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『騒ぎを起こしてしまって、申し訳ございません』
頭を下げると、成田部長は眼鏡を掛け、ヒラヒラと手を振る。
『僕が責任を被る事にはならないと思ってるから、別にいい。これでも副社長への信頼は厚いんだ。……でも、友達思いなのは分かるが、あまり会社内で騒ぎを起こさないように。〝あの部署はいつも何かある〟と思われたら、いざという時の信頼が落ちてしまうからね』
『はい。申し訳ございません』
そのあと、私は会議室へ向かった。
ノックをして恐る恐るドアを開けた私は、朱里が同席していない事を知って安堵の溜め息をつく。
代わりに笹島さんという第二秘書がいて、彼とはさほど関わりがないけれど、朱里が『信頼できる』と言っていたから、特に脅威には感じなかった。
でも心配しているのは、私のしでかした事が、巡り巡って朱里を苦しめないかだ。
ペコリと会釈をすると、篠宮さんに『座って』と椅子を示された。
会議室にいるのは篠宮さんと笹島さん、田辺総務部部長に、大迫秘書課課長、人事部から来た担当者だ。
大迫課長は四十代半ばの男性で、仕事はできそうだけれど、しっかり者というよりは、女性陣の尻に敷かれていそうな雰囲気がある。
朱里の話では、課長補佐の住吉さんという三十代後半の女性がバリキャリな雰囲気らしいので、彼女に色々支えられているのだろう。
そんな事を考えていたら、篠宮さんが切りだした。
『秘書課の社員が、中村さんに侮辱されたと言っていたそうだが、事情を教えてくれるか?』
篠宮さんに言われ、私は『失礼致します』とスマホを出してテーブルの上に置いた。
そして前置きとして、朱里が秘書課の人にどんな扱いを受けたのか、そして小鳥遊から盗聴器入りのチャームをもらった事を話し、トイレで録音した音声を再生した。
音声を聞くにつれ、田辺部長と大迫課長の顔色がみるみる曇る。
きっと彼らは、過去に鏑木たちがエミリさんに対してやらかした事を思いだしているのだろう。
再生が終わったあと、私は液晶をトンとタップしたあと、篠宮さんを見つめる。
『他部署の人と揉めてしまった事は謝罪します。ですが親友、そして副社長の私生活が盗聴されていると知って、放置しておけません。誰が誰を好きでも、どうでもいいです。ですが、プライバシーの侵害は別です』
篠宮さんは静かに頷く。
『真正面から〝あなたのやっている事は常識外れだよ〟と言っても、小鳥遊さんは大人しくて物分かりのいいキャラを貫いているので、はぐらかされるだろうと思い、強硬手段に出ました。……途中で鏑木さんたちが来たのは想定外でしたが、上村さんが秘書課に入ったというのに、彼女だけ歓迎会が行われなかったなんて、子供みたいないじめが横行し、上も見て見ぬ振りをしたというのも、納得できませんでした』
言いながら大迫課長を見つめると、さり気なく視線を逸らされた。
どうやら後ろめたく思う気持ちはあるみたいだ。
『大声を上げ、乱暴な言葉を使ったのは良くなかったと反省しています。ですが私は単に〝気に食わない〟という感情で動いたのではなく、確固たる証拠がある上で行動しました。友達のためとはいえ、社内で騒ぎを起こした非は認めます。処罰があるなら受け入れます。ですが、上村さんや副社長の私生活を盗聴しようとした事、笹島さんの歓迎会で上村さんが侮辱的な事を言われた事に関して、大迫課長、田辺部長のご意見をお伺いしたいです』
田辺部長は以前に三人もの島流しを経験しているからか、額に冷や汗を浮かべていた。
大迫課長も苦虫を噛み潰したような表情で、強く私を反論できる状況にない。
『話してくれてありがとう』
篠宮さんは一旦区切りを作り、田辺部長、大迫課長を見る。
『ここからは私のプライベートにも関わる話だが、同棲している上村さんが、秘書課の小鳥遊さんという女性から、盗聴器の入ったチャームをもらったのは事実だ。証拠の写真も撮ってある』
そう言って篠宮さんはスマホを出し、彼らに写真を見せた。
『小鳥遊さんが〝渡していない〟と言ったとしても、同席した中村さんの証言があるし、この事実を覆すのは難しいだろう』
篠宮さんの話を聞いても、田辺部長も大迫課長も、異論を唱える様子はなかった。
『私が上村さんを秘書とした事で、一連の出来事が起こった事も理解している。だが将来的に彼女と結婚する事を考え、前任の社長夫人のように、ある程度の役職、及び秘書業についていたほうが良いと判断して、秘書となってもらった。彼女は新しい仕事をまじめにこなし、秘書としてベテランの笹島さんからも評価を得ている。……だから、身内びいきをなしにしても、上村さんが秘書になった事に問題があるとは思えない』
それに対しても、二人は何も言わなかった。
上野文
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kirisu
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コメント
1件
うわ、今回めっちゃ引き込まれたよ……!主人公が証拠をきっちり揃えて、冷静に話を進めていくのが本当にカッコよかった。盗聴器の話が出た時の田辺部長と大迫課長の反応が、すごくリアルで嫌な空気が伝わってきた。篠宮さんが「結婚を考えてる」ってあそこではっきり言ったのも、すごく安心したし、胸にきた。重い話だけど、ちゃんと向き合って闇を暴く姿勢、好きだなあ🥀🤍