テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
退院が決まった日、二人は大人たちの目を盗んで、こっそりとSNSのアカウントを交換し、お互いをフォローし合った。主治医からは「他の患者さんとの個人的な連絡先の交換は、お互いの治療のために絶対に禁止です」と強く言われていた。それでも、あの暗い病棟で秘密を共有し合った二人の結びつきは、簡単に断ち切れるものではなかった。
退院後、少しだけ体の調子が良い日、楓は紬と街で待ち合わせをした。
「楓ちゃん、こっちこっち!」
「紬ちゃん! 久しぶり!」
二人は久しぶりの私服姿で、お気に入りのカフェに入った。色鮮やかなクリームが乗ったドリンクを前に、スマートフォンのカメラを向けて笑い合う。その後はゲームセンターへ向かい、最新のプリクラ機の中へ。
「どんなポーズにする?」
「これにしよ!」
レンズに向かってピースサインを作る楓の顔には、かつての「1軍少女」だった頃の、眩しい笑顔が戻っているように見えた。
そんな二人から、少し離れた場所。
買い物を装いながら、母親は静かに娘たちの後ろ姿を見守っていた。
(あの子が、あんなに笑ってる……)
母親の胸に、じわリと温かい涙が込み上げる。主治医から連絡先交換の禁止を言い渡されていたことは、もちろん知っていた。規則を破っている娘を叱るべきなのかもしれない。けれど、ここ数年、苦痛に顔を歪めて泣き叫ぶ姿か、生気を失って天井を見つめる姿しか見せてくれなかった娘が、今、友達と楽しそうに笑っている。
(あの子が一時的でも、昔のように笑顔になってくれるなら……。今は、これでいいのかもしれない)
母親は複雑な葛藤を抱えながらも、目の前にある娘の「笑顔」という現実に、ただ救われるような思いを抱いていた。
その後も、二人は何度も都合を合わせては会って遊んだ。お互いの親が付き添う中で、カフェに行き、買い物をし、普通の女の子としての日常をなぞるように。
しかし、一歩街を出て、それぞれの部屋に戻れば、現実の重みが再び二人にのしかかる。
夜、薄暗い部屋でスマートフォンが震える。画面を開くと、SNSには日中のきらびやかな写真とは真逆の、ドロドロとした暗い言葉が並んでいた。
紬:『やっぱり生きているの疲れた。今日もリスカしちゃった。腕ボロボロ』
楓:『わかるよ。私も今日、夕飯全然食べられなくて親の目がキツい。消えちゃいたいよね』
二人はSNSのタイムラインで、相変わらず暗くつらい日々の愚痴をお互いに吐き出し合っていた。傷口を見せ合い、その痛みを肯定し合うことでしか、自分の存在を保てない。
表面上のきらきらした笑顔の裏側で、二人はお互いの苦しみを舐め合うようにして、さらに深く、歪んだ依存の沼へと足を踏み入れていくのだった。
22
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!