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【前回までのあらすじ】
二人ともお腹空いてた。
◇◇◇
「サクちゃん、落ち着いて聞いてほしい」
籠手の声が、急に真剣な調子になる。
「私はユズリハ。千年前、魔神族との最終決戦で命を落とし、この籠手に魂を宿した」
─────
《天の声(千年前の回想):空は燃え、大地は沈み、戦士たちは倒れた。
それでも彼女だけは、最後まで立っていた》
─────
「……ふーん。初耳だわ」
私は半信半疑で籠手を見つめた。
「サクちゃんはあの戦いのとき、まだ生まれて間もなかった。
小さな、本当に小さな赤子だった」
籠手が優しく光る。
「千年前? 私が赤子?」
頭の中で言葉を反芻する。
あまりに突飛な話に、実感が湧かない。
「サクちゃんたちを守るため、別の世界へ送ろうとしたの……。
でも、魔神族の妨害で転送が暴走してね。
サクちゃんたち、ずっと迷子だったの」
「……たち……? 私だけじゃない……?」
「な、なんと……サクラ殿はあの時の……赤子……ということは他の二人も?」
辰夫が驚愕の声を上げる。
「待て! 辰夫! 他の二人……?」
口の中がカラカラに乾く。
頭の奥で、いま聞いた言葉を必死に反芻する。
整理しようとしても、情報が多すぎて処理が追いつかない。
千年前? 籠手? 姉? 妹?
冗談みたいな話なのに……どこか懐かしい。
「そうだ。お前の魂は私たちから引き離され、長い間、どこにも属さず彷徨っていた。寂しかっただろう」
「待って待って待って……」
私は思わず両手を前に突き出して制する。
胸が焼けるみたいに熱い。
涙が勝手に滲んできて、視界がぐらついた。
自分でもわからない感情が、喉の奥でせり上がってくる。
「いきなりそんな大昔のこと言われても、信じられるわけないし! 証拠もないし! でも……」
言葉が詰まる。
「なんでだろ、なんか……懐かしい……? この感じ……知ってる……?」
「魂は覚えている。サクちゃんの頭が忘れていても、魂の奥底には記憶が刻まれているの」
息が浅くなる。
信じたい気持ちと、信じたくない気持ちがぐちゃぐちゃに混ざって、胸の中で暴れていた。
「血と魂の繋がりは、どんなに時が経っても消えない……サクちゃんには妹が二人いる。カエデとツバキ……三人とも私の大切な妹だ」
籠手から漂った金木犀の香りが、なぜか私の記憶をざわつかせる。
──地球の路地裏、秋の夕暮れ、カエデとツバキと笑い合った匂いと同じだった。
「……は?」
一回だけ、心臓が止まった。
「カエデと……ツバキが……」
声が出ない。続きが言えない。
あの二人が。あの馬鹿二人が。
(……なんで、泣きそうなんだろ)
「……くそ……なんで今、あいつらの顔が浮かぶんだよ」
もしかして……本当に家族が……?
地球のおじいちゃんとおばあちゃん……
そして妹のエスト様の他に、私に家族……。
「私に……家族が……?」
声が震えていた。
胸の奥が、ぎゅっと痛くなる。
家族。
私に、おじいちゃんとおばあちゃん以外の家族がいた。
嬉しい。
悔しいくらい、嬉しい。
「ね、ねぇ、ユズリハ…………お姉ちゃ──」
「あ、そうそう。ちなみにサクちゃんのお姉ちゃん、あと四人いるよ」
籠手(ユズリハ)がサムズアップした。両手で。
「は?」
「みんな武器か防具になってるから探しちゃおう!」
「いや、いい」(※胸の前で腕をバツにクロス)
「即答ッ!!」
『ひどい!』
辰夫とユズリハが同時にツッコむ。
『みんな個性的よ! まともなのは……えっと……』
籠手の力がクテッと抜けた。
「いないのかよ」
私はジト目で籠手を睨む。
「ま、まさか、あの方々も……?」
すぐに辰夫の声が震えた。
「全員そろうと合体して巨大戦士になるのに?」(※今考えた)
籠手がドヤ顔しているようにピカッと光った。
「マジで!? それは見たいけど!」
私は思わず前のめりになった。
「あの方々も生きておられる……! 巨大戦士として……! よかった……!」
辰夫は両手で顔を覆い、感涙を拭っていた。
──そして、ここから興奮した辰夫の様子がおかしくなった。
「サクラ殿がメインパイロットに!? 我は巨大戦士の皆様と共に戦えることを誇りに思いますぞ!!」
辰夫が私の前に片膝をつき、目をキラキラと輝かせる。
「名は……六姉神合体サクラリオン……ッ!」
辰夫がバチーンとウィンクをして、笑顔でサムズアップした。
「秒で命名すな!」
私が鋭くツッコんで空気を切るが、辰夫の暴走は止まらない。
「合体時のBGMは熱いブラスバンド!
必殺技はサクラ殿の決めポーズで発動!
さらにグッズ化したら観賞用・保存用・布教用で最低3セットは買いますぞ!
もちろん等身大ポスターも自室の天井に貼りますぞ!!」
辰夫が一息で、凄まじい早口でまくし立てた。
竜の闘気とは明らかに違う──ねっとりとした熱気が辰夫から立ち上っている。
『どうしよう……適当な嘘なのに辰夫の琴線じゃなくて……
変なスイッチ押しちゃった……』
私の腕の中で、ユズリハが罪悪感でブルブルと明滅し始めた。
「まぁ男ってロボとか好きだもんね……。
でも合体するなら、私はやっぱりドリル撃ちたいな。
『必殺、サクラ・ドリル! 理屈は知らん! とりあえず貫け!!』みたいな!」
『サクちゃんまで乗っかっちゃった! 嘘って言えない! 誰かこの地獄の空気止めて!!』
「うおおお! 必殺ッ!! サクラフルバースト桜花乱舞拳ーーーッ!!!」
辰夫が両腕をクロスさせ、天に向かって雄叫びを上げた。
その精悍な顔からは、興奮のあまり一筋の鼻血が流れている。
『竜の威厳が鼻から出てるよ辰夫……』
「おい! 私の必殺技なんだから私に命名させろよ!!」
私は辰夫の頭をペチッと叩いた。
*
金木犀の香りを残して、奈落の出口を目指す足は、また瘴気の中へと踏み出した。
暗闇の先に、かすかに風が吹いているような気がした。
……その風の中に、こちらを知っているような息遣いが混じっていた。
(つづく)
麗太
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