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麗太
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ゴウッ……!
突然、祭壇の奥の壁が崩れ、濃厚な腐敗臭が鼻を突く。
ドスン……ドスン……。
重い足音が響き、洞窟全体が震えた。
「……来るぞ」
辰夫が身構える。
『千年ぶりだな……魔神族』
ユズリハの声に、鋭い殺気が宿った。
『てめぇらのせいで……千年も妹と離れ離れだったんだぞォォ!!』
「……はぁ、面倒だけど、ここで試すしかないか」
私は渋々、祭壇の籠手を両腕にはめる。
ガチャコン……☆
途端に、真っ黒だった籠手に金色の紋様が走り出し、
まるで心臓の鼓動みたいにドクドクと脈打った。
血管じゃない。籠手全体が呼吸しているみたいだ。
『サクちゃん! やっと装備してくれたぁぁ!!』
「うるさい! 声が近い! 耳元で叫ぶな!」
腕にずっしりとした重みを感じる。
でも、重いのに振ってみると不思議なほど軽い。
まるで、私の動きを先読みして勝手に補正してくれる感じだ。
『ふふん、これが姉のナビゲーションよ!』
「気持ち悪いこと言うな!」
辰夫が横目で、じっとこちらを見つめている。
その視線は、懐かしさと驚きと……
ちょっと泣きそうな色が混じっていた。
「……ユズリハ殿が……本当に」
「今は戦闘! 感傷に浸るな竜王!」
私は辰夫の背中をバシッと叩いた。
──そして、魔神族が現れる。
黒い影が瘴気の中で膨らみ、赤く光る二つの目が暗闇に浮かぶ。
口から垂れる涎が地面を溶かし、
ジュウジュウと煙を上げている。
牙を剥いた顔は半分が腐り落ち、
筋肉がむき出しになったまま動いていた。
「うわ……臭っ!」
私は思わず鼻を押さえる。
「瘴気で強化されているだけでなく、毒も放っている……?厄介だわ」
『来るわよ! 二人とも!』
ユズリハの声と同時に、魔神族が地面を蹴り、猛突進してくる!
──その瞬間、私はニヤリと笑った。
「辰夫、見てろ……これが本気のぉ……ロケットパァァンチ!!」
右腕を大きく振りかぶり、右手の籠手をそのまま投げた!
「よいしょー!」
ブンッ!
『またぁあああああ!?サクちゃん? サクちゃーーーん!?』
投げられた籠手は──猛烈な回転をしながら周囲の空気を巻き込み、竜巻のような衝撃波を生み出す。
ギュイイイイイン──!!
ズドンッ!!!
──直撃。
魔神族の顔面が陥没し、黒い血が飛び散る。
その巨体が吹き飛び、壁に叩きつけられた瞬間──辰夫の黒炎が追撃した。
「燃えろ……」
ボボボボボ!
辰夫が完璧な決めポーズをとる。
「ふ……」
「おおっ! ちゃんと飛んだ! 凄い! アニメみたい!」
私はそんな辰夫をガン無視してはしゃいだ。
『凄いでしょ! サクちゃん、お姉ちゃん凄いでしょ!!』
ユズリハも辰夫をガン無視してはしゃいだ。
「今、我の見せ場でした……」
辰夫が一人で赤面している。
私は真っ赤な顔の辰夫を横目に、
糸スキルで籠手(ユズリハ)を引き戻す。
ワイヤーのように伸びた糸が籠手を掴み、
高速で手元に戻ってくる。
そのまま勢いよく装着し、両腕で構えた。
ガチャコン☆
『え……ちょっと待ってサクちゃん……今、口から糸出た?』
「ん? うん、便利でしょ」
『ウソでしょ!? キンモォッ!?
サクちゃん口からネバネバの糸出すの!?
お姉ちゃんそういうの生理的にムリなんだけど!!』
ガコンッ! ジタバタッ!
突如、右手の籠手が「絶対に外してやる」と言わんばかりに、
私の腕から抜け出そうと激しく暴れ始めた。
「ちょっ、おまっ、戦闘中だぞ!」
『イヤァァァ! ネバネバの口の糸で引き戻されたとか考えただけで鳥肌立つぅぅ! 洗って! 今すぐ金木犀の香りで洗ってぇぇ!!』
「このポンコツ籠手がぁああああ……」
『あとなんかよく見たら頭からツノ生えてるし!?
サクちゃんどうしたのよ!? キンモォッ!!!!!』
「よし!!ハード◯フ行き確定!!」
ガンッ! ガンッ! ドゴォッ!
私は左手の籠手で、腕から逃げようとする右手の籠手を容赦なくタコ殴りにした。
『ちょ! 痛い!
私で私を叩かないで! 凹む! 物理的に凹む!!』
「……お二方、真面目にやっていただけませんかね……」
辰夫が遠い目をしながら、深く、ひどく深くため息をついた。
「グルルルル……小娘がァァ!!」
魔神族がよろめきながらも立ち上がり、
怒りに燃える赤い瞳で私を睨んだ。
巨大な腕を振り上げ、こちらに向かって振り下ろしてくる。
「あ、反撃してきた」(のんびり)
『危ない!』
だが、糸スキルで軽やかに天井に回避。
魔神族の拳が空を切る。
「気を取り直して──いくぞ!」
私のこめかみが、ピクッと跳ねた。
ピキィィィ……ッ!!
(──家を出る前……玄関の鍵閉めたっけ……?
いや、閉めたはず……でも、あれ……?)
【スキル:《怪力》── 鍵、やっぱり閉まってたじゃねぇかモード発動!!(筋力+500%)】
《天の声:家の鍵を閉めたはずなのに気になる。人類のバグ。無駄足の怒りでサクラの筋力が500%アップ! 不思議だな?》
『解説のタイミング完璧!!』
ユズリハがツッコむと同時に──
私の全身から蒸気が立ち上る。
筋肉が見る見るうちに膨張し、血管が浮き出る。
地面を踏みしめるたび、足元の岩盤に亀裂が走る。
「閉まってるって分かってた! でも戻った! やっぱ閉まってた! ……もう殴るしかねぇだろコレ! 殴らせろよ! 魔神族ぅッ!」
『つまり八つ当たりね! 人としてどうかと思うけど、それ筋肉に変換できるのね! サクちゃんの女子力が無くてお姉ちゃん心配!』
「……」
(*涙目でプルプル → 怒りで怪力 + 800%にアップ)
『サクちゃん! なんで泣いてるの!?
ほら! サービスよ! ……いったらんかい!』
さらに籠手がまるで生き物のように光を帯び、装着部から金色の魔力が筋肉へと流れ込み、私の力を限界を超えて増幅する。
「これは……」
そこに辰夫が左へ回り込み、炎の壁を作って敵の退路を塞いだ。
「……ユズリハ殿と戦うサクラ殿、楽しそうですな」
「ナイス辰夫! よし! 左手いくぞ!」
『え? え?』
そして私はロケットパンチ(左)を発射──。
『また投げたぁ!?』(※この女は学ばない)
ドガンッ!!
左腕が一直線に魔神族の胸元へ。
籠手が鎧の隙間を突き破り、ガキィンと音を立てて指が食い込む。
「そのまま掴め!」
『え? え? うん!』
むんず!
籠手がそのまま魔神族の首をガッチリと掴む。
魔神族が「ぐえっ!」と息を詰まらせた瞬間──。
「……よし、戻ってこい!」
糸スキルを発動──ギュンッ! と左腕が勢いよく引き戻され、魔神族の巨体が猛スピードで私の方へ引き寄せられる。
「おっかえりなっさーい♡ の、右ストレートッ!!」
ドガァァンッ!!
怪力+籠手の拳が、引き寄せられた魔神族の顎を真正面から粉砕した。
衝撃波が洞窟の壁を走り、天井から岩がパラパラと落ちる。
「ふふん! 引っ張る力も加えたカウンターの一撃……クセになるだろ?」
『これは……楽しい! サクちゃん戦闘の天才?』
糸スキルで左籠手を引き戻し、装着の瞬間に全身へ魔力が巡る。
ガチャコン☆
『ふんす!』
同時にユズリハが籠手全体を振動させ、破壊力をさらにブーストした。
『サクちゃん! 最大出力いくよ!』
「うん?」
二人の魔力が完全にシンクロする。
籠手が限界まで輝き、内部構造が透けて見えるほどの光量になった。
「おぉぉ……」
周囲の瘴気が魔力に押されて、壁際まで後退していく。
『「姉妹合体技──」』
私が右腕を天に掲げると、光を纏った籠手が巨大化した!
『「三千世界☆姉妹粉砕拳! おやつタイム♡」』
「あぁ。二人ともお腹空いたってことですな」
辰夫が呆れ顔で呟く。
「おのれ、小娘どもォォ! 我が怨念は千年の時を超え──」
ドガアァァァンッ!!
巨大化した籠手が隕石のように落下し──
魔神族の立派な呪詛を地面ごと粉砕した!
衝撃で洞窟全体が激しく揺れ、天井から岩が降り注ぐ。
着弾地点を中心に巨大なクレーターができ、
底で魔神族の灰がくすぶっている。
「二人ともやりすぎ! 洞窟崩れますぞ!?」
「知るか! 崩れたら走ればいい!」
『ノリと勢いよ! 倒した後のことは知らない!』
「……この二人と一緒だと、我はいつか事故で死ぬ」
辰夫が空を仰いだ。
『千年ぶりの実戦だったけど、まだまだイケるね!』
「ふふん!」
「いや、おふたりとも強すぎでしょ……奈落の主でも瞬殺できそう」
『サクちゃんと私の相性、最ッ高!』
「まあ、悪くないな」
『川に捨てた部品があれば、もっと強かったけど……』
「「……」」
私と辰夫は下を向いた。
金木犀の香りが、まだ煙の残る洞窟にふわりと広がる。
『私は武具でも残骸でもいい。サクちゃんが未来を殴り開くなら、その拳の一部でいられる』
「大袈裟だな。私はただ楽しく生きたいだけ。その間に邪魔なものがあれば殴る。」
『タフに育ったわねサクちゃん……』
「普通でしょ?」
『……でもサクちゃん、殴りすぎて将来結婚出来ないかもしれないね? お姉ちゃん心配!』
「余計なお世話だぁぁぁ!!」
(つづく)
「汚れたからまた洗うよ、辰夫」
「はい!」(※金木犀の香りの洗剤を差し出す)
ゴシゴシ……
バキッ!!
じーっ
ポイッ!
……ポチャン。
『いやあああああああ!!』