろ!エリアにも同世代の友達が出来てよか…」
ドカッ!!!
ニックスが言葉を言い終える前に、エリアが思いっきりニックスの靴を踏みつける。
「いっづ!!?何すんだよ、エリア!何も足を踏まなくても良いだろ!?」
「お前が恥ずかしい事を言うからだろ!?馬鹿ニック!」
「何も恥ずかしがる事ないだろ…」
「それ以上は何も言わない方が良い、エリアに殺されるぞ」
レヴァリオはそう言いながら、ニックスと共にエリアの顔を見ると鬼の形相でニックスの事を睨みつけていた。
「ねぇ、芣婭。コイツが騎士で大丈夫?馬鹿だし、デリカシーないけど」
「なっ!?お前、失礼な事言うなよ!?芣婭ちゃんには、そんな態度はとってないわ!」
「ニックはちゃんとお仕事してくれてるよ?エリっち」
「ほら!芣婭だって、こう言ってるだろ!?」
ニックスとエリア、芣婭の3人の会話を聞きながら、1人で溜息を吐く。
今日に限って、どうしてこうもタイミングが悪いんだ…。
「あっちゃー、今日は何をしても妨害されそうですねぇ?ギルベルト様?」
「ローレンツ、この状況を楽しんでるだろ」
「俺の知ってるギルベルト様が、見た事のない表情や行動をすいるものですから。申し訳ありません、ギルベルト様」
「お前ぐらいだぞ、俺の反応を見て楽しんでる奴は」
俺の言葉を聞いたローレンツは、芣婭のに腕に抱きついているエリアに視線を向ける。
その視線は父性に近いもので、自分の子供が友人と仲良くしているのを微笑ましそうに見ていた。
「ギルベルト様が好いている女の子は、異世界人でしたよね?」
「分かってると思うが、芣婭の事は外に情報を漏らす
なよ。魔性の女の件についてもだ」
「はい、分かってますよ。彼女の事を早いとこ、自分のモノにしておいた方が良いですよ?この先、取り合
いになっても知りませんよ」
「…、お前にそう言われるとは思ってもいなかったな」
ローレンツの口から出た言葉を聞き、俺は思わず目を見開いてしまう。
「ギルベルト様、俺も芣婭様の方に同行しても宜しいですか?出来れば、寄り道もさせてもらいたいのですが」
「おいおい、コンラット。お前も芣婭嬢を狙ってんのか?ギルベルト様がいるのに」
「からかわないで下さい、ローレンツさん。そんなんじゃありませんよ、彼女に気分転換をさせてあげたいと思っただけです。表情が暗かったのが気になったので」
他の団員達よりも芣婭の事を気にかけているのは、間違いなくコンラットだろう。
芣婭と最初に出会い、時間を共に過ごしたのが俺よりも早かったからなのか。
それとも他の理由があるのか分からないが、もしもの場合に備えてコンラットが芣婭の側に居るなら安心ではある。
芣婭に気分転換させてやりたいと言う気持ちは俺にあるし、本来なら俺がしないといけない事だ。
「日が暮れる前には送り届けろ」
「ありがとうございます、ギルベルト様」
コンラットは俺に軽く頭を下げてから芣婭の元に駈け寄り、芣婭に何を言ったのか聞こえないが何か話をしている。
「え、マジ?」
「あぁ、気分転換に寄り道をして帰ろう。何か食べたいものはあるか?菓子でも、食事でも何でもいいよ」
「えー、何でも食べたい気分だなぁ。どうしよ」
「見てから決めてもいいな」
2人が楽しそうに話している姿を見ると、胸が締め付けられる感覚がした。
俺以外に可愛い笑顔を見せないでほしい、俺以外の男と話さないでくれ。
なんて面倒な事を考えてしまうんだ、どうかしている。
「芣婭様、馬車が到着しましたよ」
「分かった、ギルベルト君。お仕事頑張ってね」
シエサから馬車が到着した事を聞いた芣婭は、俺の目の前まで歩いてきた。
このまま芣婭の腕を掴んで抱き寄せたら、簡単に芣婭の自由を奪う事が出来るのに。
「仕事が終わったら、デートしないか?」
「え?いいの?」
「あぁ、俺負がしたいんだ。お前が良ければだけど」
「芣婭も、ギルベルト君とデートしたい、したいけど…」
返って来た言葉が予想外で、芣婭が戸惑う姿を見たくてデートに誘った訳じゃない。
俺と出掛ける事に迷うと思ってなかった、俺は己惚れていたのかもしれないな。
芣婭も俺と同じ気持ちでいてくれていると。
何も汚れていない真っ白な芣婭を、血に汚れた手で安易に触れていいものなのか?
いや、簡単に触れていい相手じゃない、触れてはいけない。
今なら引き返せる、これ以上踏み込めば戻れなくなる。
「嫌だったら断ってくれていんだ、悪かった」
「え?ギルベルト君?」
俺の言葉を聞いた芣婭は悲しそうな顔をして、何も言わずに見つめてくる。
慰めの言葉をかければ、芣婭の曇った表情を晴にする
事が出来るが、今の俺にはその言葉が見つからない。
こんなの俺じゃない、どうかしている。
「すまない、やはり見送りに行けそうにない。サバサ、ドレスルームに行くぞ」
「は、はい、かしこまりました」
「コンラット、芣婭の事を頼んだ」
「え…?」
芣婭の顔を見ずに部屋を出て、隣部屋のドレスルームに入り、サバサに適当にスーツを見立ててもらう。
着ていたシャツを脱ぎながら窓の外に視線を移し、到
着した馬車に乗り込む芣婭を視界の中に入れた。
本当なら馬車に乗り込むまで話をして、次に会う約束を交わして帰らすつもりだったが、そうはいかなかったな。
「ギルベルト様は、恋愛面でも旦那様に似ていらっしゃいますね」
「どういう意味だ?サバサ」
「芣婭様の事を好いていらっしゃるのに口に出されない所ですかね。失言が過ぎましたね、失礼しました」
「サバサ、俺は誰かを愛する事は無理な事だ」
俺の言葉を聞いたサバサは一瞬だけ目を見開き、すぐに俺から視線を外す。
現皇帝が俺と父上の2人を呼び出す時は大抵、人殺しの仕事を命令する時で、今回もそうだろう。
用意されたスーツに着替え、ドレスルームに出ると白い髪をした男に抱き上げられているジオンが廊下に立っていた。
この白髪の男がジオンと契約をしている悪魔だと悟る。
「兄上、帰りはあおそくなりますか?」
「あぁ、すまないな」
「お仕事ですから、兄上があやまるところはどこにもありません。お姉ちゃん、かなしそうな顔をしてましたよ?どうしてですか?」
ジオンの悪意のない言葉が胸に刺さる、芣婭に悲しい
顔をさせたのは俺だからだ。
「あ、兄上!この人がハウラスです!ボクの事を守ってくれる人です!」
「ジオンが世話になっている、これからもジオンの事を頼む」
「お前に頼まれなくても、ジオンの事は俺が守るさ」
「ギルベルト、早く行くぞ」
ジオンと悪魔のハウラスと話をしていると、支度を済ませた父上がマーヴィンを連れて廊下を歩いてきた。
俺達はジオン達を別邸に送り届けた後、ヒューズとローレンツを連れて馬車に乗り込み、上部街の宮殿に向かう中で父上が言葉を投げかけてくる。
「何故、彼女の事を見送らなかったんだ?ギルベルト」
「宮殿に向う為に支度をしなければならなかったからです」
「男の身支度など、女よりも時間は掛からないだろう?最初は送り届けるつもりだったじゃないか」
「これ以上は踏み込まないと決めただけです」
そう言って、馬車の窓に視線を向けて会話を早く切り上げた。
ヒューズが俺と父上の顔を交互に見て、顔を真っ青にさせて気まずそうにしていたが見て見ぬふりをする。
父上もサバサも俺の言っている言葉の意味は分かっている、分かっているからこそ追及してこない。
いや、これないだけだ。
重苦しい空気の中、宮殿に到着した俺達は白騎士団達に囲まれながら、皇帝が待つ王座に向かう。
白騎士団の1人が分厚い壁を数回ノックし、皇帝の「入れ」と声を聞いてから扉を丁寧に開ける。
開かれた扉の先には玉座で偉そうに座っている皇帝が、俺達を静かに見下ろしながら口を開く。
「遅かったな、連絡鳥を送った筈だが?」
「申し訳ありません、皇帝陛下」
不機嫌な皇帝の機嫌を取る為に、父上は跪いてから深く頭を下げる。
王座に入るなり、俺達はすぐに皇帝の前で跪づき頭を下げ、皇帝からの言葉を待つ。
「まぁ、良い。今回のゴブリン討伐の件だ、何故ゴブ
リンが王級騎士団の白騎士団の鎧を着ていたのか。どういう事だ」
「それについては、私から説明をさせて頂いても宜しいですか?皇帝陛下」
「お前は黒騎士団の騎士か、名はなんと言う」
「ハッ、黒騎士団の第2部隊隊長のローレンツ・ガルバルトと申いします」
皇帝の前でもローレンツは堂々と自己紹介をする。
辺境伯は国境付近など王都・帝都から離れた場所だが、防衛の観点から非常に重要な場所を治める貴族に与えられれる爵位だ。
ガルバルト家はルナ帝国の守備の要、帝国周辺の守備をするにあたって彼等の知恵がなければ成り立たない部分もある。
「ガルバルト?あぁ、辺境伯の爵位を持った貴族だったか。我が、ルナ低帝国に離れた場所に屋敷を立て、防衛に力を入れていた家系であったな。家の仕事を継がずに、黒騎士団に身を置いているのか?変わり者だな」
「私は次男ですので、長男である兄が継ぐ予定ですからね。私は私の意志で、カーディアック家に身を置いていますので」
「お前の思入れには興味がない、今回のゴブリン討伐の報告をしろ」
「かしこまりました」
ローレンツは皇帝に洞窟内で起きた事と、ゴブリンの統領が話した事と呪い殺された事を報告をする。
「つまり、宮殿内に裏切り者が居ると言う事か?この国で金の髪を持つのは、オルティス家だけだ。お前の報告が正しいのなら、オルティス家の誰かが犯人と言う事になるが?」
「ゴブリンが嘘を吐いているとも思いません。ギルベルト様の闇魔法恐怖で吐かせた情報ですので」
「だが、月の女神ルナの加護を受けているオルティス家の人間が、このような事を起こすとも思えんのだ。貴様等と違って、私達は神の御加護を受けているのだぞ」
相変わらず、現皇帝は自分の所の家系が相当好きらしい。
国の名前にもなったルナは、初代皇帝に恋に落ちてしまったのだが、神と人間の恋は世界の掟を破る事だった。
人の子として愛すのは良いが、平等な愛でなければならない。
月の女神は叶わない恋心の代わりに、月の加護を与える事にし、初代皇帝は国の名前を変えたと言う有名な伝説がある。
ローレンツの話をまともに信じていない、まさか自分の所の家系の人間を信じきっているから。
「ゴブリンの件は我が白騎士団が調査を行う。お前の所の騎士団には任せきれないからな、さて本題に入ろう。私の事を皇帝の座から引きずり落とそうとしている輩がいてな?ソイツを内密に消してほしいのだよ」
皇帝が俺達親子を呼び出す時は、暗殺の依頼を頼んでくる時に限定されていた。
今回もそうだろうと思っていたが、現皇帝からのすてに暗殺依頼は2桁を超えている。
自分の手は汚さずに地位を守り続けた結果、現皇帝の足元には死体は次々に積まれ、これからも死体の数は増えて行く。
「今回はジャンゼン家の長男夫妻と使用人だけで良い、他にも居るが見せしめとして殺して来い。私を貶めるなら、殺される覚悟をしろとな」
隣国のエスポワール国と長年揉め事が起きていないのはジャンゼン家のおかげだ。
ジャンゼン家は現皇帝の代わりに、他国との交流、物流輸入、輸出を行い、良好な関係を築き上げてきた事で宰相の位を貰い、公爵家になった。
自分の手となり足となってくれたジャンゼン家を殺すとは、次の宰相候補を立ててから俺達に依頼してきたのか。
「発言する事をお許し下さい、皇帝陛下。ジャンゼン家を消せば、大きな問題になりますよ。隣国との交流問題も起きかねますが、それも踏まえた上でのご命令ですか」
父上に問われた現皇帝は顔を真っ赤にしながら、玉座から腰を上げる。
「貴様、初代皇帝から大公の位を徐爵された家系の分際で、私の考えに口を出す気か!?貴様等は黙って、私の命令を聞いていれば良いのだ!今回の依頼は、息子だけに行かせる事にした。これからも、お前ではなく息子に命令を下す。貴様は1週間、軟禁する事にする」
現皇帝の言葉を聞いた白騎士団は父上の周りを取り囲む。
頭に血が上りやすい現皇帝は、少しでも自分よりも立場が低い人間は口答えすれば、すぐに牢に軟禁する。
ジャンゼン家を消す事を簡単に決めて良い問題じゃないのは、誰だ聞いても分かる事だ。
「早く、オルタニアを連れて行け!今夜、日がまたぐ前にジャンゼン家を消して来い。確認の為に、夫妻の首を私の前に持ってこい」
現皇帝が生きている限り、カーディアック家は命令通りに殺しに行くしかない。
この国産まれた以上、現皇帝の命令に逆らう事など出来ない。
怒鳴られた白騎士団は父上の両腕を掴み、現皇帝の視線が俺だけに注がれる。
「どうした、聞こえなかったのか?返事はどうした」
「分かりました」
「聞こえているなら、さっさと返事をしろ」
この男が皇帝である限り、俺に手が血に染まり汚くなっていく。
「話はそれだけだ、さっさと帰れ」
自分の話が終わると、現皇帝は犬を追い払うような仕草をして、俺達をさっさと部屋から追い出した。
閉ざされた扉をヒューズとローレンツは黙って睨み付け、何も言葉を発しず宮殿を出て乗って来た馬車に乗り込む。
「何ですか、皇帝のあの態度!!!ガキじゃあるまいし、旦那様が意見したら怒りやがって!!!軟禁するのが大好き過ぎるだろ!?」
「話が通じないのはいつもの事だろ。俺達黒騎士団に依頼だけして、信用はしていないんだろう。ジャンゼン家の事を気に入っていたエスポワール国の現皇帝が、どう思うのか考えもしていない」
「マジで、頭がおかしいって」
「ヒューズ、ローベルク。ジャンゼン家には俺1人で行く、留守の間を頼む」
俺の言葉を聞いた2人は神妙な面持ちで、俺の顔を黙って見つめる。
「ギルベルト様、ジャンゼン家の近くまで送りますよ」
「数人で行動する方が目立つだろ、1人で行動した方が良い」
「だけど…」
「人殺しの仕事は初めてじゃないんだ、心配する必要はないさ」
ヒューズは何も言えなくなり、俺の顔から視線を逸らして窓の外に向け、馬車は中部街に向けて走り出す。
***
街が静まり返る夜の中、黒いマントで顔を隠し馬に乗って目的地であるジャンゼン家に向かう。
分厚い雲に覆われて今にも雨が降り出しそうな、雨を知らせる匂いが鼻を通り、上部街の門番が寝ている好きに通過する。
ジャンゼン家付近に馬を待機させ、屋敷の裏側の塀を乗り越えて敷地内に潜入したのだが、何か違和感を感じた。
公爵家なら見張りを担当している使用人が居る筈だが、ジャンゼン家から人が居る気配はしない。
おかしい、この時間なら夫妻が寝ているか起きているかしている筈だが。
そう思いながら裏口のドアに鍵がかかっているか確認する為、ドアに触れると小さな音を立てて扉が開かれる。
料理場に入って見たが、食料が1つもなく、持ち出された形跡があった。
ありえない、生活している上で食料が1つもないのはおかしくないか?屋敷全体が妙な静かさするの変だ。
まるで、どこかに逃げる為に食料をかき集めたような…。
思考を巡らせていると料理場の扉が開かれ、蝋燭の日に照らされていたのはジャンゼン家の者ではない男だった。
男は俺の姿を見つけ、不敵に笑いながら「公爵夫妻なら、ここにはいないよ」そう言葉を吐き捨てた。
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ああ、もう、すれ違いが心に沁みた……!ギルベルトの「俺以外に可愛い笑顔を見せないでほしい」って内心の独占欲と、自分を血に染まった手って卑下するところ、刺さりすぎ。芣婭の曇った表情が気になるのに、皇帝命令で引き離されるタイミングの悪さも含めて、もどかしさが半端なかった。ラストの不気味な男の登場で一気に不穏になったし、次回どうなるかマジで気になるわ🔥