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番外編
「ねえ、たまにはさ」
元貴がスマホを見ながら言う。
「どっか行かない?」
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「急だね」
涼架は少し笑う。
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「だってさ、最近ずっと家と仕事ばっかじゃん」
「まあ、それはそうだけど」
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少しの間。
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「…いいよ」
涼架が静かに答える。
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「ほんと!?」
元貴の顔が一気に明るくなる。
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「そんな嬉しい?」
「そりゃ嬉しいでしょ」
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その笑顔を見て、涼架も少しだけやわらかくなる。
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数日後。
ふたりは小さな宿に来ていた。
静かな場所で、人も少ない。
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「なんか落ち着くね」
元貴が部屋に入ってすぐ言う。
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「元貴こういうの好きでしょ」
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「うん、好き」
そう言って、窓の外を見る。
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夕方の光が、部屋にやわらかく入ってくる。
いつもと違う空気。
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「ねえ」
元貴が振り返る。
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「旅行ってさ、ちょっとドキドキしない?」
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「なんで」
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「なんか、いつもと違う感じするし」
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涼架は少しだけ考えてから、
「…まあ、わかる」
と答える。
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夜。
お風呂も終わって、部屋でゆっくりしている時間。
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「静かだね」
元貴がつぶやく。
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「うん」
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会話が途切れても、気まずくはない。
でも――
どこか、意識してしまう空気。
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「元貴」
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「なに」
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名前を呼ばれるだけで、少し緊張する。
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「さっき言ってたやつ」
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「え?」
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「ドキドキするってやつ」
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少しだけ近づく。
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「今も?」
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距離が近い。
いつもの部屋より、逃げ場がない感じ。
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「…してる」
元貴は正直に答える。
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「俺も」
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その一言で、心臓が跳ねる。
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少しの沈黙。
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でも今回は、どちらも離れなかった。
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「旅行だからってさ」
涼架が静かに言う。
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「特別なことしなくてもいいと思ってた」
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「うん」
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「でも」
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ほんの少しだけ、距離が縮まる。
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「元貴といると、勝手に特別になる」
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元貴は一瞬言葉を失う。
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「…それ、反則」
小さく笑う。
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「元貴も同じ顔してる」
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「してない」
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「してる」
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軽く笑い合う。
でも、距離はそのまま。
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外から、虫の音が聞こえる。
静かな夜。
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「ねえ」
元貴が小さく言う。
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「こういうの、ずっと続くかな」
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涼架はすぐに答えた。
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「続けるよ」
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「え?」
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「続くかじゃなくて、続ける」
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その言葉に、胸があたたかくなる。
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「…そっか」
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そのまま、自然に寄り添う。
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旅行だから特別なんじゃない。
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一緒にいること自体が、もう特別だった。