テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「おお!
この姿できちんと味付けされた料理を
食うのは、久しぶりだのう」
「ピューイッ」
ドラゴンの姿のアルテリーゼが、巨大な串焼きを
手にしてそれを食らう。
その肉はもちろん―――
巨大化した超ジャイアント・ボーアのもの。
そしてここは王都の児童預かり施設……
その一角である広場で、さながらバーベキューの
パーティーのように人だかりが出来ていた。
「スゲェ迫力だな」
細身だが筋肉質の体をした本部長がやって来て、
食事中のアルテリーゼを見上げる。
すっかり暗くなった後という事もあり、炎に
照らされる巨体は怪獣映画さながらだ。
「まあドラゴンですからねー」
童顔でアジアンチックの人間の方の妻、
メルも串を手に飲み物に口を付け、
「ラッチちゃんもいずれ……
あんなに大きくなるんでしょうか」
「えぇ~……
それはヤダ、今のままで成長止めて」
腰まで伸びたブロンドの長髪の女性と、
ミドルショートの黒髪の女性が、眼鏡に
手をかけながらブレない意見を話す。
「我の姿にまでなるのはずっと先じゃ。
50年100年で済む話ではない」
サシャさんとジェレミエルさんの会話を聞いて
いたのか、頭上からアルテリーゼが答える。
「でもよ、良かったのか?
あのボーアの肉をこんな事に使っちまって」
「言ってみれば臨時収入みたいなものですから。
また、家畜の巨大化に成功したという宣伝にも
なりますし―――」
王家直属の研究機関の施設で、巨大化して
しまった超ジャイアント・ボーアを倒し、
何とか事態を収拾した後……
報酬として、そのボーアの肉をもらったのだ。
そしてアルテリーゼを始め、王都にいる
ワイバーンたちにも『元の姿』のままで
食べてもらえるよう加工・調理してもらい、
さらに各所で王都住人を交えて、一緒に焼肉
パーティーのような催しを開催するよう、
王家に提案したのである。
これは自分が前々から考えていた事だが―――
何せドラゴンもワイバーンも巨大だ。
あれを怖いと思わない方が無理がある。
また貴重な航空戦力でもあり、一般人が身近に
接する機会もそう多くない。
そこで今回の機会に、一緒に『食事会』をする
イベントにしたのだ。
何せその巨体が食事をするだけでも、お祭りと
しては十分目玉になるし、
一緒に食事をする事で、恐怖や脅威のイメージを
薄くし、親しんでもらうという狙いがあった。
またドラゴンもワイバーンも、たまには
『元の姿』で食事を楽しみたいだろうと思い……
超ジャイアント・ボーアの肉を利用させて
もらったのである。
「アルちゃん、どーおー?
やっぱり人間の姿の時とは味が違う?」
メルが見上げながらドラゴンにたずねると、
「味はそう変わらぬのう。
ただ噛み応えが全然違うわい。
最近は人間の姿でいる事の方が当たり前
だから、却って新鮮である事よ」
「ピュウッ!」
母子ともに返事をし、それを見て近くにいた
子供たちもやって来て、
「はい、ラッチちゃん!」
「ラッチちゃん、あーん♪」
次々と子供のドラゴンに、人間の子たちが
串焼きを差し出していた。
「ピュ~ウ~♪」
「おうおう、ありがとうのう」
アルテリーゼはその長い首をゆっくり曲げて、
その子たちにお礼を言い、
それを聞いた子供たちは、嬉しそうに手を振って
去っていった。
「きっとあの子たち―――
後で『ドラゴンにごはんあげた事あるー!』
とか言って、仲間内で自慢するんだろうなあ」
「あー、ありそうありそう」
私の言葉にメルがうなずき、
「公都『ヤマト』じゃ当たり前のように人外と
交流しているが……
こうやって触れ合う機会はなかなか無い
もんなあ」
ライ本部長がしみじみと夜空を見上げつつ語る。
「他の場所でも、うまくいっていると
いいんですけど」
私が心配そうに話すと、
「ワイバーンには相棒のライダーである騎士隊が
ついているから、大丈夫でしょう」
「シーガル様やメギ公爵様も、張り切って
いましたよ。
特にシーガル様は『師匠によろしく言って
おいてくれ』との事で」
サシャさんとジェレミエルさんが、串焼きを
片手に答える。
そういえばあの二人もワイーバン騎士隊
だったなあ。
「今王都にワイバーンって、どれくらい
いるんでしょう?」
何気なく質問してみると、
「正式なワイバーン騎士隊はおよそ10騎だが、
交代と予備に20騎ほど控えている。
今年は女性のワイバーン騎士隊も公式に
設立されるから、そちらにも同じくらい
いるから―――
合計60騎ほどか」
確かヒミコ様の下にいるのが二百くらいって
聞いた事があるから……
その中で成人している数を考えると、かなり
ウィンベル王国が擁しているんだな。
まあそのヒミコ様も、新生『アノーミア』連邦の
エンレイン王子様と結婚する予定だし。
「……あれ?
そういえばヒミコ様、エンレイン王子様とは
まだ結婚してないんでしたっけ?」
ふと湧いた疑問をそのまま口にすると、
「あ~……アレなあ。
多分ちょっと面倒な事になっているんじゃ
ねえかな」
「と言いますと?」
聞き返すとライさんは頭をかきながら、
「何せ他種族との結婚だからな。
しかもワイバーン、その女王―――
本来なら国を挙げて大々的にってところだが、
あのエンレイン王子様自体は、別に王位継承者
ってわけじゃねえ。
それどころか下から数えた方が早いだろう」
そこで彼はグイッ、と酒を飲み干し、
「つまりな、微妙な身分なんだよ。
だいたい、相手は女王様だろ?
男がより身分の高い相手と結ばれるって
いうのは、あんまり前例が無ぇんだ。
だからエンレイン王子様もワイバーンの拠点へ
行って、あちらに婿入り……
みたいな形で落ち着けようとしているん
だろうな」
確かに、そんな話を聞いた覚えがある。
下手に身分が高いというのも、いい事ばかりじゃ
ないんだなあ。
(■141話
はじめての せつめいかい(まるずこく)参照)
「でも2人が出会ったのって、一昨年じゃ
なかったっけ?」
「だいぶ経つのう。
それで式がまだというのは、ちと気の毒じゃ」
(■110話
はじめての まるずこく(おうと)参照)
メルとアルテリーゼが話に加わり、
「その後、ランドルフ帝国との交渉とか、
いろいろありましたからね」
「実質的にワイバーンのトップなんでしょう?
それなら、自分の事を後回しにしていても
おかしくは無いですよ。
お子さんが出来たらいろいろ動けなくなっちゃい
ますし……」
サシャさんとジェレミエルさんも続く。
あー、それもあり得るなあ。
特にヒミコ様、性格的にそういう人だったし。
「恐らく、ランドルフ帝国との合同軍事演習にも
出席するだろう。
あちらのワイバーンたちも心服しているって
話だからな。
だから、まあ―――
それらが終わったら、と考えておいた方が
いいかも知れん」
シーガル様やニコル様は演習よりも前倒しで……
という感じだったけど。
さすがに立場的にも事情が異なるか。
でもそうなると、軍事演習が終わってもまだ
落ち着けなさそうだなあ。
そんな事を考えながら、夜は更けていった。
「という事がありまして―――」
三日後、家族と共に公都『ヤマト』へと戻り、
私は冒険者ギルド支部のトップに報告していた。
「相変わらずお前さんの周りはいろいろ
起きやがるな。
ま、しかし肉も大きくなるってんなら、
大歓迎だ」
白髪交じりのアラフィフの支部長が、対面の
ソファに腰掛けながら感想を漏らす。
「でも確かに、馬や羊、ボーアがいつでも
食べられるようになるのは嬉しいッス」
「肉は魔物鳥『プルラン』がいつでもって
感じですけど……
やっぱりたまには別のお肉が食べたい日も
ありますからね」
褐色肌の青年と、その妻である丸眼鏡をかけた
女性が続く。
「メルとアルテリーゼはどうしたんだ?」
「公都に戻った後、ラッチを児童預かり所へ
預けに行って―――
あと各所に例の『たらこ』を届けに回って
います」
ジャンさんの問いに私は答える。
王都で冷凍処理し、寄生虫の危険性を取り去った
たらこを、大量にお土産として持って来て
いたのだ。
「また新しい、しかも生の料理が食べられるとは
楽しみッス!」
「お昼が待ちきれませんよぉ~」
レイド君とミリアさんが夫婦そろって、
ガッツポーズのような姿勢で喜ぶ。
「おう、そういや留学組が戻って来ているぞ。
あと新生『アノーミア』連邦から、手紙が
来ている」
そう言ってギルド長は封筒を私に差し出す。
まさかエンレイン王子様とヒミコ様の件か?
と思い差出人の名前を見ると、
「あれ?
ナッシュさんとクローザーさんからだ」
マルズ国の風雷―――
『風神』ナッシュ、
『雷神』クローザー。
一度、ここに来た時に対戦し……
あのハイ・ローキュストの群れの防衛戦、
その後いろいろとお世話になっている二人だが。
(■111話 はじめての しょうめい
■117話 はじめての うらのたたかい参照)
何かあったのかな? と思い手紙の内容を
見てみると、
「あー……」
私の声にみんなが視線と同時に声を向ける。
「何だ?」
「どうしたッスか?」
「そんなに妙な事が?」
ギルドメンバー三人組の質問に、私はふぅ、
と一息ついて、
「いえ、昨年の『オセイボ』で―――
せっかく鬼人族が来た事もあって、
本格的に作っためんつゆをあの2人に
送ったんですよ。
そのお礼の手紙でした」
それを聞いたジャンさん、レイド君、
ミリアさんは苦笑し、
「そういやあの2人、気に入っているって
話だったな」
「確かに、味がとても美味しくなったッス
からね」
「いいお得意様ですこと♪」
と、そこで鐘の音が響く。
朝・昼・夕方と、時間を正確に知るのと、
それを目途に食事をして欲しいという事で、
高台と一緒に作ってもらったのである。
「おっ、昼か」
「じゃあさっそく、『たらこ』食いに
行きましょうッス!」
「シンさん、運ばれているのはどこと
どこですか?」
取り敢えずはギルドと児童預かり所、
『ガッコウ』にも届けているが……
御用商人であるカーマンさんを通して、
他の各所にも運び込まれているはず。
「宿屋『クラン』でいいんじゃないですか?
あそこでメル、アルテリーゼと昼食をとる
約束をしていますし―――」
そして私たちはそこへ移動する事になった。
「これは……米と一緒に食うとたまらんな」
「魚卵ってこんなにウマイっすか!」
「ああ、これだけでご飯何杯もいけちゃう~♪」
目的地に到着すると、『たらこ』をさっそく
注文した彼らは―――
その味に舌鼓
「おにぎりの具にピッタリだよねー、これ」
「ただご飯の上に載せただけなのに……
それだけで料理として完成しておる!」
メルと、人間の姿のアルテリーゼも『たらこ』と
一緒にご飯を頬張る。
(ラッチは児童預かり所で昼食を取る予定)
ていうか、この二人(+ラッチ)は王都でも
試食したはずなんだけどなあ、と思っても
口には出さず。
「『つなまよ』と並んで、おにぎりの具として
人気が出そうだよ、これは」
そこへ髪を後ろにまとめた、クレアージュさんが
料理を運んで来た。
「しかし、こんな物が出て来た日にゃ―――
また留学組の子たちが大騒ぎだろうねえ」
「へ?」
私がその言葉に首を傾げると、
「だってホラ、年末年始はあの子たち、
故郷に帰っていたじゃないか。
そこで年始に出たお汁粉とかお餅とか、
あとあの生食かい?
それを聞いてウチの店にも|殺到《さっとうしたのさ」
女将さんの話に妻たちも反応し、
「あー、そういえば『ガッコウ』でそんな話
してたなー」
「アンナ嬢であったか?
ワイバーンのムサシ君と婚約したあの娘も、
『ずるいー!!』『私がいない時にー!!』
って言っておった。
まあ他の連中も似たり寄ったりだったがの」
そこはまあ、公都残留組の『役得』という
ところだろう。
次からは残留組が増えるかも知れないな……
と思っていると、
「おばちゃーん」
「クレアおばちゃん、ごはんー」
そこへ、お世辞にも綺麗とは言えない
5・6才くらいの子供たちが入ってきた。
「あー、ご飯かい?
銅貨1枚持ってきているんだね。
あんたたちはバッチイから、向こうで
待っていなさい」
「「「はーい」」」
女将さんが慣れた感じで対応し、子供たちもまた
裏口であろう場所に回ったのか姿を消した。
「もしかしてあの子たちって……」
「そうだよ、この公都周辺に勝手に住み着いた
連中の子供たちさ。
大人は食べなくてもいいけど、子供はそうは
いかないからね。
ここなら銅貨1枚で子供たちはメシに
ありつけるから、メシ時だけああやって
もぐりこんで来るんだよ」
クレアージュさんは両手を腰につけながら、
大きくため息をつく。
「大浴場はあるけど、ありゃ保護者同伴が
条件だからねえ。
ウチで入れてあげてもいいんだけどさ……
多分、キリがなくなるだけだろうし」
「児童預かり所に入ってもらうとか、
何とか公都に入ってもらうわけには」
私がそう話すと、隣りのテーブルで食べていた
ジャンさんが首を横に振り、
「チビどもは何とかなるだろうが、いかんせん
大人が入り切れねえ。
ラミア族の簡易住宅もパンク状態なんだ。
これ以上は逆立ちしたって無理だぜ」
うわ、そこまで事態がひっ迫していたのか。
「他の開拓地に行く事も勧めているッスけど、
ここが一番人気ッスからねえ」
「それに同じドーン伯爵領内でも、ここほど
子供たちに甘いというか、保護されている
街はありませんから」
レイド君とミリアさんも複雑な表情になる。
実際、商売をしていて利権もある私が提案し、
ほぼ無制限で予算が使えるから、今の子供たち
優遇政策は成立しているわけで、
他の開拓地も同様のシステムを導入するには、
まだ少しかかるだろう。
「例の公都の各地区丸ごと全部壁で囲んで、
一大都市にする計画は進めてはいるんだが……
その物資が足りねえんだ。
魔狼ライダー・ワイバーンライダーに新たな
物資がありそうな土地を、探索してもらって
いる最中でなあ」
「何が足りないのー?」
「また石か岩か?」
妻たちがギルド長に聞き返す。
「一番足りないのはそれだろうな。
最悪、各地区を結ぶ石橋を壊して再利用する
事も考えている」
ジャンさんの言葉に、周囲からも『うわー……』
というざわつきが聞こえてきた。
しかしこればかりはどうしようも―――
「何じゃ、石が必要なのか?」
そこへ聞き覚えのある声が聞こえ、
「フィリシュタさん!?」
突然の魔界王の出現に、みんなの視線がそちらへ
集まった。
「石や岩なら魔界にゴロゴロしておるぞ?
勝手に持っていくがいい。
何か問題なのか?」
従者として共に来たミッチーさんと一緒に
フィリシュタさんを連れて……
場所を冒険者ギルドの支部長室に移し、
改めて話し合う事になったが、
「結構な量が必要なんだよ。
それにお前さんのところって、魔力濃度が
高いから、魔石だけ交易しているけど―――
こっちが欲しいのはただの石だ。
少なくとも、こっちの世界に持ってきても
影響が無いような。
あと『ゲート』か?
とてもじゃないが、デカい岩を運ぶのには
向いてねえ」
考えられる全ての問題点をギルド長が述べる。
「シン殿がいれば解決ではないのか?
岩でも石でも魔力はシン殿が無効化すれば
いいし、アルテリーゼ殿やメル殿がいれば、
岩を砕いて細かく出来るであろう。
その上で地上に持ってくればいいではないか」
あっさりと解決策を提示する魔界王の隣りで、
ミッチーさんが目を丸くして、
「……まともな事を言わないでください。
今世界が滅ぶかと思いましたよ」
「そんなに!?」
ネズミのような丸耳を持つ魔族の女性の言葉に、
フィリシュタさんは反発するが、
「ん~……」
「我らはいいが、シンがのう」
妻二人は眉間にシワを寄せる。
「ん? どゆ事?」
「何か懸念でもございますか?」
魔界王とその秘書風の女性が疑問を口にする。
「……なるべくならシンさんは、自分の力を
使わないで済む方法を望んでいるんスよ」
「後々、シンさんがいなくなった事を考えて、
再現出来ない方法は残すべきではないと」
レイド夫妻が補足して説明してくれる。
「ただ急いでいるのは確かなんだよなあ―――」
ジャンさんがアゴに手をあてて、私の方を向く。
そこで私は一息ついて、
「さすがに今回ばかりは、緊急事態だと
思いますから。
一応、調査要員としてパックさんと
シャンタルさんにも同行してもらいましょう」
私があの研究バカ……もとい研究者夫婦の名前を
出すと、後はその実現に向けて話が進んでいった。
「おお、さすがに魔界……!
こんな小石でも魔力量が桁違いです!」
「パック君!
土もですわ! まるで魔力溜まりに
いるみたいで……!」
同じ銀髪の長髪を持つ夫婦が、地べたに
四つん這いになりながら調査する姿は
なかなかシュールで、
「シャンタル、我らは石材を探しに
来たのじゃぞ?」
「パックさんも―――
調査が一段落すれば、いくらでも研究して
いいですから」
アルテリーゼと私とで注意を促す。
そういえば二人とも魔界は初めてだったなあ。
こうなる事は予想するべきだったか。
「そんでミッチーさん。
岩がゴロゴロしてそーな場所ってどこ?」
「岩山というのであれば、あちらの方角に
あるのですが……」
そして離れた場所で、メルとミッチーさんが
捜索場所について話し合う。
あの話し合いの後、公都長代理のクーロウさんや
ドーン伯爵様にも話を通し、
翌日、パック夫妻に同行してもらって、
魔界探索に来たのである。
「じゃあそろそろ出発しましょう。
『乗客箱』は持ち込めなかったので、
ミッチーさんはシャンタルさんの方に乗って
頂いて、案内をお願いします」
「わかりました」
そしてドラゴン組二人が元の姿に戻ると、
私とメルはアルテリーゼに、パックさんと
ミッチーさんはシャンタルさんの背に乗った。
一時間分ほど飛行を続け……
炎地帯や氷地帯を通過し、荒涼とした大地が
見えてくると、
「そろそろですよー」
ミッチーさんが大きな声で、隣りから
報告してくる。
「しかしどうするのだ、シン。
確かに砕けば『ゲート』を通じて石を運べるで
あろうが」
「この距離をいちいち往復するのは、
ちょっと面倒じゃない?」
妻たちの質問に対し私は、
「うん。だからこっちで適当な大きさの岩山を
持ち帰ってもらって―――
その後にそこで砕いてもらう、って感じに
なるかな。
『ゲート』で運ぶのはそこから先で」
その説明に二人はうなずく。
しかし岩山を『持って帰る』って、かなり
無茶苦茶な事を自然に言っているなあ、自分。
実際、ドラゴンがいるから可能なのだが……
すっかりこちらの世界での『出来る事』に
慣れてしまっている事に気付く。
「シン殿、そろそろ見えてきま―――
って、アレ?」
ミッチーさんの言葉に前方に視線を向けると、
「竜巻?」
「黒い竜巻なんて初めて見ましたが」
パックさんとシャンタルさんも、その異常に
気付いて口を開く。
まだはるか前方だが、巨大な黒い竜巻が何本も
巻き起こっていて、
「え、何でよりによってこの時に!?」
「という事は……
魔界ではよくある事なのですか?」
魔族の女性に私は聞き返すが、
「は、はい。
辺境や温度変化の激しい土地に出現する、
自然現象だと聞いています」
「なるほど。
それじゃ、放置していたらそのうち
消えますかね?」
地球なら、どんなに巨大な竜巻でも長時間
維持している事は無いが―――
「確かにそうですが、ものによっては差があり、
下手をすると何十年も残っているものも」
「うあ」
「とんでもない竜巻じゃのう」
ミッチーさんの説明に、メルとアルテリーゼが
驚きの声を上げる。
「どど、どうしましょうか。
目的地はあの向こうにあるんですけど」
「あの、あれは魔力によって出来た竜巻
なんですか?」
困惑するミッチーさんに私が質問すると、
「そうですね。あれは魔力の塊と言っても
差し支えないでしょう」
「魔力溜まりとはまた違うようですが、
もともと魔力が濃い魔界なので、それも影響
しているのではないかと」
パック夫妻が答えてくれた。
という事は魔力溜まりのような災害ととらえた
方がいいのかも知れない。
そしてほぼ魔力、とすれば……
私の出番だろう。
遠回りしてもいいが、往復の事を考えたら、
ここで消滅させておいた方がいい。
「パックさんたちは少し離れておいてください。
私が何とかしてきますので」
その言葉に、一方のドラゴンは速度を落とし、
「じゃあ行こっか、アルちゃん」
「うむ。ギリギリまで近付くぞ、メルっち」
私の考えを察したのか、妻たちが言葉を交わし、
そのまま黒い竜巻へ突入していった。
「取り敢えず外側にある竜巻からやっていこう。
多分、竜巻そのものは残ると思うけど」
何せ自然現象は無効化出来ない。
魔力そのものを消し去ったとしても、風の流れは
残るはずだ。
一番外側にある一本に近付くと、
「長時間、それに魔力によって強化もしくは
形成される竜巻など―――
・・・・・
あり得ない」
そう言葉にすると、黒い竜巻は汚れでも
落とすかのように透明になっていき、
やはり猛烈な上昇気流としての、空気の流れは
残ったか、と思っていると、
「んっ?」
透明に近くなった竜巻は、他の黒い竜巻に
巻き込まれ―――
そのまま取り込まれるようにして消滅した。
「おー、こうなっちゃうのかー」
「面白いものよのう」
メルとアルテリーゼが感心しつつ眺め、
「よし、じゃあ他のやつも消していこう」
こうして黒い竜巻を無効化し続け……
最後の一つは普通の竜巻として残ったが、それも
十分と経たないうちに消え、
石材確保における障害を無事クリアしたのだった。