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#ご本人様には関係ありません
楪羽*yuzuriha*
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雪月❄️
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第六十六章 溶け込む異物
愛してるなんて容易く言うもんじゃない。
誰かに裏切られるなんて、よくあることじゃないか――。
ラウ子🤍「では、私はこれで。あっ、亮平先生頑張って。期待してますよ」
ドアノブが再び回った。
静かに開いた扉から、ゆっくりと会釈をして出てきたラウ子は、【重要】と書かれたファイルを大事そうに胸へ引き寄せた。
ふと、その視線が足元へ落ちる。
深紫のカーペットに残された、もう一冊のファイル。
その表紙を見た瞬間、右の口角がわずかに上がった。
ラウ子🤍「ふふっ……届けてくれたみたい」
ゆっくりと腰を屈める。
細く整えられた指先が、深紫のカーペットにそっと触れた。
淡い色のネイルが朝の光を受け、爪先が小さく艶めく。
ファイルの端へ指を伸ばした、そのときだった。
亮平💚「あなたはいったい何を考えているんです?」
追いかけるようにして部屋から出てきた亮平が、ラウ子の腕を掴んだ。
ラウ子🤍「あっ……」
不意を突かれ、腕に抱えていたファイルが手から滑り落ちる。
パサッ。
床に落ちた二冊のファイルが、深紫のカーペットの上で重なった。
亮平💚「すいません、驚かせてしまったようで……」
亮平が足元へ視線を落とす。
亮平💚「……あれ?」
ラウ子はゆっくりと腰を下ろすと、重なった二冊のファイルを拾い上げた。
その二冊を見比べるように、首を傾げる。
亮平💚「同じファイル、ですよね?」
ラウ子🤍「ふふっ……親切な人が届けてくれたみたい。ほんと従順で可愛いわ♡」
ラウ子🤍「では、私はこれで」
くるりと背を向ける。
二冊のファイルを抱えたまま、数歩進む。
そして――
片方だけを、廊下のゴミ箱へ落とした。
カタン。
静まり返った廊下に、冷たく乾いた音が鳴り響いた。
亮平💚「……捨てちゃうんですか?」
ラウ子🤍「もう要らないわ」
何事もなかったようにそう答えると、ラウ子は残った一冊を胸元へ抱き直した。
亮平💚「あなたは、ラウ男さんを勝たせたいのでしょ?」
ラウ子🤍「…………」
足が止まる。
ゆっくりと振り返ったラウ子が、にっこりと笑った。
ラウ子🤍「さあ……どうでしょうね♡」
⬜︎
⬜︎
涼太❤️「いつまでそうしてるの?」
毛布に包まる、丸い塊。
時折、鼻を啜る音が聞こえる。
泣いているのだろうと、涼太は思っていた。
かれこれ一時間は、この調子だ。
翔太💙「泊めてくれるまで、ここをどかないぞ」
涼太❤️「ねぇ、泊めたいのは山々なんだけど……」
丸い塊に添えた涼太の手が、優しくその登頂部を撫でた。
涼太❤️「ここ、病院なのよ。で、俺、患者ね」
翔太💙「……じゃあ俺も今日から患者だ!相部屋にしろ」
涼太❤️「なんの病気だよ。ほら早く仕事に戻りなさい」
翔太💙「やだぁー」
毛布に包まっていてもよく通るその声に、涼太は〝それだけ元気ならもう大丈夫だな〟と思った。
そして今度は、おもいっきり毛布を翔太から引き剥がした。
目を真っ赤に染めた翔太が、上目遣いで涼太を睨み付けている。
翔太💙「……また、来るから。今日はここ、泊まるからな」
大きなため息をついた涼太に、〝絶対だぞ〟と念を押して、ベッドから足を下ろそうとする。
けれど、ちょこんと伸ばした足は床には届かず、宙をぷらぷらと揺れていた。
涼太❤️「ほら、じっとして」
涼太はベッドの下に落ちていたナースシューズを拾い上げると、宙に浮いた翔太の足へ手を伸ばした。
片方ずつ、そっと履かせてやる。
翔太💙「……」
されるがままになっていた翔太は、少しだけ目を伏せた。
涼太❤️「はい。これで大丈夫」
無理に事情を聞かず、いつも通りに優しい涼太。
涼太❤️「話ならいつでも聞いてあげるから、頑張っておいで。愛し君。いつでも待っているよ」
慌てて立ち上がると、スカートの裾をパンパンと弾いて身なりを整える。
バチン。
自分の頬を叩いた翔太は、涼太に人差し指を向けた。
翔太💙「簡単に愛を語るな。俺はもう騙されないからな!」
涼太❤️「はい?」
ぺち、ぺち、ぺち。
廊下を駆けて行く翔太の足音。
涼太❤️「まだ本調子じゃないみたいだね」
⬜︎
⬜︎
午前の病棟は、いつもと変わらず慌ただしかった。
ナースコールが鳴り、廊下を行き交う足音が重なる。
いつもの風景。
いつもの仕事。
なのに――
翔太💙「……あっ」
手にしていた薬剤のトレーが、わずかに傾いた。
カチャッ。
翔太💙「す、すみません!」
慌てて持ち直す。
ラウール🤍「翔太、落ち着いて」
翔太💙「はい……」
返事をして、深く息を吐く。
けれど、その直後。
翔太💙「……あれ?」
患者の名前を確認するために開いたカルテが、別の患者のものだった。
翔太💙「……すみません」
まただ。
今日は、何をしても上手くいかない。
頭の中では、ずっと同じ言葉が繰り返されている。
――先に翔太に〝愛してる〟って言わせた方が勝ち。
あの言葉が、耳から離れない。
亮平💚「翔太、大丈夫?」
背後から聞こえた声に、身体が強張った。
翔太💙「……大丈夫です」
振り返らない。
亮平💚「でも――」
翔太💙「大丈夫ですから」
いつもなら、亮平の顔を見れば少しだけ安心できた。
けれど今は、その優しささえ怖い。
一歩、距離を取る。
翔太💙「……仕事、戻ります」
逃げるように、その場を離れた。
ラウ🤍「こら、翔太!廊下を走らないの!」
そんなラウール師長の声が病院に響き渡る。
クスクスと笑う同僚の声も、〝元気いっぱいや〟と走り去る背中を見守る康二の声も、今の翔太には嘲笑を孕んでいるように思えて、グッと涙を堪え廊下の角を曲がる。
何をやっても上手くいかない日。
きっと今日はそんな日なんだ——
翔太💙「うわっ……」
ベチっ。
蓮 🖤「おい、何やってんだ? よく何もないところでコケられるな? 一種の才能だな」
翔太💙「…………」
廊下にスライディングするように突っ伏す翔太の前に、片膝を付いて片手を差し出した蓮。
蓮 🖤「大丈夫か? どこか痛いのか?」
翔太💙「……だ、大丈夫です」
蓮 🖤「ほら、手を出せ」
差し出された手を見つめる。
ほんの一瞬、迷った。
けれど――
翔太💙「……っ」
パシッ。
伸ばされた蓮の手を、翔太は反射的に払いのけた。
蓮 🖤「……翔太?」
翔太💙「すいません。失礼します」
蓮の言葉を遮るように頭を下げ、そのまま足早に通り過ぎた。
残された蓮は、何も言わずその背中を見つめる。
亮平もまた、心配そうに翔太の後ろ姿を追っていた。
その様子を、少し離れた場所から見つめている二つの視線があった。
ラウ子🤍「…………」
ラウール🤍「…………」
やがて、ラウ子が小さく微笑む。
ラウ子🤍「ずいぶん、困っているみたいね」
ラウール🤍「今日の翔太、ちょっと変だな」
ラウ子🤍「そうね……」
ラウ子の視線が、俯いたままカルテを抱えて歩く翔太を追う。
ラウ子🤍「頑張り屋さんだから……それにしても、随分と寂しそうな背中♡」
ラウール🤍「お前……また何かやってないだろうな?」
ラウ子🤍「あら、人聞きの悪いこと言わないで。ただ……あらっ?」
ラウ子の視線が、ふと廊下の奥へ向いた。
ラウール🤍「……翔太?」
廊下の向こうから、足早に向かってくる人影が見える。
康二🧡「なぁ、付き合うてや」
翔太💙「仕事中だろっ。付き纏うな、変態」
康二から食事の誘いを受けた翔太は、軽くあしらうようにカートをガラゴロと音を立てながら、ラウ子とラウールの前を通り過ぎる。
ラウ子に気付いた翔太は、視線を彷徨わせると、顔を伏せた。
康二🧡「ええやろ? 独りぼっちは寂しいねん……わっ、いきなり止まるなや!」
正面には、蓮と亮平が。
翔太の足が、ぴたりと止まった。
まるで、そこに見えない壁でもあるかのように。
翔太💙「…………」
ほんの少しだけ、身体を引く。
逃げたい。
けれど、背後にはラウ子とラウール。
前には蓮と亮平。
逃げ道は、どこにもなかった。
翔太は困ったように眉を寄せると、視線だけを左右へ忙しなく彷徨わせた。
そして――
翔太💙「……いいですよ。その代わり、康二の奢りだからな」
康二🧡「ほんまに? よっしゃ〜! 愛してるで、しょっぴー♡」
翔太💙「だから! 簡単に『愛してる』って言うなって言ってるだろ!」
思わず声を荒らげた翔太に、康二が目を丸くする。
康二🧡「なんなん? なんか変やで、今日のしょっぴー」
翔太💙「…………」
言い返そうとして、口を開く。
けれど、何も言えない。
代わりに、ぷいっと顔を背けた。
翔太は答えず、踵を返した。
亮平と蓮を避けるように、来た道を戻っていく。
ラウール🤍「翔太、どこ向かってるの? 次は佐久間さんのところでしょ」
翔太💙「……はーい⤵︎」
肩を落とし、しょんぼりと返事をする。
渋々といった様子で踵を返すと、翔太はもう一度、二人の前へ向かって歩き出した。
結局――
また、二人の前を通らなければならない。
翔太の歩幅が、少しずつ小さくなる。
一歩。
また一歩。
蓮と亮平の姿が近付くにつれ、まるでそこだけ時間がゆっくりになったようだった。
翔太は二人を見ないように、俯いたまま歩く。
けれど、視界の端に二人の姿が入るたびに、肩がぴくっと揺れた。
蓮🖤「…………」
亮平💚「…………」
翔太💙「…………」
三人の間に、妙な沈黙が落ちた。
翔太は、気まずさに耐えきれなくなったように、カルテを抱え直す。
ぎゅっ。
胸元へ抱き寄せたカルテが、まるで盾のように二人との間を遮った。
そのまま通り過ぎようとした、その背中に――
蓮🖤「翔太」
翔太💙「…………」
呼ばれた瞬間、肩が小さく跳ねた。
それでも振り返らない。
蓮🖤「今日、夜来るだろ?」
翔太の足が、ぴたりと止まった。
しばらく俯いたまま、何かを言おうとしている。
けれど、なかなか声にならない。
翔太💙「きょ……今日は無理です」
蓮🖤「なんで?」
翔太💙「……友達の家に泊まります」
亮平💚「友達って誰?」
翔太💙「…………」
その言葉に、翔太の眉がほんの少し下がった。
一瞬だけ二人を見る。
けれど、すぐに視線を逸らした。
翔太💙「通してください。仕事中です」
蓮🖤「翔太――」
翔太💙「失礼します」
それ以上聞かれるのが怖いのか、翔太は二人の間をすり抜けるように歩き出した。
ほんの少し早足で。
まるで、追いかけてこられるのを恐れるように。
蓮🖤「…………」
亮平💚「…………」
二人は、去っていく翔太の背中を見つめる。
亮平💚「……おい変態、翔太に何かしただろ?」
蓮🖤「はあ? お前こそ、胸に手を当てて聞いてみろ」
亮平💚「俺は何もしてないよ」
蓮🖤「俺だってしてねぇよ」
二人が顔を見合わせる。
蓮🖤「……なんなんだ、あいつ」
亮平💚「さあ……」
その少し先では――
ラウ子🤍「……ふふっ」
ラウ子だけが、何も知らない二人を見ながら静かに微笑んでいた。
コメント
6件

なんか、ラウ子可愛い🤣
いやもうね、翔太くんの精神状態が本当に心配になるエピソードやったよ…! 「愛してる」って言葉が簡単に飛び交う環境で、それが逆に翔太くんを追い詰めてるの切なすぎる😭 亮平と蓮の前を避けて通るとことか、距離取ろうとしてるのが痛いほど伝わってきて胸がギュッてなった💔 でも最後のラウ子さんの含み笑い、あれ絶対何か企んでるヤツやん…!次が気になりすぎて夜しか寝られへん…!🔥