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再建中なのに侵略を企てている国があるなんて一体どういうことなのか。
ウルティモが時空を司る者なのは戦ったおれがよく分かっている。しかし何故イデアベルクに攻めて来る?
「かの国がここを攻めるのは、残り一年も無いと見ている」
「一年……そんなに早く? 何故そんなことに……」
滅亡していた国が再建しようとしているのを狙ってのことだとしても、どうしてここを襲うということに?
「ふむ。アックくんの反応を見るに覚えがある国のようだ。ザーム共和国というのは血の気の荒い者が集まる国であり、常に高ランクの者をかき集めていたのだよ」
「それは知っている」
「故に、国内での争いも絶えることが無かったのだ。隣国も攻めていたようなのだが、邪魔をした者のいる国を盗ることに方針を変えたようだ」
「――邪魔をした?」
確かミルシェは偽王女となって、隣国のシーフェル王国で騎士と戦ったはず。そこにはデーモン族を残したままだし、王国が攻め落とされることは考えにくい。
そうなると連中が支配力を強めるつもりで攻めに来るのは遠方の大きな国……ということになる。イデアベルクは王国でも無ければ人間が多く住んでいるわけでもないが、そこを狙われた可能性が高い。
「アックくん。君によってザーム共和国は、一時的にだが弱体をした。身に覚えがあるのではないか?」
やはりあの薬師の女が関係しているのか?
確かにおれは数多くの冒険者を征伐した覚えがある。あの時はルティも怪我を負ったし、シーニャたちと離れ離れになっていたから大変だった。
「つまり、おれが狙いか?」
「うむ。われが見えた事象は、ここに侵略して来る人間の姿である。だからこその相談なのだ」
どこまで見たのかまでは聞かないが、まさかそんなことになるとは。
「おい貴様! 我のアックに虚言を吐くな!」
「ふむ、ではエルフが知恵でも働かせるつもりかね?」
「イデアベルクに人間どもが攻めて来るだと? フン、笑わせてくれる。我がエルフは人間どもに屈せぬぞ!!」
おれとウルティモの話を黙って聞いていたサンフィアだったが、負けず嫌いの彼女のことだ。将来起こる話など信じるはずは無いだろうな。
「われに負けたことをどう説明する?」
「――貴様!」
今の状況を見ても人間とエルフ、獣人族が分かち合うのは時間がかかりそうだ。おれの責任が生じているのは確かでもあるし、行くしかないのか。
「ウルティモ。ここがある程度良くなるのを待ってからでも遅くは無いか?」
「無論だ。われはその為に来たのだ。君の国に来た以上、守ると約束しよう!」
今すぐのことでは無いとはいえ、ゆっくりしている場合でも無さそうだな。それならある程度のことをやっておく必要がある。
「サンフィア! 彼《ニーヴェア》の所に案内を頼む」
「む? 兄の所にか? しかしこの男の言うことを真に受けるのは――」
「サンフィア・エイシェン! 言うことが聞けないのか?」
「――! 案内いたします。我が主」
威圧するつもりは無かったが、サンフィアには多少強く言わないと伝わらない。この場所をエルフだけの地区にしたとはいえ、意見を全く聞かないようではこの先困る。
◇◇
「あれれ~? アック様? シーニャ?」
「……免許皆伝なのニャ。ルティシアには、ギルドの称号を与えておくニャ!」
「もしかして釣りすぎちゃいましたか?」
「ネコ想いのドワーフには敬意を表しますニャ。お魚いっぱい、ごちそうさまニャ!」
釣りギルドに置いてけぼりのルティは、アックたちが去った後もずっと釣りをしていたようだ。魚を釣り上げ過ぎたことでネコ族からはますます慕われてしまったらしい。
「シャトンさん、アック様はどこにいるんでしょうか~?」
「アックなら空にいるニャ!」
「はぇ?」
「……もうすぐ忙しくなるニャ。後はミルシェから聞くといいニャ!」
「ミルシェさんですか!? え、どこどこ?」
知らぬ間にルティに釣りスキルを抜かれてしまった。釣りをする時はルティを師匠と呼ぶことにする。
「全く、相変わらずですわね。あたしはさっきからそこにいたというのに!」
ルティがあちこちと見渡していると、腕組みをしたミルシェがすぐ真横に立っていた。相当長い時間ルティを待っていたようで、辺りはすっかり暗くなっている。
「あぁっ! ミルシェさん~!! 探しましたよぉ」
「――それはこっちのセリフですわ。アックさまをほったらかしにして、仕方のない娘ですわね」
「釣りが楽しすぎまして~」
「……とにかく、ルティ。今からあたしと向かってもらうわよ?」
「は、はいっっ!」
どこに向かうか伝えないままに、ミルシェはルティを連れてその場を後にした。