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―side康夫―
平日の夜・・・
康夫は玄関のドアノブに手をかけながら、胸の奥でざわめく不安を押し殺した
「どうぞ・・・入って」
と呟いた声は、自分でも気づくほどかすかに震えていた、ドアを開けると、桃花が弾むような笑顔で家の中に足を踏み入れた
「わぁ~素敵なおうち・・・」
彼女の声は、まるで子供のようにはしゃいでいて、好奇心に満ちた瞳がリビングをキョロキョロと見回した。その無垢な様子に康夫の心は一瞬和らいだが、すぐに重い罪悪感が胸を締め付けた
この家に桃花を招き入れるなんて間違っている・・・頭ではわかっていたのに、彼女のたっての願いを断れなかった
「康夫さんの普段の生活を見たい」
と何度も懇願してくる桃花・・・その声が甘く切実で、まるで天使の囁きのように康夫の心を揺さぶったのだ
晴美が帝王切開の出産を終えて、子供達を連れて実家に帰っているこの二か月、この期間、康夫と桃花はまるで付き合いたての恋人同士の様な時間を過ごしていた、会社の帰りに待ち合わせて、街の灯りの中でデートを重ねた
康夫は三日に一度、義務感から晴美を見舞いに行ったが、その足で桃花の一人暮らしのアパートに流れ込むのが常だった
康夫にとってそこでは家庭の重圧も、夫としての責任も、すべてが溶け去るような甘美な時間が待っていた
桃花は康夫にとって天使だった、彼女の笑顔はまるで曇りのない青空のように澄んでいて、どんなときも康夫を肯定してくれた