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それから後日。
ウチはまた、同じバス停に立っていた。
理由は特にない。
たまたま、時間も予定も重なっただけ。
スマホは今日は元気。
でも画面じゃなくて、なんとなく前を見る。
夜風が、少し冷たい。
バス停の蛍光灯が、ぼんやりと足元を照らしている。
——来ないよね。
そんな都合よく。
そう思った、その瞬間。
バスが止まった。
ドアが開いて、乗り込もうとしたとき。
視界の端に、見覚えのあるスーツが入った。
ぼさぼさの髪。
少しだけ薄くなったクマ。
「…あ」
声が漏れたのは、ウチの方だった。
おじさんも気づいて、目を見開く。
驚いたまま、ゆっくりこちらに近づいてくる。
「この前の…」
「だよね!?やっぱそうだよね!?」
勢いで言うと、おじさんは小さく息を吐いて、少し笑った。
「…同じバス、なんですね。」
「うけるよね。てか縁じゃん、これ。」
並んで、バスに乗り込む。
走り出す車内。
エンジン音が、静かに響く。
「ちゃんと、寝てる?」
「…少しだけ。」
「えら。成長してるじゃん。」
そう言うと、おじさんは少し視線を外したまま、控えめにうなずく。
沈黙が流れる。
でも、気まずくはない。
ウチは、小さな声で言った。
「この前、スマホ貸してくれて…ありがとう。」
おじさんは少しだけ口角を上げて、短く「うん」と答えた。
会話はそれだけ。
それで十分だった。
バスは走る。
夜の街も、前より少し落ち着いて見える。
また、同じバス。
でも今度は、もう知らない人じゃない。