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グルートに何を盗まれたのか今の時点で見当がつかない。彼のかたわらには聖女エドラと賢者テミドの姿が見えている。何かを盗んだとされるグルートは、彼らを交互に見ながら意外な行動を取った。
「うっ……うぅっ……アック。ぼ、僕は、間違っていたよ」
その場で膝をつくなんてどういうつもりなんだ?
「間違い?」
「そう、そうなんだよ。僕は君の才能、スキルに嫉妬していたんだ……だから粗悪なガチャの結果で落胆をしてしまった。それは僕のミスであり、完全な見誤りでもあったんだ」
「……つまり、謝るからもう一度パーティーに戻って欲しいと?」
今さら謝ったところでもう遅いのに、何なんだこの態度は。
「うううっ、そ、そうなんだ。さっき君から盗んだのは君にとってさほど気にするスキルでもなく、いらないもの……ゴミのようなスキルだよ。僕の罪滅ぼしとして……許してくれ、アック」
ゴミスキルと思ったことなんておれには無いけどな。それにしても滑稽な姿をさらけ出している。まさかSランクの勇者が人前で土下座をして涙を見せるなんて。
この光景にルティとスキュラの二人は驚いて目を丸くしている。
だがおれの隣にいた彼女がそっと耳打ちする。
「(アック様。わたくしは聖女を封じましょう。あなた様は、いつでもご準備を……)」
何を盗まれたのかバヴァルには分かっていて、小細工も見破っているようだ。おれも一芝居打ってみるか。
「……盗んだものを返してくれさえすれば、おれはあんたを許す。その代わり、今すぐここから去ってくれ!」
「返す! 返します。だ、だから、僕たちにもう一度チャンスを――」
「チャンスなんて無いな。それにおれにはここにいる最高の仲間の彼女たちがいる! 何度言われてもどんなに言われても、Sランクパーティーに戻るつもりはない!」
グルートに話をしている最中だが、盗まれたスキルが分かった。
まず一つは魔獣変化スキル。もう一つはガチャスキルだ。もちろんレア確定の方じゃない。元から備わっていたのは、ノーマルガチャスキルだが、それを盗まれた。それ自体おれにとっての固有スキルにもなり得るが。
【レア確定】ガチャスキルが覚醒した今となっては、大した焦りも無い。
「おいおいおい、何だぁてめぇのその態度はよ!! それが涙を流して謝ってる者への態度か? あ?」
「フフッ、全くその通りですわね。グルート様にあそこまで言わせて、それでも許さないなどと……思い上がりもはなはだしいことですわ!」
やはりテミドとエドラの二人はそういう態度を見せてくるか。すると、二人の態度が合図かのように勇者グルートから早くも笑いが漏れ聞こえてくる。
「あはははっ! そうだろうね。ドワーフメイド服に子供、それと魔物を連れ歩いている君のことだ。そう言うだろうと思っていたよ。まぁいい。君が得意にしていたスキル……それを盗ませてもらった!!」
「ま、まさか……!?」
「そのまさかさ! 見たまえ、僕の手の平に浮かぶガチャスキルの証を!!」
そういうことか――ということは、グルートのガチャで魔物か何かを出しておれに向かわせるつもりがあるってことだな。
予想していると、案の定聖女エドラの弱体魔法が発動を見せている。恐らく麻痺系統だと思われるが、すでに耐性が出来ているのは幸いなことだった。
「うっうぅぅぅ……、ど、どうして」
ここはあえてかかったフリをしつつ、グルートがやるガチャを見守ることにする。
「はっはっは! エドラの状態異常魔法はどうだい? 苦しいだろう? そんな君に、絶望というガチャを見せてあげるよ! そこで黙って見ておくといい」
グルートはどこかで魔石を何個か手に入れてきたんだな。機嫌よくおれの目の前でガチャを始めるのが何よりの証。
しかし、
「くそっ、くそぉっ!! 何でだ、何で雑魚しか出ないんだ! やはりゴミスキルなのか? アックではなく、勇者である僕でも使えないスキルだというのか!?」
一応魔物を出したようだが、そのほとんどは低級な魔物ばかり。少なくとも勇者の意思でいうことを聞くような魔物では無かった。アイテムに関しても同様だ。どういうわけか使えそうにない素材ばかり出まくって、地面に転がっている。
こんな状況にいつまでも芝居をしていても意味はない。何事も無かったように起き上がって決着をつけよう。
「何か出すつもりでは無かったのか? グルート」
「――お、お前!? 動けたのか?」
「それはそうだろ。あんたの仲間がかけた弱体魔法に耐えたからこそ、生きてここにいるんだけどな」
「くそっっ!! エドラッ! 何をして――!?」
聖女エドラはバヴァルによって動きを封じられ、賢者テミドもルティの拳とスキュラの触手によって、身動きが取れない。
「ちぃっ、どいつもこいつも役立たずが……! こうなったら、こっちのどうでもいいスキルを使ってやる! 魔石は全てお前にくれてやる!」
「それはどうも」
グルートはガチャに使った魔石を、全ておれの所に投げつけてきた。おれは戦わずして、魔石を難なく手に入れてしまう。
「――が……がぁぁぁぁっ!! な、何だ……こ――」
グルートがどうでもいいとされていたスキルを使った直後。
まるで正気を失うかのように奴は突然苦しみだした。