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芙月みひろ
280
#普通
野々さくら
57
#女主人公
その夜の岩崎邸──。
「皆さん、お酒足りてますか?」
月子がふうふう息を切らせながら、台所と居間を行き来している。
咲子の舞台復帰を祝うと言って、中村と二代目が押しかけ、勝手に宴会を始めていた。
「月子様!私がやります!」
咲子が、腰を上げる。
「だめよ。お咲ちゃんは主役なんだから」
「お咲、私がいるから大丈夫!」
京子が台所から煮物を持って来る。
「でも、少し静かにしてくれないと!京次郎ちゃんが眠ってるんですから、起きちゃいます!」
京子の苦言にハイハイと答える中村と二代目は、すっかり出来上がっている。
「なんだかんだと、人の家で酒盛りするのもいい加減にしろ!」
岩崎が呆れた。
「いいじゃねえか、一件落着したんだぜ」
煮物を口に放り込みながら、二代目が言う。
「でも、きっちり終わってはないだろ?」
京太郎が眉をひそめた。
「そうだがな、京太郎。あれだけの恥を晒したんだ。秋山男爵も、お咲の前には現れないだろうよ」
中村が、酒を注ぎつつ、くすくす笑っている。
「いやはや、あの男爵の慌てようときたら!」
二代目も笑った。
「しかし、他の女にも声をかけて、秋山男爵もどうするつもりだったんだか」
中村が呆れ返った。
「あらまあ、結婚話って、お咲ちゃんだけじゃなかったんですか?!」
事情を知らない月子へ、岩崎がおおよそを説明してやる。
「まあ、大変だったのですねえ。でも、お咲ちゃん。収まりがついて良かったわね」
月子の言葉に咲子は頷くと、さっといずまいを正し、
「皆さん、ありがとうございました」
と、深々頭を下げた。
「気にするな!お咲!」
中村が、笑って言った。
「あれれ、酒がねぇな」
側から二代目が、酒の催促をしてくる。
「あら、用意しますね!」
月子が、台所へ向かった。京子も慌てて後を追う。
「やっぱり私も手伝います!」
咲子も立ち上がり月子たちに続いた。
「もう、大人たちは、底なしだもの!お咲が手伝ってくれて助かるわ!」
京子が、愚痴る。
「ふふふ。皆さん楽しそうなんだから、それでいいのよ」
月子は、苛立つ京子へ笑いかける。
「さあ、お酒の準備しましょう!」
咲子の一声に女たちは、よし、とやる気になった。
京子の言葉通り、男たちは盛り上がり続け、酒盛りは終わりを見せない。
身重の月子を庇い、咲子は懸命に立ち回った。それでも、酒盛りの勢いには及ばない。まさにてんてこ舞いだった。
「……あら、京太郎坊っちゃん……」
酒とつまみを運ぶ咲子の足が、ふと止まる。
縁側に、京太郎が腰を下ろしていた。
「どうしました?お酒は飲めなくても、お食事を召し上がってください」
「いや、もう腹いっぱいだ。それに騒がしいしな」
何か貯め込む京太郎の様子に、咲子はそっと腰を下ろした。
「本当……賑やかですね。でも、私嫌いじゃないですよ」
「……お咲は気に入っててもな、俺は我慢ならねえ……。結局、俺は何もできなかった。大人たちが、幕引いて……お咲を守ったんだ」
京太郎がポツリと言った。
コメント
1件
読了〜!!🌸✨ 第15話、岩崎邸の宴会シーンがまさに“一件落着の温かさ”って感じでほっこりしたよ😭💕 特に、縁側で静かに悔しそうな京太郎に咲子が寄り添うラスト、すごくエモい…!「俺は何もできなかった」って本音をこぼす京太郎に、咲子がどう返すのか気になりすぎる🥺🎀 皆で咲子を祝う空気と京太郎の複雑な心情のギャップがたまらん…次話めっちゃ楽しみにしてるよ!!⋆♡