テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
nagi.
4,725
さく📖🕊️
678
#キャラ崩壊注意
156
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
エレリ
リヴァイ.side
その日、俺の部屋に戻ったのは夜もだいぶ更けた頃だった。
書類の確認に、明日の訓練の準備。片付けなければならない仕事はいくらでもある。
正直、さっさと寝たい。
そんなことを考えながら扉を開けた俺は、部屋に入ってすぐ足を止めた。
「…………」
ベッドの上に、人影がある。
見間違えるはずもない。
寝具を半分ほど占領し、俺の枕に頭を乗せて、ずいぶんと気持ちよさそうに眠っている。
「……何してやがる」
エレン・イェーガー。
俺の部屋で、堂々と寝ていやがる。
鍵はどうした。いや、そもそもどうやって入った。
まさか、また勝手に入ってきたのか。
俺は眉間に皺を寄せた。
「おい、ガキ……」
呼びかけてみたが、返事はない。
規則正しい寝息だけが聞こえる。
……寝ているらしい。
俺は小さく息を吐き、扉を閉めた。
起こして叩き出すこともできた。
むしろ、そうするべきだった。
ここは俺の部屋だ。
兵舎の規律だ何だという以前に、他人が勝手に寝ていい場所じゃねぇ。
だが。
「…………」
ベッドの脇まで歩いてしまった。
エレンは横向きになって眠っていた。
片腕を枕の下に突っ込み、もう片方の手はシーツの上に投げ出している。
普段はあれだけ騒がしい男が、今は妙に静かだ。
巨人を前にすれば真っ先に飛び出していくような無鉄砲な兵士には、とても見えない。
少し開いた唇から、かすかな寝息が漏れる。
「……馬鹿面しやがって」
思わず呟いた。
返事はない。
当然だ。
俺はベッドの端に腰を下ろした。
別に、こいつの寝顔を眺めるためじゃない。
ただ、起こすタイミングを考えているだけだ。
そう自分に言い聞かせながら、目の前の男を見下ろす。
長い睫毛。
普段は強い意志を宿している目も、閉じていれば随分と幼く見える。
頬にかかった髪が、少しだけ跳ねていた。
寝返りでも打ったのだろう。
……髪までぐちゃぐちゃにしやがって。
俺は手を伸ばしかけた。
額にかかっている一房を、元の位置に戻してやろうと思っただけだ。
本当に、それだけだった。
指先が髪に触れる寸前。
「……兵長?」
「っ」
手を止めた。
エレンが目を開けていた。
まだ眠気の残る緑色の目が、ぼんやりと俺を見上げている。
「どうしました?」
「…………」
「俺の顔に何かついてます?」
「ついてねぇよ」
「じゃあ、どうしてそんなに近くに?」
「お前が俺のベッドを占領しているからだ」
「ああ……」
エレンは一度瞬きをした。
それから、自分の置かれている状況を確認するように周囲を見回す。
「あ、帰ってきたんですね」
「見りゃ分かる」
「おかえりなさい」
「……ああ」
何とも気の抜けた挨拶だった。
まるで、ここが自分の部屋であるかのように。
「お前、何でここにいる」
「待ってたんです」
「何を」
「兵長を」
あっさりと返ってきた答えに、俺は一瞬言葉を失った。
「自分の部屋で待ってりゃいいだろうが」
「でも、兵長の部屋の方が落ち着くんです」
「俺は落ち着かねぇ」
「嘘ですね」
「何だと?」
「だって、起こさずに隣に座ってたじゃないですか」
「…………」
こいつ。
寝ぼけていたわけじゃなかったのか。
「いつから起きてた」
「髪に触れようとしてくれたあたりから」
「……見てたのか」
「はい」
エレンが嬉しそうに笑った。
「触ってくれてもよかったのに」
「寝ている奴にわざわざ触る必要はねぇ」
「じゃあ、起きてる今なら?」
「調子に乗るな」
そう言ったものの、俺の手はまだエレンの頭のすぐそばにあった。
エレンはそれを見て、少しだけ首を傾ける。
「兵長」
「何だ」
「ここ、直してくれないんですか?」
跳ねた髪を指差している。
……本当に、面倒くせぇ男だ。
「自分で直せ」
「届きません」
「届くだろうが」
「兵長に直してほしいんです」
まったく。
どこでそんな甘え方を覚えてきたんだか。
俺は小さく舌打ちして、今度こそ指先でエレンの髪を撫でつけた。
額にかかっていた一房を横へ流す。
それだけのことだった。
なのに、エレンはひどく嬉しそうに目を細めた。
「……ありがとうございます」
「礼を言うほどのことじゃねぇ」
「俺、兵長にこうしてもらうの好きです」
「そうかよ」
「もっとしてほしいです」
「図に乗るな」
エレンは笑った。
そして、俺の手首をそっと掴んだ。
「もう少しだけ、ここにいてください」
「俺の部屋だ」
「はい」
「俺のベッドだ」
「はい」
「なのに、何で俺がお前に許可を取らなきゃならねぇ」
「……じゃあ、いてくれるんですね」
「話が通じねぇな、お前は」
呆れた。
本当に、呆れた。
だが、手首を掴むその手を振りほどく気にはなれなかった。
エレンは俺の手を両手で包むようにして、頬に寄せた。
「兵長の手、あったかいですね」
「お前の手が冷てぇんだろ」
「かもしれません」
しばらく、何も言わなかった。
俺はベッドの脇に座ったまま、エレンの顔を見ていた。
こいつは、俺が思っている以上に俺をよく見ている。
俺が疲れていることも、機嫌が悪いことも、何も言わずにいることも。
そして、こうして何でもない時間を欲しがる。
巨人を殺すためでも、訓練のためでもない。
ただ、俺と一緒にいるためだけに。
「……エレン」
「はい」
「次からは一言断って入れ」
「分かりました」
「勝手に寝るな」
「……それは努力します」
「努力じゃねぇ。守れ」
「はい」
素直な返事だった。
だが、どうせまた同じことをするのだろう。
俺はベッドの上に片手をつき、立ち上がろうとした。
そのとき。
「兵長」
「今度は何だ」
「一緒に寝ませんか?」
「断る」
「即答ですね」
「当たり前だ」
「じゃあ、俺がそっちに寄ってもいいですか?」
「おい、聞いてんのか」
エレンが布団の端を少しだけ持ち上げた。
その顔は、ひどく幸せそうだった。
……まったく。
俺はもう一度、ベッドに腰を下ろした。
「少しだけだ」
「はい!」
「声がでけぇ」
「すみません」
エレンが布団の中で場所を空ける。
俺が横になると、すぐにこちらへ寄ってきた。
肩に額が触れる。
腰に腕が回る。
「……近ぇよ」
「嫌ですか?」
「暑苦しい」
「離れます?」
「……好きにしろ」
エレンは小さく笑って、俺の肩に顔を埋めた。
しばらくすると、また寝息が聞こえ始めた。
今度は本当に眠ったらしい。
俺はその頭を見下ろした。
さっき直してやった髪が、もう少し乱れている。
「……しょうがねぇ奴だ」
今度は誰にも見られていない。
俺はそっと手を伸ばし、エレンの髪を撫でた。
一度。
もう一度。
その指先に、エレンの頬がわずかに擦り寄る。
寝ているくせに、こういうところだけは抜け目がない。
「……おやすみ、エレン」
返事はなかった。
ただ、俺の服を掴む手が、ほんの少しだけ強くなった。
俺はその手を振りほどかなかった。
明日の朝になれば、またこいつは俺の後ろをついて回るのだろう。
鬱陶しいほどに話しかけて、鬱陶しいほどに笑って、鬱陶しいほどに俺を好きだと言う。
……悪くはない。
そう思ってしまったことは、誰にも言わないでおく。
特に、こいつには。
俺の腕の中で眠る男が、あまりにも幸せそうに笑っていたから。