テラーノベル
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「ありゃ、京さん。あんこーるだぜ?」
まだ途中だったのかと二代目が言った。
「さて、どうしたものか」
「えっ?!父上、観客を無視するつもりですか?!」
京太郎が、渋る岩崎へ驚きの顔を向けた。
「……いや、そうではなくてな……」
そこまで言って、岩崎は咲子を見る。
「お咲、厄介事は一応片付いた。どうだ?」
「え?」
咲子は戸惑った。岩崎に何を問われているのか意図が掴めなかったからだ。
「……そろそろ歌姫の出番じゃないのか?」
岩崎が咲子を見つめた。
「……私……」
咲子は言い淀む。
「え?!父上?!」
京太郎は意図を理解したのか、どこか嬉しそうに言う。
「お咲!舞台に立て!」
京太郎が、咲子の戸惑いを打ち消そうとした。
「……ですが、岩崎先生へのアンコールです」
咲子は慎重に言葉を選んだ。
「父上がいいって言ってんだ!お咲は、この劇場の特別なんだぜ!」
迷う咲子の背中を京太郎の熱意が押した。
「お咲?」
岩崎が微笑む。
「……私……歌いたい……!」
「行ってこい!お咲!」
中村も支配人らしく、咲子を激励した。
「アンコール!!」
「アンコール!!」
客席からの声は止まらない。
「では、お咲行くぞ。私が伴奏する」
言って岩崎は、舞台へ向かった。
「……行ってきます!」
咲子はペコリと皆に頭を下げる。
岩崎の登場に、わぁーと歓声が挙がった。
その声援へ向け、咲子は一本踏み出した。
観客がざわつく。
岩崎に続き歌姫花園咲子が現れたからだ。
岩崎は静かに着席し、チェロを構えると弓を引く。
咲子は、大きく息を吸う。
そして──。歌姫花園咲子が歌い始め、劇場には澄んだ歌声が響き渡った。
「まあまあだな」
準備不足と中村は、支配人の顔になっているが、どこか嬉しそうだった。
「中村のおっさん!茶々いれるなよ!」
京太郎が抗議した。だが、こちらも弾んでいる。
まぁ
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「いやあ、花園咲子も戻ったことだし、よかったんじゃねぇの?」
二代目も、咲子の歌声に聞き惚れていた。
「……なんだよお咲。できるじゃねぇか。散々人に心配かけやがって」
京太郎が呟く。
「まあ、お咲は歌姫だ。やる時はやるさ」
中村がやはり嬉しげに言った。
「……だな。立派な歌姫だよ」
ふっと笑みを浮かべた京太郎は、咲子の姿に視線を定めた。
いつも見てきたはずの舞台姿だった。
それなのに、今日の咲子は違って見えた。
京太郎は、初めて見るような気持ちで、その姿から目を離せなかった。
咲子は歌いきる──。
暫くの間《ま》の後、観客が湧く。
そして、惜しみない拍手が咲子へ向けられ続けた。
「よっ!お咲ちゃん!」
二代目が、掛け声をかけた。
客席から笑いが起こり、一層大きな拍手が向けられる。
誰もが花園咲子に夢中になっていた。
咲子は深々とお辞儀をすると舞台を後にする。
拍手は鳴り止まない。
「ん?これはお咲へ向けたものなのか。京さんへ向けたものなのか?どっちだい?」
二代目が中村へ問いかける。
「お咲に決まってんだろ!」
京太郎が即座に答えた。
「……私、歌えました……!」
舞台袖に戻ってきた咲子は、言いながら、弾けるような笑顔を手向けた。
「よくやった。明日から、また歌えるな?」
支配人として中村が、咲子へ激を飛ばす。
「まあ、無理はするな。暫くは、私がお咲の前座を務める」
下がって来た岩崎も、嬉しそうだった。
「え?先生が、私の前座を?!」
「天下の歌姫花園咲子の前座を勤められるんだ。光栄に思ってるよ」
「か、からかわないでください!岩崎先生!」
慌てる咲子の姿に、皆笑った。
「まあ、暫くは岩崎との共演だ」
中村が意見する。
そうすれば、邪魔も入りにくいだろうと考えてのことらしい。
「京太郎、お前も舞台に立つか?」
「えっ?!」
突然の岩崎からの提案に、京太郎は返す言葉がない。
「へえ、こりゃおもしれぇや!」
二代目が囃し立てる。
「舞台に立てば、自分の実力がわかるだろう。授業もサボったりしなくなるはずだが?」
戸惑う京太郎へ、岩崎は機嫌よく笑った。
コメント
1件
「第14話、拝読しました。咲子さんがアンコールに応えて舞台に立つ決意をするところ、胸が熱くなりましたね。岩崎先生が「厄介事は一応片付いた」と言って咲子さんに選択を委ねる優しさ、京太郎くんが「初めて見るような気持ち」で咲子さんを見つめる描写にぐっときました。皆が咲子さんの帰還を心から喜んでいる温かさが伝わってきて、読んでいて幸せな気持ちになりました。明日からの共演がどうなるのか、続きが楽しみです🌷」