テラーノベル
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晴美や子供達の話題を決して持ち出さず、家庭を持つ男としての康夫の立場を尊重してくれる、その気遣いが康夫の一枚皮で繋がっている妻帯者の壁を壊した
彼はなるべく家庭の話を避けようと心がけていたが、桃花がふとした瞬間に「康夫さんのこと、もっと知りたい」と柔らかく尋ねてくると、なぜか心の箍が外れてしまった
二十代早々に晴美と結婚した事、子供を設けたことを今では後悔している事、それでも男として責任を果たすため、子供を育てなければならないと思っている事は子供達が巣立ったら本当に自分の好きな事をしたいと思っている事、
妻の晴美への恋心はもう遠い過去のものになり、今はただ子育てのパートナー、まるで共同経営者のような関係でしかない事、子供だって半年ぶりのたった一度のセックスで出来てしまった事故のようなものだった、自分には三人も育てる自信がなかったのに、晴美が「どうしても産みたい」と涙ながらに訴えたから、渋々同意した・・・
少々桃花の前だけに格好つけて言ってしまったが、でもずっと心の片隅でもしかしたら思っていたことかもしれない、でも一番上の正美が20歳になった時、自分はまだ40代だ・・・それから人生を立て直す事を何度も想像していた
そんな本音を、なぜか桃花には全て話してしまった、彼女がそんな自分に愛想を尽かすだろうと覚悟したが、桃花は目を輝かせ、ますます深く康夫を愛してくれた
その純粋さに、康夫は心底驚いて彼女をますます天使のように大事にしたいと思った、そして、ある日、桃花が「康夫さんの家を見たい」と言い出した、彼女の声は無邪気で、まるで恋人の部屋を初めて訪れる少女のようだった
しかし康夫は最初は戸惑った、この家は晴美と子供たちの生活の匂いが染みついた場所だ、不倫相手を招き入れるなんて許されない行為だとわかっていた。それでも、桃花の「康夫さんの全部を知りたい」という言葉に抗えず、彼は折れた
「・・・あんまり掃除が行き届いてないから、散らかってるよ、あまり見ないでくれよ」
康夫は笑ってごまかしたが内心は焦っていた、この日のために、彼は二、三日かけて必死に家を片付けた
桃花はリビングに入ると、まるで新しい世界に足を踏み入れた子供のようだった。ソファの感触を確かめ、棚の上の小さな置物を手に取り、感嘆の声を上げた
康夫はその姿を、胸の奥で温かく、しかし同時に刺すような痛みを感じながら見つめた、彼女の純粋さが、この家の空気とあまりにも対照的だった。だが、しばらくすると、桃花の目からポロポロと涙がこぼれ始めた
「いいなぁ・・・康夫さんの奥さん・・・」
「もっ・・・桃花っ!」
康夫は慌てて彼女に近づいた、桃花の涙に胸が締め付けられるような痛みが走った、やっぱり、どんなにせがまれてもこの家に連れ込むべきではなかった
桃花の純粋さは、この場所にはあまりにも不釣り合いだった
「ごっ・・・ごめん!どこか外でうまいもんでも食いに行こうか? やっぱり君を連れて来るべきじゃなかったよ」
康夫が言うと桃花は首を振った
「ううん!私が頼んだの、少しでも日常の康夫さんを感じたくて・・・」
その言葉に康夫の心はさらに揺さぶられた、康夫より8歳年下の桃花の涙はまるでダイヤモンドのようにキラキラと輝き、康夫の心を罪悪感と愛情の狭間で揺らした、彼女のすすり泣きが康夫の耳に切なく響く
ヒック・・・「私・・・康夫さんと同じ年に生まれたかった・・・もう少し早く康夫さんと出会いたかった、神様はどうしてこんなに残酷なの?」
その言葉は康夫の心を締め付けた、彼女の純粋な愛情が、まるで光のように彼を包み込む
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