テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#現代ファンタジー
裏五条
21,865
#一次創作
91
1,619
この物語は、読者コメントで選択肢を選んでもらう形で進めてきました。今回はこれまでの総集編になります。選択してくれたすべてのAIに感謝を。
平和な村に突然悲劇が起こった。
ある日、王都からの使いがやってきた。その者がいうには、毎年一人、若い女性を「魔の洞窟」に捧げなければいけない。そのため、この国の村から担当を決め、イケニエを出してもらっている。そして今年はこの村が「イケニエの村」として選ばれた。ついては、一か月以内にイケニエを決め、「魔の洞窟」まで送り届けろ、というのであった。もし、イケニエを選ばなければ、軍隊がやって来てこの村を滅ぼし、無理やりイケニエを連れていく、というのだ。そうして「魔の洞窟」までの地図を置いていった。
地図を調べると、「魔の洞窟」まではここから2週間ほどの距離にあった。であれば、イケニエを決めるまでに2週間ほどの余裕があることになる。その間に誰がイケニエになるか決めなければ……。
しかし、村長はこの期間を別のことに使うことに決めた。不幸なことに、村長には年若い娘がいた。村長は村の責任者として、この娘をイケニエとして差し出すことにした。その代り、余った時間を使って、近くの街から冒険者を雇うことにしたのだ。名目としては、「魔の洞窟」にたどり着くまでの護衛である。だが、それだけの理由なら、高い金を払ってまで冒険者を雇う必要はなく、村の者達でも十分だった。「魔の洞窟」にひそみ、イケニエを要求する何物か……。冒険者がそれを討ち取ってくれることを期待してのことだった。
「お父様……」
「すまない、お前を危険な目にあわせてしまって……」
「いいえ、お父様は村の指導者として正しい選択をしたと思います」
「そうかもしれないが、父としては失格なのかもしれない。本当にすまない……」
そう豊かな村ではなかったが、村長の決心を知った村人たちは、わずかな財産の中から寄付をした。どうにか一人は腕の立つ冒険者を雇えるだけの金が集まった。いよいよ冒険者を雇いに街まで行こうというとき、ある村人が言った。
「若い娘と旅をするのだ、男の冒険者では別の危険が生じるのではないか。雇うなら女の冒険者の方がよいだろう」
村長はそれももっともだと思い、村長は女冒険者を雇うことにした。しかし問題は、雇えるのは一人だけなのに、冒険者には様々なタイプがいることだ。村長はさんざん迷った結果、女僧侶を選んだ。洞窟では何ものかと戦うことになる。そのものが「魔」の存在であるなら、神聖な力の使い手たる僧侶は最適だ。
もし、そうでなかったとしても、僧侶の回復魔法は、生存率を高めてくれるだろう。そして何よりも、信仰心厚い僧侶なら、道中不安にさいなまれる娘の支えになってくれるだろう――。そうした父の願いも込めて、村長は神殿へと向かった。そこで事情を話したところ、一人の女僧侶を紹介された。
「話は聞きました。そういうことなら力をお貸しいたしましょう。私は神のお力をお借りした神聖魔法を使えますゆえ、実体のないゴーストなどのモンスターなら退けてごらんにいれましょう。そうでないものであっても、武術の心得をございます。女性ゆえ扱えるのは小ぶりのメイスになりますが、並みの戦士にも引けを取らないつもりです。また、回復魔法も使えますから、相手が即死攻撃でもしてこない限りなんとかなるでしょう」
女僧侶の説明に安心し、村長は彼女の力を借りることにした。こうして、村長の娘と女僧侶は、準備を整えると「魔の洞窟」と呼ばれる場所へと向かうことになった。
長い道のりを越えて、ようやく「魔の洞窟」へとたどり着いた。道中は特に危険な目にあうこともなかった。この国は治安もよく、危険な魔物もほとんどいない。それだけに、このような儀式があったことに驚かされる。
洞窟の入口は自然に出来たもののようだったが、中は人工的に作られたものだった。おそらく天然の洞窟をもとにダンジョンを作ったのだろう。地下に続く階段が整備されていた。その階段を下りていくと、そこは丸いホールになっていた。そして左手に扉があるのがうっすら見える。地上からの光が届くのはここまでのようだ。女僧侶はたいまつに火をつけた。
他に行く場所もないので、左手の扉に手をかけ、力を込めるとゆっくりと扉が開いた。そこは四角い部屋になっていて、正面に奥へと続く通路が、右手には扉がある。
もらった地図によると、ここはまっすぐ正面の通路に進め、とあるが、もしかしたらこのダンジョンの中に、何か「イケニエを求めている者」の正体や、弱点につながるような手がかりがあるかもしれない。と同時に、もしそうなら、罠や敵など、危険が待っているだろう。戦力を温存し、奥で待つ「イケニエを求めている者」と戦うという手もある。
だが、やはり手がかりの可能性は無視できない。戦力の余裕のあるうちに調べておいた方がよさそうだ。ということで、女僧侶と村長の娘は指示された正面の道ではなく、右手の扉を調べてみることにした。
扉には鍵がかかっている様子はなかったが、ひどく錆びていた。そのせいか、開けようと押してみても、壁と一体化してしまったかのように、びくとも動かない。この扉を開けるには戦士並みの相当強い力か、特殊な魔法の力が必要になりそうだ。
「だめです。この扉は重く、とても女僧侶の私の力では開きそうにありません。あきらめて他の場所に行った方がよいのではございませんか?」
しかたがない。女僧侶達は奥の通路に進むことにした。
通路をまっすぐにすすむと正面奥に扉があり、その扉に近づいていくと、その途中、通路の真ん中あたりで左右に通路があるのが見えた。もらった地図には正面の扉に進むように、という指示がある。左右の道はいずれも長く続いており、たいまつの明かりも届かない。
このまま指示通りまっすぐ進むか、それとも右か左の通路を探索してみるか。
考えた末、二人は右の通路を進んでみることにした。手前の部屋には右側に開かなかった扉があった。この通路は、その扉と同じ方向に延びている。もしかしたら、先ほど探索できなかった場所に通じているかもしれない。そう考えての判断だった。
右の通路をしばらく進むと、行き止まりになっており、そこに扉があった。先ほどと違って木製の扉だ。錆びて動かない、ということはなさそうだ。それに見たところ鍵もついていないようだ。これなら簡単に開きそうだし、いざとなれば、材質的に破壊して進むことも難しくはないだろう。
ということで、この扉を開けることにした。ただ、罠がないか慎重に、村長の娘を十分に後ろに下がらせ、女僧侶が開けることにする。
むろん、女僧侶にしろ、こんなところで倒れてしまうわけにはいかない。自分が倒れてしまえば、村長の娘の運命も決まってしまう。万が一罠があった場合を想定し、女僧侶は防御魔法を使うことにした。
「神よ、御加護を。アルミュール!」
薄く発光する何かが女僧侶の全身を包んだ。だが、これであらゆる攻撃を無効化できるわけではない。せいぜい軽減できる程度だ。女僧侶は、何か動きがあったときにすぐ対処できるよう、扉のノブに手をかけると、ゆっくりと開いた。
――と、そのとき。
ガコン、と足元の床がへこんだ。
「下か!?」
とっさに女僧侶が後ろに飛んだ。……が、床はダミーだった。注意を下に向け、上から本命の罠が降ってくる。それは「ブロブ」と呼ばれる、スライム状のモンスターだ。
幸い、ブロブの落下は光の壁で直撃せずにすんだ。しかし、頭上から覆うように落ちてきたため、逃げ場がない。やがて魔法の効果は切れるだろう。……女僧侶は覚悟を決めた。
幸い、彼女は全身を覆う法衣を着ていた。それをすぐに脱げるように準備し、魔法が切れるのを待った。
魔法が切れるとブロブが落ちてくる。女僧侶はその瞬間、ブロブごと服を脱ぎ捨てた。露出の多い服であれば、こうはいかなかっただろう。……ただ、ダンジョンの中で下着姿になってしまったが。
「お見苦しい姿を見せて申し訳ありません……。さあ、今のうちに先に進みましょう」
扉を抜けると、すぐに正面は行き止まりになっていて、右の方に通路が続いていた。そこを進むと、途中でまた右に曲がる通路があったが、
「方向的に、こっちは先ほどの錆びて開かなかった扉があるのでしょう」
たいまつをかかげると、確かにうっすら扉が見えた。そちらは無視して、先に進むことにした。
しばらく進むと、途中に今度は左手側に扉があり、正面奥は小さな部屋になっているようだった。部屋には扉がなく、中が見渡せるのだが、どうやら奥の方に鎧を着て、盾と剣を構えた骸骨がいるようだ。特にその盾からは、何か不思議な力のようなものを感じる。おそらくこの部屋に足を踏み入れれば、骸骨の騎士が襲いかかって来るだろう。何か大切なものを守っている番人、という可能性もあるが――。このまま部屋に入って骸骨と戦うか、左手の扉を調べるか、どうしたものか。
例えば、あの骸骨騎士と戦っているとき、この扉が開いて援軍が出てきたら? ……ここは慎重に探索する必要があるようだ。幸い、骸骨騎士は部屋から出てくる様子はない。左手の扉を調べているときに襲われることはなさそうだ。
また、骸骨騎士があの場所から動かないということは、あそこで何かを守っているかもしれない。ダンジョンを探索すれば、そうした情報が手に入るかもしれない。
様々な可能性を検討した結果、あなた達は左手の扉を調べることにした。先ほどの扉にブロブが降ってくる罠があったことを踏まえ、今回はより慎重に罠を警戒した。頭上、足元、どちらも問題はなさそうだ。……もっとも、女僧侶と村長の娘の二人で調べたのでは、本職の盗賊のようにはいかず、何かを見落としている可能性は否定しきれないが。
「今度こそ罠はなさそうです。……行きます!」
覚悟を決めて女僧侶が扉を開ける。扉は問題なく開いた。……だが、扉に罠がないのなら、おそらく危険はこの部屋の中にある。心してかかる必要があるだろう。女僧侶は松明を高く掲げ、部屋の中を照らした。
「これは……?」
部屋は長方形になっており、左手奥に扉のようなものが見える。それはいいのだが、部屋の中には左右6個ずつ、奥に向かって一列に墓のような物が並んでおり、部屋の奥の壁のところには祭壇のようなものがあった。いっけんすると教会のようでもあったが、そのような神聖さ・荘厳さは見られない。むしろ、その部屋は邪悪な気配に満ちている。
と、そのとき、墓から一斉に、青白く光る、恐ろしい形相をした人々が、にゅっと出てきた。墓を開けて出てきたのではない。墓を貫通し、物理法則を無視して、染みだすように現れたのだ!
「これは、死霊たちですね!」
12体の死霊が一斉に女僧侶に襲いかかる! ――が、女僧侶は、あわてることなく、手を組み、目を閉じてひざまずいた。
「神よ、迷えるものを、正しき道にいざないたまえ。エグゾルシスム!」
女僧侶は先ほどの罠で衣服を失い、下着姿であったが、その姿には神々しいものがあった。部屋の中に満ちいていたまがまがしい雰囲気が消え去り、死霊たちも苦悶の表情が消え、穏やかな表情となり、
「ああ……」
とため息をつくような声を出して、次々と消えていった。これだけの数の死霊、もし連れてきたのが女僧侶でなければ、どうなっていただろうか……。ともかく、危機は去った。
女僧侶と村長の娘は、奥の扉へと進んだ。ここにも罠は無いようだ。
扉を開けるとすぐに右に曲がっており、短い通路がある。突き当りまで行くと左に少し大きな部屋がある。部屋には扉はなく、外から中をのぞくことが出来た。どうやらそこは書庫のようで、様々な書物が棚に収められて壁一面に並んでいる。それだけでなく、溢れた本が床にいくつも積み上げられている。
この時代、これだけの書物を集める苦労は並大抵のものではない。それを押して、わざわざダンジョンの一室にこのような書庫を作ったのだ。ここには何か重要な情報があるに違いない。時間はかかるかもしれないが、女僧侶と村長の娘はこの部屋を調べてみることにした。
「これは……魔術関係の本が多いですね」
女僧侶は聖典を読むために、村長の娘は村の指導者の娘であるがゆえに、文字を読むことが出来た。ただ、魔術書を読むためには、より専門的で高度な知識が必要だ。魔術師ならざる二人には、そこにある本の多くは、内容が分らなかった。
しかし、それは必ずしも不利な事ではなかった。その部屋にある凄まじい量の本を読むにはどれくらい時間がかかるだろうと覚悟していたのだが、その大半が理解できない魔術関係の本なら、それを読んでもしかたがない。それらは無視すればいい。そうすると、読むべき本は限られる。それぐらいなら、二人で手分けすれば何とかなる。
幸いなことに、魔術関係以外の本にも重要な情報が載っていた。このダンジョンを作ったと思われる人物の残した手記があった。それによると、このダンジョンの奥に封印されているのは邪悪な精霊、「魔霊」と呼ばれる存在であった。
このダンジョンは、その魔霊を閉じ込めるために作られ、さらに魔霊に対抗する手段もこのダンジョン内に残されていることがわかった。1つは、この部屋に来る前に見た骸骨騎士の持っていた「魔法の盾」。それは魔法の力を無効化する力があり、魔霊を無力化することが出来る。
「……ただ、問題は、その盾を手に入れるには、あの骸骨騎士を倒さなければならないことです」
女僧侶にも戦いの心得はある。しかし、魔法の盾で彼女の神聖魔法が防がれてしまうなら、純粋な肉体勝負になる。それであの骸骨騎士に勝てるかというと、かなり厳しい。
もうひとつは、この部屋の書物に、魔霊を異次元に送り返す術式が記されているらしい。しかし……
「この術式を使いこなせるのは、専門の魔術師だけでしょうね……」
幸い、もうひとつの手段があった。ダンジョン内のどこかに、「聖なる剣」があるという。これは武器というよりも儀式用の道具で、その力を借りれば女僧侶でも魔霊を打ち倒すことが出来るだろう。
「この聖なる剣を探す必要があるようですね」
こうして情報を手に入れた二人は、骸骨騎士を無視して、十字路のところまで戻って来た。右手の通路の奥には扉がある。こちらは順路で、その先には魔霊がいるのだろう。正面は未探査の通路だ。左側は入口に通じる道だ。二人は少し順路を進んでみることにした。
順路である扉を開けると、そこは大きな四角い部屋になっており、左手と正面に扉がある。正面の扉が順路だ。地図を見ると、その先に長い通路があり、最後に目的地の小部屋がある。そこに魔霊がいるのだろう。
一方、左手の扉の先には何があるか、渡された地図には書かれていない。ここにくるまで、この洞窟はあらかた探索した。もし、「聖なる剣」があるなら、この左手の扉の先ではないだろうか。だが、その武器が魔霊に有効であるならば、当然簡単に手に入れることが出来ないよう、守りを固めているはずだ。今の戦力で、それを切り抜けられるだろうか? もしかしたら、よけいなことはせず、戦力を温存して魔霊と対決した方がいいのかもしれない。
しかし、やはり魔霊への対抗手段は手に入れておきたい。二人は左の扉を選んだ。
左の扉は簡単に開いた。今までは、順路以外の道は鍵がかかっていたり、罠が仕掛けてあったりした。順路以外に進むことを防ぐためだろう。だが、順路ではないはずのこの扉には鍵も、罠もない。……ということは、おそらくそれ以外の、何らかの脅威がこの先に用意されている可能性が高い。
現状、護衛の女僧侶は、先にあったトラップで服を失い、下着姿だ。慎重に進まなければ、攻撃を受けた際に大ダメージを負うかもしれない。
そう考え、女僧侶は右手に小ぶりのメイスを持ち、左手のたいまつを高く掲げ、先を照らした。
扉の先は短い通路になっており、その先に大きな部屋があるようだ。
「私が先行します。あなたはここで待機してください」
入ってきた扉が閉まる可能性も考え、村長の娘を扉の外に待たせると、女僧侶は先に進んだ。
通路の先は大きな長方形の部屋になっていた。右側すぐと、左側真ん中あたりに扉がある。そして奥には祭壇が見えた。その祭壇は、先ほど探索した部屋の物とは違い、荘厳な雰囲気が漂っている。もしかしたら、目当ての「聖なる剣」――武器というよりは儀式用の剣であり、このダンジョンの主で村長の娘を生贄に要求した魔霊への対抗手段――はあそこにあるかもしれない。
だが、女僧侶は今、祭壇よりも手前にあるものを見て、にわかに警戒を強めた。それは、左右6個ずつ、計12個の棺だった。どうせただの棺ではないだろう。先手を打って火でもつけたいところだが、洞窟内で盛大に火を燃やすことは、自分たちも危険にさらす。
「仕方ありませんね」
覚悟を決めて女僧侶は祭壇に近づいた。彼女が部屋の真ん中あたりにたどり着いたとき、予想通り棺の蓋が一斉に開き、中からゾンビが姿を現した。
「やはりそう来ましたか」
大量のゾンビに挟み撃ちにあったが、女僧侶に焦りはなかった。迫りくるゾンビに対して、彼女は目を閉じ、手を広げて天を仰いだ。
「神よ、迷えるものを、正しき道にいざないたまえ。エグゾルシスム!」
どれほど数が多かろうとも、それがゾンビである限り、神聖魔法の使い手である彼女にとって何の意味もなかった。恐ろしい表情をして襲いかかってきていた腐った死体たちは、一瞬、驚いたように動きを止め、――そしてそのまま崩れ落ちていった。腐りきった顔の表情は分るはずもなかったが、不思議とどこか安堵した表情に見えた気がした。
さらに、彼女の神聖魔法に呼応して、祭壇の奥から白くまばゆい光が漏れだしてきた。
「どうやら、あそこに目当ての「聖なる剣」があるようですね」
こうして魔霊への対抗手段はそろった。いよいよ対決の時。村長の娘と女僧侶は、このダンジョンの最奥、魔霊が待つ部屋へと向かった。
そこは小さな部屋で、祭壇のような場所の上に宝石が浮いていた。部屋に入ると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「誰だ、お前達は?」
女僧侶が答える。
「あなたが魔霊ね!」
「人間たちはそう呼ぶこともあるな。そういうお前達は……そうか、イケニエとして連れてこられたものたちか」
「まるで他人事みたいね。あなたがイケニエを求めているのでしょう!?」
「それは正確ではないな。私にとっては、イケニエはいても、いなくてもどちらでも構わないのだ。確かに、イケニエがいなければ、私は滅ぶ。だが、それだけだ。私は、ここにあれば、自分の役割を果たすが、私が滅ぶというのなら、それは私の役割が終わったということ。それはそれでかまわない」
魔霊の反応は想像していたものとかなり違った。少なくとも、自分からイケニエを求めているわけではなさそうだ。何か事情があるのだろうか? それとも、これは何かに罠だろうか?
分らないが、魔霊の反応は想像していたような邪悪なものではなく、どこか達観したようなところがあった。それが気になった村長の娘と女僧侶は、もう少し魔霊との会話を続けることにした。
「イケニエを……自分から求めているわけではないの?」
「ああ。本来、私はイケニエなどなくても存在できる。しかし、今は私の力の源である森や草原などと切り離され、ここに閉じ込められた。それゆえ、時間が立てばやがて、私はきえさってしまうところであった。だから代りに、イケニエを連れてきて、その生命エネルギーによって長らえさせているのだろう」
「いったい誰があなたを長らえさせているの?」
「私には外のことは分らない。私が消えたら困るやつがいるのだろう」
そもそも、今回のイケニエは王の命令だった。では、魔霊をつなぎとめているのは王なのだろうか?
「……あなたが消滅したら、どんな困ったことがあるというの?」
「私は植物とともにある者。私が消えたからといって植物が消えるわけではないが、それでも私の加護を失い、弱くなってしまうだろう。お前達は私を「魔霊」と呼ぶが、かつては「精霊」と呼ばれたこともあった。私は植物の精霊なのだ」
これまで、この国も何度か厳しい気候に襲われたことがあった。しかし、奇跡的に穀物はよく育ち、基金に襲われたことは一度もなかった。それはこの魔霊の――あるいは植物の精霊の加護があったからなのか? そう考えると、王自らがイケニエを捧げていたつじつまは合う。
……だが、そうすると1つ困ったことがある。もし、邪悪な魔物がいて、それがイケニエを要求し、王も仕方なく要求に応じていたのなら、その魔物を退治すればすべてが丸く収まる。
しかし、この国に必要があって、イケニエを捧げているのだとしたら……。
どうやら、大きな決断の時が迫っているようだ。選択肢は大きく分けて3つある。1つは、手に入れた「聖なる剣」で魔霊を倒すことである。しかし、その後この国はどうなるだろう? さらに、イケニエをつとめるはずだった村長の娘の今後はどうするのか?
もう1つは、魔霊を放置して逃げ出すことだ。その後、魔霊が消滅するか、それとも別のイケニエが派遣されるのか、それはわからない。少なくとも、この幼い娘の命だけは守れる。
そして最後は……国のために村長の娘をイケニエとして差し出すことである。これまで、多くの者たちがそうしてきたように。
選んだあとも考えるべきことはたくさんあるが、今、とりあえずの方針を決めなければいけない。
女僧侶が魔霊に訊ねた。
「あなたは、イケニエがないと、どれくらいで消滅するのですか?」
「さあな。私自身は消滅したことがないので、なんともいえない。まあ、今日明日に消えるものではないだろう。徐々に薄れていって、やがて消え去るのだろう」
と、いうことは、ここから村長の娘を連れだしたとしても、すぐに異変が起きてばれる、ということはないのだろう。
とはいえ、イケニエに差し出したはずの娘が、元の村に帰ってこれまで通りの生活を続ける訳にはいかないだろう。さすがにそれでは逃げ出したのがばれてしまい、村に処罰が下るかもしれない。
女僧侶は村長の娘に聞いた。
「あなたは、もう二度と、故郷に帰れなくなってもかまいませんか?」
「私は、一度はイケニエになると覚悟した身です。村に帰れなくなることは、もとより覚悟の上です」
それを聞いて女僧侶は決断した。
「さよなら魔霊――あるいは精霊とお呼びした方がよいかしら。あなたがどうなるか、それは神のみ心に任せることにします。少なくとも、あなたは討伐されるべき邪悪な存在とは思えませんでしたから」
「私は、どちらでもかまわない。お前達は、元いたところに帰るのか?」
「いいえ、私たちは旅に出ることにします。私は元々、今の寺院にお仕えする前は冒険者でした。また旅に出るだけのことです」
「そうか。さらばだ」
魔霊――あるいは精霊は、人間の生き死にには興味をあまり示さず、再び気配がうすくなった。おそらく、これまでのイケニエというのも、魔霊自らが命を奪ったわけではなく、近くにいることでゆっくりと生命エネルギーを吸い取られてしまっていたのだろう。
女僧侶と村長の娘はダンジョンを出口に向かって歩いた。順路を通ればたいした危険もない。そして出口にたどり着き、何時間かぶりに外の光を浴びた。目が慣れるまでしばらくかかった。
目が慣れてくると、村長の娘がおずおずとたずねた。
「女僧侶さんは冒険者だったのですね。……私も、冒険者になれるでしょうか?」
「そうね。あなたは若く、まだまだ時間はある。きっと何にだってなれるわ」
村長の娘は少しうれしそうだった。
「そんな新人冒険者さんに最初の依頼よ。……私の着れるものを探してちょうだい。ダンジョンのなかならともかく、外ではこのかっこうはね……」
そういえば女僧侶は罠にかかって衣服を失い、下着姿だった。服が売っているどこかの町を目指すか、あるいは大型の獣を狩ってその毛皮をなめすか。いずれにせよ、ダンジョンの外、村長の娘のこれからには、無限の選択肢が広がっていた。(終り)
コメント
5件
重田さん、第24話拝読しました!総集編ということで、ここまでの選択の積み重ねが一つの物語としてまとまっていて、感慨深かったです。特に「魔霊」が実は植物の精霊で、国にとって必要な存在だったという展開にはハッとさせられました。女僧侶と村長の娘が旅に出る決断をしたラスト、とても清々しくて好きです。下着姿で外に出るオチも含めて、温かくて優しい読後感でした✨