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『小鳥遊さんが誰を好きになっても、誰を嫌いになっても、会社が個人の感情をコントロールする訳にいかない。その点は自由だ。……だが、秘書課の社員が副社長秘書、私に対して盗聴行為をした事は別だ。私と上村さんのプライベートな会話を聞かれるだけに留まらず、役員との会話、会議前後のやり取り、取引先とどのような話をしたか、または人事、経営上の機密も第三者に知られる可能性があった』
そう言われ、あからさまに二人の顔色が変わった。
そして私自身も、盗聴器の問題がここまで大きくなると思っておらず、緊張して膝の上でギュッと拳を握った。
『ここから先は単なる〝もしも〟の話だが、秘書課の誰かの命令で小鳥遊さんが副社長秘書に対して、盗聴行為を働かされたとも言える』
『そ……っ、そんな事は決して……っ!』
大迫課長は顔色を失い、冷や汗を流して首を横に振る。
『君がそうさせたとは言っていない。単に可能性の話だ。……私はこの件を、上村さんが婚約者だからという私的な問題より、会社内での機密漏洩未遂として重く見る必要があると感じている』
田辺部長が、食いしばった歯の間から、『ふぅぅうー…………』と引きつった吐息を漏らす。
『自宅で盗聴器を発見した際、私は〝犯人〟に対して〝二度はない〟と警告した。仮にも我が社の社員だから、上村さん同様に会社として守る必要があると思っていたからだ。……だがそれにも関わらず、悪びれない態度をとっていたなら問題がある。……今後、別途小鳥遊さんにも個別ヒアリングをして、二度としないと約束するなら、警察沙汰にはしない。しかし秘書としての信頼を失った彼女を、今後も秘書課で働かせる事はできない。……そちらについては、人事も交えて相談したいと思っている』
『……はい』
田辺部長も大迫課長も、何も言えず頷くしかできずにいた。
『そして鏑木さん達に関する出来事だが、歓迎会での上村さんへの暴言については、ここにいる笹島さん、社長秘書の諸岡さん、丸木さんからも証言を得ている。加えて過去に彼女たちは、元副社長秘書だった丸木さんに対しても、業務上のミスを誘発する行動をとった記録がある。上村さんも秘書になったあと同様のミスをし、元を辿れば秘書課から意図的に情報伝達をされなかった裏がとれている。……鏑木さん達について、このような行いは二度目になる』
冷酷に告げた篠宮さんの声を聞き、二人とも震え上がっている。
『今回、秘書課からは〝中村さんから暴言を受けた〟との報告があったが、録音された音声を聞けば、大きな認識のズレがある。……確かに中村さんが大声を上げ、恫喝したように感じたのは否めない。しかし問題はなぜ中村さんがそのような行動をとったか、だ。今日はまず最初に中村さんに来てもらったが、秘書課全員、一人ずつヒアリングする予定だ』
そこまで言って、篠宮さんは私を見つめた。
本当は朱里には知られたくなかったけど、ここまで事が大きくなったなら仕方ない。
それにヒアリングした上で、正式に小鳥遊や鏑木たちを追い出せるなら、肉を切らせて骨を断つでいいのかもしれない。
小さく頷くと、篠宮さんは話を続けた。
『大迫課長、私はあなたの管理態勢に問題があると感じている。なぜこのような出来事が二度も起こったか、納得できる説明ができるか?』
水を向けられ、大迫課長は唇を引き結び、小さく息を吐いてから返事をした。
『……秘書課の女性たちはしっかり者が多く、普段は課長補佐の住吉に一任しています。伝達したい事がある場合、同性である住吉からのほうが聞く耳を持つかと思いまして……』
『……だから、課の管理を放棄した?』
静かに問われ、大迫課長は『いえ……っ』と苦しげに否定するも、続く言葉を口にする事ができずにいる。
『管理職として課を纏めるのに、性別が関係あるのか? 昨今の女性は強いという事も承知の上だが、管理職として部下に注意する事はそんなに大変だろうか? 女性社員の性格が強いから言う事を聞かせられないなら、そもそも君の管理能力が問われるな?』
大迫課長の口からはなんの声も出なかった。
『田辺部長。あなたの管理下でこの手の騒ぎが起こるのは三度目だ。勤務歴の長い齋木さんを庇いたかった気持ちは分かるが、その後彼女は同じ過ちを犯し、橘さん、南郷さんと共に騒ぎを起こした。……そして今回は秘書課だ。……私はこうなる前に、統括している課から報告をこまめに受け、同様の問題が起こらないよう改善する事を求めたはずだ』
『…………はい…………っ』
田辺部長は毛髪の頼りなくなった額におびただしい汗を浮かべ、頻りにハンカチで拭っていた。
『私は両名ともに、管理監督責任を問いたい。厳重注意と改善指示を出した上で、人事部での再評価を求める』
静まりかえった会議室に、人事担当者がタイピングする音が響く。
『中村さんについては、口頭注意とする。……そして私自身についても、上村さんの人事を間違えていたとは言わないが、彼女の関係を考慮した上で、もっと職場環境を確認する責任があったと思っている』
他人を責めるだけじゃなく、自分にも落ち度はあったと言って落とし所をつけるのは、さすが篠宮さんだな、と感じた。
『中村さんへのヒアリングはこれで終わりとしたいが、他に言いたい事は?』
尋ねられ、私は『いいえ』と首を横に振る。
コメント
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いやあ、今回も本当に読み応えがありました……。篠宮さんの「機密漏洩未遂」という切り口、胸がすっとしました。私情じゃなく、組織としての問題として整理したのがプロフェッショナルすぎる。そして「自分にも責任があった」と落とし所をつけるところ、さすがだなあと。大迫課長と田辺部長が押し黙るしかなかった場面、三人称の描写が効いてて緊張感が伝わってきました。犯人側、これでようやく動かされるのかな……続きが気になります!