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「わかった。でも条件は本当にそれでいいのか。魔力機関の整備や修理といった技術は貴重だ。以前、この魔力機関を修理できないかと専門家を呼んだときは、診断だけで出張費込みで30万かかった。その上で『修理不能』と判断しやがったんだが」
なるほど。
「この魔力機関の修理には、相応の魔法が必要になります。そういった魔法がなければ、魔力機関の専門家であっても修理は不可能です。『修理不能』と判断するのも、仕方のないことです」
この世界の技術者の水準がどうなのかは知らない。
だが波風を立てないためにも、とりあえずはそう弁解をしておこう。
「そして俺は、そういった魔法をある程度使うことができます。ただし、俺はあくまで冒険者です。面倒な仕事に拘束されて自分の時間がなくなるのは、極力避けたいと思っています。ですのでこういった修理を、業務として受けるつもりはありませんし、こういうことができるという事実も知られたくありません」
以上が、俺の基本方針の説明だ。
あとは、なぜこの基本方針とは違う行動を取ったのかだ。
「ただ俺の趣味が釣りでして、沖に出て釣りができる機会というのは正直、憧れです。だからこそ、インガンダ・ルマを獲るという依頼を受けましたし、ここにも話を聞きにきたわけです。
ですので俺への報酬は、修理が終わり次第、インガンダ・ルマ釣りに連れて行ってもらうことでお願いします。あとは報酬というより希望ですが、たまに沖釣りに連れて行ってもらえると嬉しいです。
以上になります」
さて、これでマシューさんはどう出るか。
おそらく、大丈夫だろうとは思っているのだが。
「わかった。それじゃ終わり次第行けるよう、準備をしておこう。ここ3年、沖に出ていないからな。仕掛けも、エサを釣るためのエサも必要だ。インガンダ・ルマ釣りは暗くなってからだから、今から準備すれば十分間に合う。今日は天候も問題なさそうだ。
それじゃ、ちょっと買い物に行ってくる。誰も来ねえとは思うが、万が一誰かが来たら、30分以内に戻ってくると伝えてくれ」
修理を認めてくれるのを通り越して、思い切り前のめりだ。
俺にとっては悪いことじゃない。
「わかりました。それでは、この補修用品を使わせていただきます」
「ああ。絶縁樹脂だけじゃなく、全部使ってくれて構わねえ。他にも調子の悪いところがあるだろう。他は全部直してあるんだが、魔力機関だけは儂にはどうにもならなかった。
事務所の方は気にしなくていい。入られても盗まれるような物は何もねえ。一応、外出中の札は掛けていく。じゃあ、船は頼んだぞ」
「はい」
修理用具のミスリル缶、オイル缶、そして絶縁樹脂缶の三つを収納し、裏へと回る。
さて、それでは久しぶりに本気の修理モードに入るとしよう。
補修材料を手前に並べ、まずは透視魔法で魔力機関の状態を確認する……
◇◇◇
すべての魔力導線の絶縁をやり直すと同時に、短絡して傷んでいた部分の線を、新たに作った線と交換。
もともと二重構造になっていて絶縁用油脂が満たされていた部分は、古い油脂を抜いて新しいものに入れ替えた。
10年メンテナンスなしでも動くよう、耐久性重視で手を入れる。
修理してよくわかったが、この船、よく出来ている。
魔力導線は魔力機関だけでなく、偵察魔法の魔法陣や暗視魔法の魔法陣なんてものにも繋がっている。
つまり偵察魔法や暗視魔法を使えない操縦者であっても、こういった魔法を使って周囲を確認可能なわけだ。
魔力導線の痕跡があるところはすべて調べて、場合によっては時間遡行魔法なんて使ってでも元の状態を確認して。
一通り確認し終わるまでに、1時間少々かかっただろうか。
それでも、前世でせっつかれて応急障害対応をしていたのに比べると、大分落ち着いて作業できたと思う。
最後に微弱な魔力を通して、動作確認。
今は取水部分も噴射部分も水中にないため、作動はしない。
それでも魔力は問題なく通っているし、それらしい反応も返ってきた。
俺が手を入れられる範囲は、ここまでだ。
これで魔力を使用する部分については、新品だった頃と同等の性能を発揮するはずだと思う。
ここから先は実際に海に浮かべて、マシューさんに確認してもらいながら微調整するしかない。
そう思ったところで、背後から足音が聞こえた。
振り向かなくても、魔力反応ですぐにわかる。
「魔法を使っている感じが消えたから来てみたが、どうだ」
マシューさんだ。
「ええ、これで修理は完了です。あとは実際に海に浮かべて、マシューさんに確認してもらいながら微調整ですね」
「なら早速だが、進水させていいか」
「もちろんです」
「じゃあ行くぞ。港のスロープまで、このまま持っていく」
マシューさんは架台の車輪についていたロックを外し、鎖を引っ張った。
ごとりと、あっさり架台が船ごと動く。
すごい力と言うべきか、それとも船を引っ張っても問題ないマシューさんの腕力と体重が洒落にならないと言うべきか……。
ここからスロープまで、50メートルも離れていない。
マシューさんがスロープ上まで引っ張り、そこからは後ろ向きに、ゆっくりと海に向かって下ろす。
船が浮いたところでボラードにロープを掛けて固定し、架台は引き上げて空いている場所に置いた。
「それじゃ軽く動かしてみるか。一緒に乗るか?」
「もちろんです」
ロープを外し、船に乗り込む。
マシューさんは船の前側中央、ガラス窓で囲われた操船席の椅子に座り、左手を魔力導線につながった操船桿に置いた。
「おお、周囲が見える感覚も戻っている。そこまで修理してくれたんだな。これなら動力の方も期待できそうだ。それじゃ後退で出す」
「はい」
次の瞬間、ぐっと前につんのめるような衝撃を感じた。
マシューさんが顔をしかめる。
大丈夫だろうか。
「何か不具合がありましたか?」
「いや、これが本来のこの船の反応だ。長いこと不調なまま使っていたせいで、儂の感覚が狂っていた。船の方は悪かねえ。むしろ絶好調って気がする」