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ひととおり操船を試したところで、俺はマシューさんに確認してみる。
「どうですか。直進しにくいとか左右どちらかに曲がりにくいとか、反応が唐突すぎるという部分があったら調整しますけれど」
「いや、今のこの状態が最高だ。だいぶ思い出してきた。もともとはこの船は、こんな動きだった。長いこと調子が悪い状態で使っていたから、感覚が狂っていた。
ここまで完璧に直るとは思わなかった。ありがとう」
なるほど。
でも今のマシューさんの言葉は、要素が少し欠けている。
「俺が直したのは、魔力に関する部分だけです。完璧に動くのなら、船体もその頃と同様の状態を保つように整備されているんでしょう。陸上にあって船として動けなかった期間も、これまでと同様かそれ以上に船体を完璧に保守整備していたおかげです。違いますか」
「これでもドワーフだからな。単なる金属加工程度なら問題ない。このエーライ号の船体は鉄製だからな。儂のドワーフとしての腕にかけて、師匠と後悔していた時のままに維持してある」
ここで船の名前がはじめて出てきた。
エーライとは北極星の名前だ。
北にあって何時であろうと同じ場所にあって動かず、航海の道しるべとなる星。
「旅をする船にふさわしい名前ですね」
「ああ、まさにそういう意味合いで師匠が名付けたそうだ。再び海に出れるようになったんなら、本来の名前で呼んでやるのが筋ってもんだろう。
あと船体の方も気づいてくれてありがとうな。冒険者と言っていたが、やはり本来は作る側なんだろう。そうでないとそうあっさりとは気づかないもんだ。まあ冒険者だと名乗っていたし直してもらった恩義もあるから、深くは聞かねえけどよ。
ただ本当に、礼はいいのか。魔力機関を修理可能な魔法なんて、そう簡単には身につかないだろう。常人の数倍の勉強なり訓練なり、努力を積み重ねなければ無理だ。そうして身に着けた技術は、安売りしていいものじゃない」
うわっ。
ドワーフらしいガチガチな意見だ。
ただこういう考え方は、俺も嫌いじゃない。
それに返答も、すぐに思いついた。
「ええ、ですから商売ではなく、自分のやりたいときにしか使いません。頼まれても断りますし、断れない筋に頼まれないように技術は出来る限り隠すつもりです」
「なるほど、わかった」
マシューさんは、うなずいた。
「それではこの船を直したのがお主であることは、誰にも言わないでおこう。ただそれだけでは、儂の気がすまん。だから報酬は、少しだけ待ってくれ。
あとインガンダ・ルマ漁には18時に出発するつもりだ。0時過ぎに港に戻るから、必要なら宿の手配をしておいてくれ。本当なら儂の家に泊まってもらうところなんだが、あいにく客人を呼べるような状況ではないのでな、すまん。その代わり、道具や仕掛け、餌は全部用意しておく」
「わかりました。ありがとうございます」
「いや、お礼を言うのはこっちの方だ。それでは、帰港する」
船はすっと向きを変え、港口を目指す。
◇◇◇
船を降りたら、まもなくお昼という時刻だった。
まずは飯を食って、それから本屋というか商業ギルドと、釣り道具屋を見ることにしよう。
飯屋で良さそうなところは、どこだろう。
魔法収納内にある案内図を見ながら考える。
冒険者ギルドの方の案内図に載っている『おすすめの食堂』は7軒。
うち酒関係でお勧めになっている店をのぞくと、4軒だ。
一方、商業ギルドの方は、特にお勧めの店という記述はない。
ただ数行書いてある店の紹介で、なんとなくお勧めの店が想像つく。
どちらでもお勧めっぽい店は、2軒。
安くて量が多くて美味しいという定食屋と、お値段はやや高めで量は普通だがここでしか食べられない魚料理が評判の店。
俺はミーニャさんではないから、量はそれほど必要ない。
となると今後の参考のためにも、魚料理の店に行くのが正解だろう。
あとはちょうどお昼時だから、店に入れるかどうか。
入れなければ、商業ギルドや釣り道具屋で時間を潰せばいいだけだ。
ということで、地図を見ながら店へと向かう。
店は港からわりとすぐ、市場街の東端にあった。
建物はごく普通の、魔法焼き砂煉瓦の2階建て。
入口には『営業中』との札がかかっている。
扉を開け、中へ。
「いらっしゃいませ、おひとりさまですか? カウンターへどうぞ」
そこそこ混んでいたけれど、カウンターの端が空いていたのでそちらについて、壁にはられているメニューの木札をさっと読む。
『本日のおすすめセット。黒クッション煮物、刺し身、焼き魚、魚スープ、カツオオイル煮卵仕立て、田舎パン、サラダ。1、400円』
それほど高くないし、品数多めだし、これにしよう。
黒クッションというのは知らないし、オイル煮卵酢仕立てという料理も知らないから、食べるのが楽しみだ。
「飲み物をどうぞ。注文はお決まりでしょうか?」
カウンターの向こう側から飲み物、おそらくは冷たいお茶を俺に出してきた店員さんが、俺に尋ねる。
「本日のおすすめセットをお願いします」
「わかりました」
さて、黒クッションというのはどんな物だろう。
魚の種類なら、神様からもらった知識に入っているはずだ。
しかし俺の知識にはないから、おそらくは魚の種類ではない。
なら何なのだろう。
楽しみだ。