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古い洋館を貸し切って行われた、新しいリード曲のMV撮影。それは、Snow Manの新たな一面を見せる、コンセプチュアルで難易度の高い作品になるはずだった。
「翔太、この後のシーンさ…」
「あー、そこな。俺もちょっと思ってたんだけど…」
スタジオの片隅。今日の撮影に友情出演してくれている菊池風磨と、渡辺翔太が楽しそうに談笑している。少し前に共演したドラマ『私たちが恋する理由』で、すっかり意気投合した二人は、空き時間を見つけてはこうして話に花を咲かせていた。
その光景を、宮舘涼太はセットの陰から、静かに見つめていた。別に、何をするでもない。ただ、見ていただけだ。
撮影は順調に進み、いよいよ宮舘のソロダンスパートの番になった。
今回の楽曲で、彼のパートは特に感情的な表現が求められる。音楽が流れ、宮舘は自分の美学のすべてを乗せて舞う。指の先まで神経を行き届かせた、完璧なパフォーマンス。
しかし、監督の声は非情だった。
「カット!…うーん、宮舘くん。綺麗なんだけど、もっとこう…パッションが欲しいんだよね。泥臭い感じの」
リテイク。もう一度、踊る。だが、監督の首は縦に振られない。何度か繰り返すうちに、完璧主義者の宮舘の中に、じわりと焦りが広がっていく。
そんな時だった。給水のために一度カットがかかったタイミングで、渡辺が宮舘の元へやってきた。
「おい、涼太」
「…なに?」
「もっとシンプルにやれば?考えすぎなんだよ、お前は」
悪気のない、いつもの調子のアドバイス。いつもなら、「お前に言われてもな」と軽く流せたはずの言葉。しかし、先ほどまで風磨と楽しげに話していた渡辺の姿が脳裏をよぎり、その一言は、宮舘の心の逆鱗に、静かに触れた。
「…別に翔太に言われなくても、分かってるよ」
返ってきたのは、温度の感じられない、冷たい声だった。渡辺は一瞬、戸惑いの表情を浮かべる。
「は?なんだよ、その言い方」
「事実を言っただけでしょ?
それに、今の俺にアドバイスできるほど、翔太は自分で自分のことに集中できてると思ってる?」
「…どういう意味だよ、それ」
ついに、火種は燃え上がった 。
宮舘は、渡辺の目をまっすぐに見つめ返す。
「翔太こそ、最近浮かれてるんじゃない?」
その言葉に、渡辺の顔色が変わった。それはもう、ダンスのアドバイスの話ではない。明らかに、個人的な感情を含んだ、棘のある言葉だった。
「は?何の話してんだよ、お前」
「さぁ、何の話だろうね。だけど、翔太のパフォーマンスからは、以前のような気迫が感じられないよ?俺にはそう見える」
周りのメンバーやスタッフが、息を呑んで二人を見守っている。楽屋ではなく、撮影現場のど真ん中で始まった、ゆり組の衝突。
「てめぇ…」
渡辺が何か言い返そうとした瞬間、監督の「よーし、再開しよっか!」という声が響いた。最悪のタイミングで、喧嘩は強制的に中断させられる。
宮舘は渡辺に背を向け、何も言わずに撮影位置に戻っていく。その背中は、怒りよりも、どこか深い孤独を漂わせているように見えた。一人残された渡辺は、やり場のない怒りと戸惑いを拳に込めて、ギリ、と強く握りしめた。