テラーノベル
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撮影の空き時間、楽屋の空気は重く沈んでいた。メンバーたちは、先ほどの衝突の余韻を感じ取り、誰もが口を開けずにいる。そんな中、苛立ちを隠しきれない渡辺が、静かに荷物を整理している宮舘の元へ、つかつかと歩み寄った。
「おい、涼太」
その声には、怒気が含まれている。宮舘は、ゆっくりと顔を上げた。
「お前さ…今日の『浮かれてる』ってあれ、どういう意味だよ!」
楽屋に、渡辺の声が響く。宮舘は、表情ひとつ変えずに、淡々と答えた。
「だから言ったじゃん。翔太のパフォーマンスからは、気迫が感じられないって。聞いてなかった?」
「聞いてたよ!聞いた上で、どういう意味だって聞いてんだよ、俺は!」
バンッ、と渡辺が近くのテーブルを叩く。しかし、宮舘は全く動じない。まるで、鏡のように静かな水面だ。
「言葉通りの意味だよ。それ以上でも、それ以下でもない」
「てめぇ…!」
一触即発の二人を、他のメンバーはハラハラしながら見守るしかない。深澤が「まぁまぁ二人とも…」と割って入ろうとしたが、その前にマネージャーが顔を出した。
「阿部、佐久間、ラウール、次の現場、時間だからお願い!」
その声に、三人は顔を見合わせる。気まずそうに「…はい」と返事をし、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出ていった。深澤も「俺も準備しなきゃ…」と、そそくさと身支度を始める。宮舘も渡辺も、この後の仕事は一緒の組だ。
やがて、次々とメンバーが楽屋を後にしていく。
部屋に残されたのは、険悪なムードを漂わせる渡辺と宮舘、そして、どうしたものかと頭を抱える岩本と向井の四人だけになってしまった。
静まり返った楽屋に、二人の棘のある言葉だけが飛び交う。
「ミス連発の口がよく言うな!いつまでも俺様気分でいんじゃねぇよ!」
ついに、渡辺の怒りが沸点を超えた。監督からの度重なるリテイク。それは、渡辺から見れば「ミス」以外の何物でもなかった。
しかし、宮舘は冷静に、そして冷酷にその言葉を切り返す。
「翔太だってミスしてたでしょ?自分のことは棚に上げて、他人を叱るってわけ?」
「はぁ!?叱ってねぇよ!ただ、アドバイスしようとしたら、お前が勝手に喧嘩を売ってきたんだろうが!」
「売った覚えも、買った覚えもないね」
柳に風。何を言っても、宮舘には響かない。その態度が、さらに渡辺の怒りを煽る。二人の言葉の応酬は、もう誰にも止められそうになかった。
その様子を、壁際に立っていた向井は、青い顔でオロオロと見守るしかない。そして、隣で腕を組み、静かに二人を観察している岩本に、必死のアイコンタクトでSOSを送っていた。
(照にぃ!どうにかしてぇや!このままやと、ゆり組が爆発してまう!)
しかし、岩本は動かない。ただ、じっと二人のやり取りを見つめている。まるで、嵐が過ぎ去るのを待つかのように。いや、嵐の中心がどこにあるのかを、冷静に見極めているようでもあった。
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