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「おーい、また岩が来たぞ!」
「あれを片っ端から壊しゃいいんだな?」
魔界・魔界王フィリシュタの城下町近くで、
魔族の青年たちがざわめく。
「お疲れ様です、みなさん」
私が近付くと彼らは作業の手を止め、
「フィリシュタ様から、命じられて
おりますので!」
「どんどん持って来てくだせえ!」
あの黒い竜巻を無効化した後……
ミッチーさんの案内で向かったその『岩山』は、
文字通りの山で、
標高にして五百メートルはあろうかという、
巨大なものであった。
当然、その一部を運べる大きさにまで砕いて、
飛んで帰ったのだが、
運んで来た岩山を砕く作業までするとなると、
それらを全てドラゴンにしてもらうというのは
非効率的なので、魔界王・フィリシュタさんに
応援を頼んだのだ。
そして今の作業は、
①岩山から城下町近くまでの運搬はドラゴン。
②そこで岩山を砕くのは魔族。
③砕かれた石材の魔力無効化は自分。
④そしてそれを魔族に『ゲート』で地上まで
持って行ってもらい、
⑤地上の公都『ヤマト』から先は、そこの
住人たちに各所に運搬してもらう。
という流れとなっていた。
ちなみに岩山を飛んで運んでくるドラゴンは、
アルテリーゼ・シャンタルさんだけではなく、
公都にいた、すでに子育てを終えている
数組のドラゴン夫婦も、事情を聞いて
参加してくれている。
そしてメルとパックさんはというと、
「『ひきわり汁』持ってきましたー!」
「塩分補給はしっかり行ってください!」
粉砕作業を行う魔族さんたちのために、
裏方に回ってもらっている。
またパックさんはケガ人が出た時のための
要員でもある。
「『おにぎり』もありますので、食べて
ください!」
そこに、ネズミのような丸耳を持つ
ミッチーさんも加わっていて、
「お疲れ様です、ミッチーさん」
「いえいえ!
報酬も頂いておりますし、これくらいは
させてもらわないとっ」
彼女の言う通り、魔族や魔界に対して報酬は
支払われている。
フィリシュタさんは『岩なぞタダでいいぞ?』
という態度であったが、魔族の方々に作業協力
してもらう事になったので、
彼らに調味料をメインとした報酬を先払いし、
差し入れる料理にも使われている。
「しかし米や大豆も、こちらで収穫出来るように
なったんですね」
「地上にある農作物はたいてい育ちますからね。
ただ魔力濃度が濃過ぎるので、そちらへ逆輸出
出来ないのが残念です」
子供に食料が必要なのは魔族も同じであり、
魔界との交流を続ける内、農作物の栽培も
勧めていたのだが、
魔力が前提のこの世界だからか―――
それとも育成環境が合っていたからか、
魔界でもいろいろと穀物が自給出来るように
なっていた。
(ちなみに小麦に似たものは以前から
あったらしい)
「でもどうです? 石は足りそうですか?」
魔族の女性の問いに私は苦笑し、
「ドラゴンで毎日運搬したとしても、百年以上
かかるでしょう。
十分過ぎるほどです。
一応、ある程度量を確保出来たら作業を
終えますので」
その後、彼女は私に一礼して去っていき、
作業自体は夕方を持っていったん終了した。
「そんなにあったのか?」
「はい。ウィンベル王国だけを考えたら、
今後2・30年分の消費量はあるんじゃ
ないですかね」
ジャンさんが目を見開いて聞き返してくる。
夕刻、公都『ヤマト』にみんなで戻ると……
まず私はギルド支部に戻って報告を行い、
それを聞いたいつものギルドメンバー三人は
驚きを隠せないでいた。
「はー、じゃあしばらくはその作業ッスか?」
褐色肌の青年の問いに私は首を横に振り、
「岩山の運搬そのものはあと3日くらいで
終わらせようかと。
無効化もそれくらいで終わるでしょうが、
何せあちらから『ゲート』を通して運ぶのは、
一ヶ月はかかるんじゃないでしょうか」
何せ量が膨大なのだ。
取り敢えず公都を囲む壁に必要な分を
調達したら、いったん止めようと思って
いるが、
それを移動させるのはまた別問題で―――
またその保管場所にも頭を痛めていた。
「今は果樹や野菜を栽培するエリアの
『ゲート』から、次々と運び出して
いますけど、
あの新計画に基づいて、公都を囲む壁ほどの
量となりますと……
外に出すしかありませんね」
丸眼鏡にライトグリーンのショートヘアーを持つ
女性が、私の悩みに答えるように話す。
「まさか一気に問題が解決するたぁ、
思わなかったからな。
王都にも伝えておかねぇと」
ギルド長が視線でミリアさんに伝えると、
いそいそと書面を用意し始める。
「ただジャンさんが言っていた―――
資源探索ですか?
あれは続けておいてください」
「へ? もういいんじゃないッスか?」
私の言葉にレイド君がきょとんとするも、
「選択肢はあった方がいいって話だ。
今回の件は確かにありがてぇが、
魔界に依存し過ぎるのもよくねえ。
って事だろ、シン?」
私の答えをほぼギルド長が代弁し、それに
対してうなずく。
「そういえばシンさん、奥さんたちと
パックさんご夫婦は?」
棚に向かいながら顔だけ横に向け、
ミリアさんが質問して来たので、
「メルとアルテリーゼはラッチを、パック夫妻は
レムちゃんを迎えに……
児童預かり所へ行きました。
妻たちはそのまま家に帰るそうで」
「そっか。
よろしく言っておいてくれ。
まあ、引き続き頼むわ」
こうして三日ほど、岩山からの調達とその
魔力無効化を続け……
後の公都への運搬と各所への仕分けは、魔族と
公都労働者の方々にお任せする事になった。
「ほお、これが」
「ウィンベル王国の技術で、鬼人族以外でも
食べられるようになった生食です。
こちらはネギトロ丼といいます。
どうぞご賞味を―――」
公都『ヤマト』へ料理の技術指導に来ていた
鬼人族の一人が、長夫婦に頭を下げる。
石材調達が一段落した後、私は家族と一緒に
大陸クアートルの鬼人族の里へと来ていた。
ランドルフ帝国との合同軍事演習が始まるまで、
私は一応、こちらの大陸にいる事になっており、
週に一・二回ほど『ゲート』を通じ、帝国の
大使館へと戻っている。
冬の間は船を出せない、という事情があった
からだが……
暖かくなってきた今、月に数回はあちらの大陸、
ウィンベル王国から船の往来はあり、
それに合わせて鬼人族たちも里帰りした、という
体裁を取り―――
実際は『ゲート』を通じて、彼らも一緒に里へと
やって来ていた。
また、鬼人族以外でも生食が出来るように
なったと、一刻も早く里に伝えたいという
彼らの要望もあり、
本来なら合同軍事演習の時期に伝える予定
だったのを前倒しして、こうして来たのである。
「ほな頂きましょうか。
せっかくの新作料理、パチャママも
おあがりなさい」
「頂きまーす!!」
そしてお土産として持参した、冷凍処理された
魚で作った生食料理を振る舞う。
この場には鬼人族の他……
結婚のために他の土地から来た人間や獣人族、
亜人も同席しており、みんなその料理を前に
引いていたが、
「ウィンベル王国で実験を繰り返し、安全性は
確保してあります。
出来たら一口だけでも食べて頂きたいの
ですが、ただどうしても生が苦手な方は
いますので―――
ダメでしたら無理はせずに」
私が助け船を出すと、人間の女性が意を決して
一口、口の中に入れ……
「……! お、美味しい!」
するとそれが呼び水になったのか、他の獣人や
亜人も一斉に口に入れ始め、
「う、うまい!
これが生の味か!!」
「すごく米に合う!
いくらでも食べられるぞ!!」
「これ『たらこ』!?
もしかして、魚卵も食べられるように
なったの!?」
方々で驚きの声が上がる。
良かった、評判は上々のようだと思って
いると、
「え? ちょっと」
「ど、どうしたのだ?」
「ピュー?」
一緒に食べていた家族が、ある人間の女性へ
近付く。
見ると、彼女は涙を流しており、
「ああ、美味しい……
良かったわ、これで……
子供たちと一緒に同じものが食べられる……
『お母さんは食べないの?』という、
あの子たちの寂しそうな顔を、もう見なくて
いいのね……!」
それが皮切りとなったのか、あちこちから
すすり泣く声が聞こえて来た。
この世界、大人は食べなくても生きていけるが、
鬼人族たちは食事が当たり前にあり、家族で
食べる事が普通であったので―――
公都にいた鬼人族の面々を見ると、彼らもまた
男も女もなく泣いていた。
メルとアルテリーゼが、発端となった女性を
何とか慰め、
段々と場が落ち着きを取り戻すと、
「……でも、ずるいですわ。
鬼人族の方だけでこんなに美味しいものを
食べていたなんて……
これからはいっぱい、食べさせてもらい
ますわよ!」
泣きながら笑う彼女に、
「おー、食え食え」
「今までの分を取り返すがよい」
「ピュウッ」
家族が同調すると、あちこちからクスクスと
笑いが起こり、やがて室内に笑い声が響いた。
「いや、シン殿!
此度の件、心の底から礼を言うぞ!
ワシらのように鬼人族同士で結婚した者は、
問題は無いのだが―――」
「長の立場としては、やっぱり積年の問題で
おりました。
子供とおんなじものを食べられへん辛さ……
あの者の心、おんなじ女の身としてよう
わかりますえ」
あの後、長家族と私たち家族が残り、
改めてヤマガミさんとシャーロットさんから
お礼を伝えられる。
「なあなあ、魚卵は大丈夫って話を聞いたけど、
貝や牡蠣は?
あれはまだ生はダメ?」
十才くらいの幼い、角が二本の鬼っ子、
パチャママさんがラッチを抱きながら
話すと、
「こりゃ、パチャママ!
魚が食べられるようになっただけでも
御の字であろう!」
「そうどすえ。
あまり多くを望んでは―――」
長夫婦が娘をたしなめるが、
「いえ、実は牡蠣については目途が立って
いるんです」
私の言葉に妻たちが驚き、
「え!? そーなの?」
「それは我やメルっちも知らんぞ?」
それと同時に、『また一人で抱え込んで』という
視線を二人は送って来る。
「いや、これは私が最近思い出したんだよ。
ほら、浄化水ってあるだろ?
あれをさらに薄めた水で半日以上漬けると、
生で食べても大丈夫になるんだ」
牡蠣には加熱用と生食用があり―――
生のものは塩素水で滅菌する必要があるのだが、
今は王都の王家直属の研究機関に頼んで、
安全確認実験をしてもらっている。
「それはそれは……!
牡蠣はよく当たるという話を聞くが、
それすら大丈夫になるのか!」
「里の者が聞けば、きっと喜ぶと思いますえ」
ヤマガミさんとシャーロットさんは上機嫌と
なり、メルとアルテリーゼは不満な表情を直す。
「こうまでしてもらい、お礼のしようも無い。
何か望むものは無いか?」
「いえ、鬼人族の方々からは本格的な
和食料理も教えて頂きましたし―――
素材もいろいろと頂いております。
これ以上は」
私が褒美を辞退しようとすると、長の妻が
パンパン、と手を鳴らし、
そこへ鬼人族の従者らしき人が入って来て、
鉢植えのような物を一つ置いて下がっていった。
「シン殿の事、そう言うと思っておりました。
そやさかい、どうかこちらをお受け取り
くださいませ」
シャーロットさんは私の前にその鉢植えを
差し出す。
「お母さん、何コレ?」
それをパチャママさんが不思議そうに見つめ、
「胡椒の苗です。
これをどうか納めとぉくれやす」
思わず口にしていたお茶を一気に飲み込む。
交易を希望していた鬼人族が、『これだけは』
と領地以外での栽培を拒否したシロモノであり、
恐らく一番利益を上げている品……!
「うえぇっ!? い、いいんですか?」
「確かそちらの主力商品と聞いておるぞ?」
妻たちも目を丸くして驚いていると、
「家族全員で同じ食事をとる事―――
これは配偶者を外から迎える事の多い
鬼人族の、長年の夢と言ってもよかったのだ」
「それを叶えてくれた御仁さかいなあ。
ウチらからの出来る限りのお礼どす」
確かにこれは喉から手が出るほど欲しかった
品物に違いないが、
今後交易を続けるにあたっても、鬼人族の
財政に影響を与えるのはよろしくない。
私は苗を両手で受け取ると、
「ありがたく頂きます。
その上でご提案があるのですが」
ヤマガミさんとシャーロットさんが首を傾げ、
「うむ?」
「何かございますでしょうか?」
そこで私は、かつてあった魚醤の話を
する事にした。
かつて東の村で作っていたものだが、
(■25話 はじめての ぼうえいせん参照)
魔族のオルディラさんの魔法……
『腐敗』により、短期的に大量生産が
可能になってしまったのだ。
(■105話
はじめての れきしかくにん(まるずていこく)
参照)
そこで東の村で作る魚醤は……
『昔ながらの製法で作った本格醸造!』
『一年以上かけた元祖魚醤!!』
と高級路線に切り替え、
(■138話 はじめての いし参照)
今では各国の王侯貴族や豪商のご用達の
品となっていた。
「公都には土精霊様もおられますし―――
あっという間に大量生産出来てしまうと
思うんですよね。
そうなれば値崩れは必至です。
ですから今後、鬼人族の里で作る胡椒は、
『鬼人族の里で栽培された最高品質!』
『最古にして原初の胡椒!!』
そういう形で販売して頂ければと。
こちらは一般路線で売りますので」
私の説明を聞いていた長夫婦はしきりに
うなずいて、
「確かに、里以外での栽培が始まったら
そうなる恐れは予想していたが」
「まさかその解決策まで教えて頂けるとは。
ほんまにシン殿は頼りになるお方どす」
そこでメルとアルテリーゼも参戦し、
「それなら、各国の王様とか貴族に贈った方が
いいよー」
「特に貴族ご用達となれば、高値で売れるのは
魚醤や浄化水で証明済みだしのう」
それを聞いてヤマガミさんとシャーロットさんは
感心する一方で、
パチャママさんとラッチは話について
いけないのか、二人で遊び出していた。
「そういえば、こちらの近頃の状況はどうで
しょうか。
何か変わった事とかは……」
あまり幼い二人を無視して話を進めるのも
良くないので、適当な話題を振ってみると、
「そうだな―――
最近、ドラセナ連邦のものらしい船を、
あちこちの海岸で見かけたらしい」
父親の話を聞いて、かつてドラセナ連邦に
拉致された事のある娘の動きがピタッ、と
停止する。
「げー、また来てるのアイツらー」
「ピュイー」
パチャママさんとラッチが同時に声を上げ、
「まさかまた奴隷狩り?」
「懲りないヤツらよのう」
妻たちが呆れたように話すが、
「それがなあ、今回はちょい様子が
おかしいんどす。
複数の船で来てますし、明らかに軍船と
思われる船も見えるんですけどなぁ」
そこで長の妻がいったん間を置いて、
「上陸する様子も見えやしまへんし、
かと言うて本格的にどっかと戦争するには、
数が足りてはりまへん」
「どうも目的地はランドルフ帝国のように
思えるのだが、狙いがわからんのだ」
シャーロットさんの後にヤマガミさんも続き、
両腕を組んで眉間にシワを寄せる。
「うーん……もしかすると」
「なになにー?
シンさんには何かわかるのー?」
私が思わずうなると、そこにパチャママさんが
食いつき、
「いえ、今春ですが我々の大陸各国と、
ランドルフ帝国とで合同軍事演習を行う事に
なっているんです」
「って事は、それの監視?」
「それとも妨害かのう」
私の答えの後にメルとアルテリーゼが続くが、
「そうだね、考えられるのは―――
1・合同演習に対する監視またはけん制
2・妨害もしくは何らかの工作のため
3・別動隊が動いていて、それに対する
目くらまし
これくらいだと思うんだけど」
地球でも仮想敵国が軍事演習を行う場合、
それらの情報収集や抗議をするのは普通にある。
「ワシも合同軍事演習の話は聞いておる。
なるほど、奴隷も売れなくなってきているし、
連中、焦っておるのかも知れんなあ」
「そうなんですか?」
ヤマガミさんの言葉に聞き返すと、
「ウチの里に来ている行商人が話して
おりましてなぁ。
何でもランドルフ帝国では、奴隷の扱いが
緩和されたらしゅうて。
さらに拉致や誘拐やら、非合法な手段で
手に入れた奴隷の取り締まりが厳しゅう
なったみたいだと」
そこはランドルフ帝国との国交締結の結果だ。
奴隷そのものは廃止せず、人さらいなどの犯罪で
入手した奴隷への取り締まりは強化した。
奴隷は最後のセーフティゾーンとして
機能しているという事情もあるので……
調達方法を厳格に規制したのだ。
また奴隷の扱いは、犯罪奴隷以外はどんなに
借金があっても、最長二年で自由にするように
なっている。
これはウィンベル王国と同様の措置で、
また連座制で奴隷となった女子供の救済も、
王国に倣っている。
「だがあの辺をうろちょろされると、
ちと目障りだな。
漁をする者も春になれば本格的に海に出るし」
「そうどすなぁ。
ただこればかりはどないしようも―――」
長夫婦の言葉で、話は一段落しようと
していたが、
「シンー、何とかならないの?」
「いやさすがに無理だよ。
明確に敵対したわけでもないし、それに
こちらからうかつに手を出せば……
それこそ開戦の口実になってしまう」
メルの質問に私は首を横に振る。
「何せ目的がわからんからのう。
漁村が襲われたわけでもあるまい?」
アルテリーゼの言葉に全員がうなずく。
しかし何をしているのかは確かに気になる。
向こうも目的を明確にしていないのなら―――
「まあ、偵察がてら様子を見に行って
みましょうか。
あくまでも遠くから、その船とやらを
見てみる形で」
「そうしてくれると助かる」
「どうぞよろしゅうに」
私の提案にヤマガミさんとシャーロットさんが
頭を下げ、
ラッチは引き続きパチャママさんに預かって
もらい、そのドラセナ連邦の船とやらが出る
海域へ向かう事になった。
「南方のせいか、風が暖かいね」
「春が近付いている事もあるんだろうけど」
ドラゴンの姿に戻ったアルテリーゼの
背に乗って、私とメルは潮風を満喫していた。
今回、『乗客箱』はあったが―――
(基本は馬車の荷台部分と同じなので、
ランドルフ帝国用に大使館で調達してあった)
あくまでも偵察という事と、また身軽な方が
いいという判断で、鬼人族の里に置いてきた。
「さてさて……
ドラセナ連邦の船とやらは、と」
アルテリーゼも一緒になって探すが、何せ
広大な海の事。
そう簡単には見つからないだろう。
そう思っていたのだが―――
「何か水飛沫が上がってないか?」
私の問いに妻たちが、
「だねえ。何隻かの船がいるみたいだけど」
「何しておるんだ、あやつら?」
遠目で、明らかに波が爆発したかのように
水が舞い上がるのが見える。
まさか砲撃でも行っているのか?
と思っていると、
「おりょ? 何か水面にいる」
「おお、あれは大きいぞ」
沖合のドラセナ連邦の船は、どうも海中にいる
巨大生物を相手に、苦戦しているようだった。
「何か放っておいても沈みそう」
「どうするのだ、シン?」
別に助ける義理は無いが……
目の前で困っているのを見捨てるのもなあ。
「とにかく詳しい様子がわからないと。
アルテリーゼ、近付いてくれ」
「りょー」
そこで私たちは、十分な高度を維持しつつ
現場へ急行した。
「チクショウ!
何でこんなのがいるんだよ!!」
「シルヴァ提督!
このままじゃ沈みます!!」
「沈みたくなけりゃ踏ん張りやがれ!!
少しでも陸地に近付くんだ!!」
筋骨隆々の体に黒々とした口ヒゲの、
いかにも海賊といった風貌の男が部下を
叱り飛ばす。
ドラセナ連邦の船―――
彼らはシンや鬼人族の長夫婦の読み通り、
ランドルフ帝国の軍事演習の情報収集に
来ていたのだが、
その途中で巨大なセイウチのような海獣と
出会ってしまい、悪戦苦闘していたのである。
「火魔法も風魔法も、海中じゃ効果が無ぇ!!」
「風魔法と石弾も組み合わせ、矢や槍も併用して
攻撃に使っていますが……
あの分厚い脂肪に歯が立ちません!!」
ドラセナ連邦は、他の魔法や通常兵器との
組み合わせに長けている。
風魔法を軸に、そこへ土魔法の石弾や矢や槍に
スピードを乗せ、威力を高めて攻撃していたが、
巨大な海獣の体は、多少傷がつくだけで
致命傷を与えるにはほど遠かった。
さらにその巨体に似合わず、海獣は速度も速く、
その四肢を海面や船に叩きつけ―――
「シ、シルヴァ提督!
空を!!」
「今度は何だぁ!?」
部下の声に彼は見上げると、そこには明らかに
大型の生物が飛んでいるのが見え、
「カンベンしてくれよ……
巨大セイウチだけで手いっぱいだってのに。
ドラゴン? それともワイバーンか?」
「ど、どうします!?」
指示を部下が求めるが、シルヴァ提督は
何も言えないでいた。
確かに上空に対してなら―――
風魔法と矢の組み合わせで、近付けさせない
事くらいは出来るが、
少なくとも、巨大セイウチとの戦いにそれは
何の意味もなさず……
今何とか戦っている戦力を分散させるだけで、
もはやこれまで、と上空を恨めしそうに
見つめていると―――
「……んっ?」
よく見ると、上空の翼竜が奇妙な動きで
飛んでいるのが見えた。
いわゆる8の字に旋回し、それは野生のものでは
ないという証明となり、
そして突然攻撃するのではなく、訓練された
動きを見せるという事は―――
今攻撃される事は無いという確信に変わった。
「空の竜は敵じゃねえ!
お前ら、攻撃を止めろ!!
逃げる事に全力を尽くせ!!」
さすがにシルヴァ提督は指揮官として、
とっさに状況判断を行い……
各船に向かって指示を飛ばした。
「おー、伝わったかな」
「じゃ、遠慮なくいこっか」
戦闘をやめ、巨大セイウチから逃げていく
複数の船を確認すると、
「アルテリーゼ、一度急降下してくれ。
その時に無効化しよう」
「わかったぞ」
答えと同時に乗っているドラゴンが、
猛スピードで海面に近付く。
目標はもちろん、あの巨大セイウチで、
向こうも気付いたのか船を追いかけるのを止め、
意識をこちらに向ける。
「フゥボォオオーッ!!」
その巨大な牙のある口を大きく開けて、
威嚇するように叫ぶ。
全長はクジラほどもあるだろうか。
小さな小舟なら飲み込まれてしまうだろう。
しかし問題はその大きさと速さだ。
確かに水中なら巨大化し、それなりに動ける
海獣もいるが……
クジラほどになれば、その動きは鈍重に
ならざるを得ない。
ましてや海面近くで、これだけ素早く暴れるのは
不可能だ。
そして海獣と距離を詰め、その鼻先まで
近付いた時、
「水中に棲む海獣で―――
これだけ巨大になり、この速度で体を自由に
動かせる事など、
・・・・・
あり得ない」
そうつぶやくと同時に、Uターンで一気に
高度を上げる。
ある程度上空に到達した後、改めて海面を
見下ろすと、
「おー、お腹を上にして浮いてるー」
「任務かんりょー、というところかのう」
ドラセナ連邦と思われる複数の船は、
動けなくなった巨大セイウチに気付き、
しばらく間合いを取っていたが……
やがてそれに向かって一斉射撃を始めた。