テラーノベル
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あの日から1週間。僕はずっと授業に集中できず、放課後の事ばかり考える日々が続いた。 自分で言っていて悲しくはなるが、矢城さんは僕の初めての話し相手。
友達だって過去に1人いたくらいで、その子とももう関わりがなくなってしまった。
「会ったらどんな話をしよう」「どんな会話をしよう」なんて普段絶対に考えない部分にいつも頭をフル回転させていた。
そうして気がつけば、空はもうオレンジ色に光っていて、教室には誰1人としていなかった。
「依織くんー?いますかー?」
廊下から聞き覚えのある声が僕の名前を読んでいる。
「矢城さん!ごめん、ちょっとぼーっとしてて…」
「ううん!大丈夫!なんなら私の方こそ急かしちゃった感じだし申し訳ないよ…」
聞くと、待っていても僕が来なかったので、探しに行こうとしたが、学年もクラスも分からないということに気づき学校全体を探し回ったという。
「しっかし今更だけど、依織くんって1年生だったんだね!」
「う、うん…」
この言い方…嫌な予感が…
「背大きかったからてっきり同じ2年生かと思ったよ〜 」
あ…終わった…完璧先輩にタメ口で話してしまっていた……。
「す、すすすすみません!」
「そんないきなり敬語にしなくても…」
改めて考えると、僕が3年生ならまだしも1年生だというのに、初めて会った人にタメ口を使うって…恐れ知らずにも程がある。
「でも良かったね、依織くん」
「良かったってどこが…」
「”星叶”って呼んでなくて」
その瞬間心臓が跳ね上がった気がした。危なすぎる……矢城さんって呼んでいて、本当に良かった。
何やかんや話しているうちに第2音楽室のピアノの前まで来ていた。
「それじゃ、今日もよろしくお願いします!」
この1週間である程度、矢城さんの曲の好みが分かってきた。
いつも僕は日が変わる事に違う曲を弾いて、弾き終わった後の矢城さんの顔がとても分かりやすいのだ。 矢城さんの好きな曲だったら目がこれ以上無いほどキラキラしていて、おまけにとても嬉しそうな笑顔。 一方、あまり好みではなかった場合、顔がしゅんとしていて、明らかに悲しそうな顔をするのだ。 しゅんとした顔をされた時は少し、悲しいような悔しいような気持ちになったが、喜んでくれたときはこちらも自然と笑顔になっていた。
───数分後
「わぁぁぁ…!」
今回の曲はお気に召したようだ。まるで素直な幼稚園を見ている気分だ。
「矢城さんって素直で可愛いですよね」
顔に心の全てが出ていて、裏表が無いところが本当に可愛らしいし、何となく懐かしい感じがする。
「えっ!?」
「何かおかしなこと言いました…?」
「そ、そうじゃないけど…その…だって…!」
彼女は小声で何かをつぶやきながら、夕日に照らされ、オレンジ色がかった髪で頬を隠している。
「ど、どうしました…?もしかして熱……」
「この典型的鈍感男子!」
な、なんて? でも何故だろう。罵倒された気がする……。
コメント
2件
鈍感すぎて好きです。(助けてください(?) 比喩表現的なの素敵ですね!!!!!! 投稿たくさんありがとうございますっ!!!!!