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番外編
夜の街は、少しだけ静かだった。
「遅くなったね」
元貴が笑いながら言う。
「元貴が寄り道するからでしょ」
隣で涼架が軽く返す。
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学生の頃みたいに、毎日会えるわけじゃない。
それぞれの生活があって、時間もバラバラで。
だから――
こうして会える日が、少し特別になった。
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「なんかさ」
元貴がぽつりとつぶやく。
「前より、会うとドキドキする」
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「それ、今さら?」
涼架は少しだけ笑う。
でもそのあと、少しだけ真面目な声になる。
「俺もだけど」
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元貴は一瞬言葉に詰まる。
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「…なんでだろ」
「会えない時間があるからじゃない?」
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その答えに、妙に納得する。
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気づけば、足が止まっていた。
街灯の下。
お互い、少しだけ近い距離。
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「元貴」
名前を呼ばれる。
低くて、落ち着いた声。
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「なに」
答える声が、少しだけ緊張している。
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少しの沈黙。
でも、それが嫌じゃない。
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「さ」
涼架がゆっくり言う。
「ちゃんと実感してる?」
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「なにを?」
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「付き合ってるってこと」
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元貴は一瞬固まる。
でも、すぐに小さく笑う。
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「してるよ」
「ほんとに?」
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「してるって」
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そう言った瞬間――
ぐっと、距離が近づく。
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「じゃあさ」
涼架が少しだけ顔を近づける。
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「もう少し、近くてもいいよね」
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元貴の心臓が一気に跳ねる。
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でも、今回は目をそらさなかった。
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「…いいよ」
小さく答える。
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そのまま、ほんの少しだけ距離が縮まる。
触れるか触れないかの、ぎりぎりの距離。
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昔だったら、絶対に無理だった。
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でも今は――
逃げる理由がない。
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「ほんと、変わったね」
元貴が小さく言う。
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「元貴がそうさせた」
涼架が静かに返す。
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その言葉に、胸がじんわり熱くなる。
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少しだけ間があって。
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涼架が、ふっと笑う。
「顔、赤い」
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「うるさい」
元貴がそらすと、
軽く肩を引かれる。
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「でも、そういうとこ好き」
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一瞬、時間が止まる。
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「…ずる」
元貴が小さくつぶやく。
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「今さらでしょ」
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ふたりは少しだけ笑った。
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また歩き出す。
今度は、自然に距離を保ったまま。
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昔みたいに、触れるだけでドキドキして。
今は、隣にいることが当たり前で。
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でも――
その全部が、ちゃんと特別だった。
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「ねえ」
元貴が言う。
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「これからも、ずっと?」
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「うん」
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迷いのない答え。
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「ずっと」
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夜の空気は、少し冷たいのに。
手のぬくもりだけは、ずっとあたたかかった。
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