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普段と変わらない王城内の廊下を、足早に歩く男女の姿があった。それは執務室から出てきたジェシーとサイラスだった。
「行き先が王女宮なのはどうして?」
ロニに催促した通り時間がないため、あのまま執務室ですべてを聞くのは、困難だと判断したジェシーは、移動しながら話すことを提案した。
ただ、内容には気をつける必要があるため、少し不便だった。
「他に行くところがあるのではなくて?」
王子宮、とか。
「さっきも言ったが、そっちはシモンとレイニスが向かっているから大丈夫だ」
「その大丈夫が分からないから聞いているのよ」
暗に詳細を話せと匂わせながら、サイラスの出た方を待った。もしも、予想通りなら、ランベールの身が気にならないわけにはいかなかった。
「邪魔だからといって、すでに私みたいに、その、なっていたら……」
思わず言葉を濁した。
「それも含めて、詳細は聞いているから大丈夫なんだよ」
「無事ってこと?」
「あぁ。だから、お前の言う戦力外のシモンが乗り込んでも問題はない。そもそもランベールの側近なんだから、簡単に通してくれるだろう」
そっか。それもそうね、とジェシーは胸を撫で下ろした。シモンは来月ミゼルと婚約する身だ。何かあっては困るのだ。
「じゃ、その詳細とやらは後でちゃんと聞かせてちょうだい」
「意外だな。てっきりセレナだけ心配しているのかと思っていたが」
「そこまで薄情じゃないわ。一応、ランベールだって幼い頃から知っているんだから」
そう、交流があるのは四大公爵家内のことだけではなかった。ランベールもまた、その枠に入っていたのだ。成長するにつれて線引きされ、いつしか四人だけになっていただけで。
「心配しないわけはないでしょう」
「はは。大きな枠で一括りにすれば、ランベールもその中に入るってわけか」
敵わねえな、とサイラスは薄ら笑いした。
「それに、サイラスにとっては未来の上司じゃない。心配じゃないの?」
「……まぁな。知らない奴より知っている奴の方がやり易い」
素直じゃないのか、本音なのか判断しづらかった。
気がつくと二人は、王城の外までやってきていた。このまま真っ直ぐ行けば、庭園が見えるだろう。そしてその先にあるのは、王女宮だ。
王城を出てすぐに、王子宮の方をチラッと見たが、思いの外静かだった。
「もう突入した後だからだろ」
心でも読んだのか、切り捨てるようにサイラスが言い放った。ジェシーは諦めるように、足を庭園へ向け、再び歩く速度を上げた。
「サイラスはコルネリオのこと、どう思っているの?」
もう聞きたいことが、この場では話せないものばかりになってしまったため、素朴な疑問を投げかけた。庭園に入ってしまえば聞けない話題でもあった。
「特に何もないな。興味も湧かん」
「そう言うもの?」
「まぁ、お前は命を狙われたからな。色々思うのは当然だが、俺からすればランベールと変わらない、バカだ」
そんな身も蓋もないことを、とジェシーは呆気にとられた。
「考えても見ろ。大人しく領地で一生過ごしていれば、平和に生きられる道にいられたんだぞ。それをわざわざ何時命を狙われても可笑しくはない、権力闘争に向かって行くなんぞ、バカのやることだ」
「意外ね。サイラスでもそう思ったりするのね。普通で平凡な家庭に生まれたかったなんて」
「こういう厄介事に巻き込む妹分を持つとな」
「あら、人生の張りが出来て、いいのではなくて?」
サイラスの皮肉なんて何のその。ジェシーは言い返した。
「そうだな。もう一人の妹分が、珍しく面倒事を持ってきたんだ。対応してやらねぇとな」
「えっ、そうなの?」
「フロディーから言伝を聞いてな。『迷惑をかけてごめんなさい』だってよ」
「……どういうこと?」
思わず、ジェシーは足を止めた。
助けてじゃなくて、迷惑って? それじゃまるで――……。
「セレナはコルネリオに付いて行ったというの?」
「……言葉に気をつけろ」
サイラスの指摘に一瞬怯んだが、このまま流すつもりはなかった。歩みを止めたまま、ジェシーはじっと見つめた。すると、それが伝わったらしく、渋々サイラスが重い口を開いた。
「フロディーとシモンの話だと、そうらしい。どう接点があったのか、知り合いのようだった、ともな」
「嘘」
「何で、俺がお前に嘘を言わなきゃならねぇんだ」
「だって、えっ、どういうこと?」
ロニもユルーゲルも、面識はないって。だから、誘拐されたんじゃないかって思ったのに、違うというの?
「まさか、共謀?」
「俺は、ロニと違って優しくないから言うが、その線だと思った方がいい」
返事のないジェシーの手を、サイラスは乱暴に取った。
「ここで思い悩んでも仕方がないだろう。すぐそこに答えがあるんだ。急ぐぞ」
「う、うん」
サイラスに引かれ、歩き出したジェシーは、振り絞るように返事をした。頭の中を真っ白にしながら。