テラーノベル
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――夕方。
学校帰り。
制服姿の愛空が、一人で歩いている。
イヤホンを片耳だけつけて、ぼんやりと。
愛空「……疲れた」(小さく)
(帰る場所、どこだっけ)
一瞬、また分からなくなる。
足が止まりそうになる。
その時――
??「……愛空」
愛空「……」(ピタッと止まる)
聞き覚えのある声。
ゆっくり振り返る。
そこにいたのは――
愛空「……は?」
父親。
愛空「……なんでいるの」
父親「迎えに来たんだよ」
愛空「……いらない」(即答)
父親「何言ってんだ、お前」
愛空「帰るとこあるから」
父親「ねぇだろ」
愛空「あるし」
父親「あんなとこ居候だろうが」
愛空「……」
一瞬、言葉に詰まる。
父親「いいから来い」(腕を掴む)
愛空「……っ」
強い力。
逃げられない。
愛空「やめて」
父親「うるせぇ」
愛空「やめてって!!」(抵抗する)
でも。
力が違いすぎる。
父親「いいから来い!!」
そのまま引っ張られる。
視界の端に、車。
愛空「……やだ」
心臓が一気に早くなる。
愛空「やだやだやだ」
父親「いい加減にしろ!!」(怒鳴る)
その声で、体が強張る。
愛空「……っ」
(怖い)
昔と同じ。
あの時と同じ。
愛空「……やだ……」(涙が滲む)
腕を振りほどこうとする。
でも、無理。
父親「大人しくしろ!!」
車のドアが開く。
愛空「やだ!!」
必死に踏ん張る。
でも引きずられる。
愛空「……っ、やだ……っ」
涙がこぼれる。
(助けて)
頭の中で浮かぶのは――
愛空「……高良……っ」(小さく)
――その瞬間。
腕を掴んでいた力が、止まる。
父親「……あ?」
低い声。
静かで、冷たい声。
高良「その手を、離していただけますか」
愛空「……っ」(顔を上げる)
そこにいたのは――
高良。
いつもと同じなのに。
空気が違う。
父親「なんだお前」
高良「……覚えておりませんか」
父親「……?」
高良「5年前、あなたとお話ししております」
父親「……ああ?」
高良「川合愛空さんを引き取った者です」
父親「……チッ」
父親「ちょうどいい、返してもらうぞ」
愛空「……っ」(震える)
高良「……お断りします」
静か。
でも、確実に圧がある。
父親「親だぞ俺は」
高良「……それが何か」
父親「は?」
高良「本人が拒否しています」
父親「関係ねぇだろ!!」
再び腕を引こうとする。
その瞬間――
高良の手が、父親の腕を掴む。
父親「……っ」
動かない。
びくともしない。
高良「……離してください」
声は低いまま。
でも、完全に“怒っている”。
父親「……なんだその目は」
高良「……これ以上、触れないでいただきたい」
父親「……チッ」
舌打ち。
少しだけ力が緩む。
その隙に――
愛空は腕を引く。
愛空「……っ」
高良の方へ。
無意識に。
高良「……大丈夫です」(小さく)
愛空「……っ」(震えてる)
父親「……覚えてろよ」
吐き捨てるように言って、車に戻る。
エンジン音。
そのまま去っていく。
――静寂。
愛空「……っ」
力が抜ける。
その場に崩れそうになる。
高良「……愛空さん」
愛空「……やだ……」(小さく)
高良「……」
愛空「……こわかった……」
――初めて、弱音がそのまま出る。
高良「……申し訳ありません」
愛空「……なんで謝るの」
高良「……守ると申し上げましたので」
愛空「……」
涙が止まらない。
でも。
さっきまでの“怖さ”は、少しだけ消えていた。
愛空「……遅い」(小さく)
高良「……申し訳ありません」
愛空「……ほんとだよ」
――そう言いながら。
少しだけ、高良の袖を掴む。
離さないように。
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