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第113話:リスナーの反応「質感の神」「和尚、マジだったのか」〜エンタメが『ガチ』に変わった夜、そして涙のスパチャ雨〜
「……全部、俺の、本当の過去です……っ」
北海道、帯広市。
築三十年のボロアパート、四畳半。
俺、株式会社インフィニティ・ワン代表取締役・秋谷雪(四十歳)は、鼻水をすすりながら、マイクに向かって己の『底辺の過去』を完全に認めた。
その悲痛な告白は、相手である超絶大手VTuber・蒼月(そうげつ)の配信枠を通じて、二十万人以上の視聴者へとダイレクトに叩きつけられた。
画面の中の『リアル秋谷モード』――無精髭、毛玉ジャージ、割れたスマホのアバターが、俺と完全に同期して、情けなくうなだれている。
数秒の静寂。
インターネットの深淵とも言える二十万人の集合知が、俺の放った『質感』の塊を飲み込み、そして消化するまでのわずかなタイムラグ。
これまで、俺のリスナーたちの多くは、こう思っていたはずだ。
『ルシフェル和尚は、確かに面白いおっさんだけど、どこか「計算されたプロレス」だろう』と。
『「限界みそラーメン」や「鈴木さん(ケースワーカー)への怯え」も、そういう芸風(キャラクター設定)なんだろう』と。
だが、違った。
この日、ミリオン登録者の大舞台で、俺は自らの意志でメッキを剥がした。
「……1行も書けなくて、カクカクのスマホでVTuber見て、150円のラーメンすすって……。……どうしようもない、底辺のおっさんだったんです……っ」
窓の隙間から吹き込む、ヒューッという帯広の冷たい春の風。
その環境音と、俺の震える声が合わさった瞬間。
二十万人の視聴者は、理解してしまったのだ。
「こいつ、エンタメでやってるんじゃなくて……ガチの底辺だったのか」と。
『…………』
『……おいおい、嘘だろ』
『和尚……お前、マジだったのか……』
『作られた設定じゃなかったのかよ……っ』
『なんか、ごめん。俺、今まで和尚のこと笑って見てたけど、笑えなくなってきた』
『あのポエム、ガチの悲鳴だったんだな……』
チャット欄の空気が、劇的に変わった。
これまで俺を「面白いピエロ」として消費していたリスナーたちが、俺の『圧倒的なリアル(質感)』の前に、言葉を失い始めたのだ。
『ルシフェル社長』
イヤホンから、アシスタントの結愛(ゆあ)の、冷静極まりない声が響く。
『視聴者の心理フェーズが、【驚愕】から【深い同情と共感】へと移行しました。……ジェミニさん、予測データの更新を』
『ピローン♪』
AIのジェミニ先生が、無機質なテキストを弾き出す。
『はい。視聴者の「自分より悲惨な人間がいる」という安心感は、今や「この痛々しいおっさんを、どうにかして救ってやりたい」という【強烈な庇護欲】へと変異しています』
「ひ、庇護欲……?」
『結果として、共感の換金率(スパチャの飛びやすさ)が、従来の予測値を遥かに上回る【限界突破状態】に突入しました』
そのジェミニ先生の報告と、ほぼ同時だった。
『スパチャ:10,000円(和尚!! 泣くな!! お前は今、立派な社長だ!!)』
一つの赤いスーパーチャットを皮切りに。
『スパチャ:50,000円(1行も書けなかったおっさんが、俺たちに最高のエンタメを見せてくれてるじゃねえか!!)』
『スパチャ:10,000円(その割れたスマホ、今すぐ捨てろ!! 俺たちの金で最新のiPhone買え!!)』
『スパチャ:50,000円(限界みそラーメンなんか食うな!! 帯広の美味い豚丼、特盛りで食ってこい!!)』
『スパチャ:10,000円(和尚!! お前は俺たちの希望だ!!)』
画面の右端が、極彩色の光で完全に埋め尽くされた。
それは、もはや「投げ銭」というレベルではなかった。
「お前ら……」
底辺で泥水をすすってきた四十歳のおっさんに対する、二十万人の視聴者からの、全力の『応援』と『肯定』。
札束という名の、物理的なエールだった。
「だめだ……! お前ら、投げるな!!」
俺は、感極まりながらも、マイクに向かって絶叫した。
「嬉しい! 嬉しいけど、これ以上投げたら、俺の会社の売上が爆増して、来年の消費税と法人税がとんでもないことになるんだよォォォ!!」
「これ以上、税金に怯える夜を俺に過ごさせないでくれ!! 頼むから、スパチャじゃなくて、心の中で応援してくれ!!」
俺が血の涙を流して訴えれば訴えるほど。
『wwwwwwwww』
『そういうとこだぞ和尚www』
『ガチ泣きからの税金への怯えwww』
『スパチャ:50,000円(税金払え!! そしてもっと稼げ!!)』
『スパチャ:10,000円(質感の神www)』
チャット欄は、涙と爆笑の渦に包まれ、スーパーチャットの勢いはさらに加速していく。
相手の蒼月も、あまりの熱狂ぶりに、画面の向こうで腹を抱えて笑い転げていた。
『あははははっ! 最高だよ秋谷さん! 君は本当に、世界一面白い社長だよ!』
「笑い事じゃねええええ!! 俺は今、来年の確定申告を想像して本気で震えてるんだぞ!!」
俺はゲーミングチェアの上で頭を抱え、ただひたすらに飛び交うスパチャの雨に打たれ続けた。
その時だった。
「……秋谷社長」
俺の背後で、ずっと気配を消していた男が、静かに立ち上がった。
帯広税務署・法人課税部門の調査官、黒岩だ。
俺が恐る恐る振り返ると、黒岩はアタッシュケースを手に持ち、銀縁メガネを中指でクイッと押し上げた。
「……黒岩、さん」
「ええ。見届けさせていただきました」
黒岩は、俺のPCモニター……すさまじい勢いで流れ続けるチャット欄と、飛び交う数百万円のスーパーチャットを、一瞥した。
「あなたが、過去の凄惨な事実を武器に、人々の心を動かし、これほどの巨額の資金を正当に稼ぎ出しているという事実。……疑う余地はありません」
「じゃあ……!」
「はい。株式会社インフィニティ・ワンは、名義貸しのダミー法人などではなく、あなた自身の血と汗で築き上げられた、立派な実態のある企業です」
黒岩の言葉に、俺の胸の奥から、ドッと安堵のため息が漏れた。
「完璧に作成された帳簿も、全て事実に基づいた適正な申告として受理いたします。本日の税務調査は、これにて【異常なし】として終了です」
「よ、よかったぁぁぁ……っ!!」
俺は、四十歳の身体から完全に力が抜け、スライムのようにゲーミングチェアに溶け落ちた。
結愛とジェミニ先生が徹夜で作った完璧な帳簿。
そして、俺がプライドをかなぐり捨てて行った「公開処刑」という名の証明。
その全てが結実し、国家権力という最強の敵を、ついに退けたのだ。
「……ただし」
黒岩が、部屋のドアノブに手を掛けたまま、振り返った。
「本日の配信で発生している、その凄まじい額の収益ですが」
「……はい?」
「これも当然、今期の【課税売上】に計上されます。アシスタントの方もおっしゃっていましたが、来年の納税額は、ご覚悟しておいてください」
「ひっ……!!」
「我々税務署は、あなたが正当に稼いだ利益から、一円の狂いもなく、キッチリと税金を徴収させていただきます。……引き続き、正しい記帳と納税をお願いいたします、秋谷社長」
黒岩は、最後にふっと、本当に微かな、だが確かにエリートの「凄み」を含んだ笑みを浮かべ。
ガチャリ、とドアを閉めて、帯広の夜の闇へと消えていった。
「お、鬼ィィィィィィッ!!!」
俺の絶叫が、二十万人が見守る配信の電波に乗り、全世界へと発信された。
税務調査は終わった。
ダミー会社の疑いも晴れた。
しかし、俺の『税金地獄』は、終わるどころか、このコラボの大成功によって、さらにスケールアップしてしまったのだ。
「誰か助けてくれええええ!! 俺はただ、みそラーメン食って、ラノベ書きたかっただけなのにいいいいい!!」
画面の中の『リアル秋谷モード』が、俺と共に泣き叫ぶ。
その叫びに応えるように、リスナーたちはさらに多くのスパチャを投げ続け、株式会社インフィニティ・ワンの口座には、無情にも『来年の税金のもと』となる現金が、津波のように押し寄せてくるのであった。
コメント
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いやああああ今回も最高だったよ!!!😭💕💕 「質感の神」ってタグめっちゃ刺さる…!! 秋谷さんの過去がガチだった証明、リスナーの心が一気に動く瞬間が鳥肌もんだったよ! スパチャの応援に税金の叫びまで入れちゃう憎い演出、まじエモすぎて泣いた😂💸 あと黒岩さんの最後の笑み怖すぎて草生えたww 税務署の神降臨…! これからも応援するね、ゆうきさん!!📣