コツコツコツ…
部屋を後にし歩く彼の顔には何故か優しい面影があった
いや、それか、とてつもない程に疲れ切っているのだろう
彼はふと歩くことをやめ、後ろを振り返った
そして、今にも崩れそうな優しい笑顔をし
『…早く… くれ…』
と言い残し、彼はふただび歩き出した
そこにはただ、彼の歩く音だけが響き渡っていたが
次第に誰かの、誰かの声が聞こえた
「…いまからいくから、まっててね…
絶対に私が…あなたを…
1人にしないから…」
「ねぇねぇ、こっちはなにがあるの?」
目の前の少女はいつものように質問をしている
『そのくらい自分で考えろ…』
そう冷たく言っても少女は
「えー、んー…じゃあ、ここは図書室にしよう!」
と、いつも楽しそうに話を続ける
『勝手にしろ』
そう冷たく言っても、その少女は近くにいてくれる
そして、そんな言葉の後にはいつも少女の
「ありがとう」
この言葉が何故かあたたかい
今まで誰かにその言葉を言われたことがなかった
全てを完璧に
全てに気を配り
全ての感情を隠してきた
母上にも父上にもいつも叱られていた
それが日常であり、何も疑うことは無かった
しかし、その少女に出会ってから
何かがおかしい事には気がついた
私は、ただ、求められたかっただけだったということを
その少女は私のことを求めてくれる
笑ってくれる
話してくれる
接してくれる
そして
月日がたった時には
お互いのことを愛していた
私たちは恋仲だった
ただ、彼女にだけは自分を出すことが出来た
彼女を愛していた
彼女の笑顔を
彼女のその温もりを
彼女の声の音色を
彼女との思い出を
彼女との時間を
ただ、愛していた
そして、彼女もまた、私を愛してくれていた
そんな私たちにも子どもができた
容姿は私に似ているが
髪の毛の色だけは彼女譲りである
元気な の子だった
しかし、人間の彼女との子どもであり
私は私のような生活ではなく、人としての生活を子どもに味わって欲しく
その子をとある夫婦に託した
子の心配をしながらも
私たちはまた、2人だけの生活を楽しんだ
この幸せがこれからも続く
そう思った時だった
悲劇が起きた
父の部下であるカエルのような醜い男に
彼女が殺されたのである
これは、父と母の陰謀だった
私は初めて親に逆らい、この世からの存在を消した
この2人を殺すことにはなんの気持ちの変化も見れなかった
醜い男にも制裁をと思ったが
その男も父に操られているだけだった
その男のことは部下として使えるよう契約をした
全てを終わらせ私は彼女の元に向かった
昨日まで2人で使っていたベッドに静かに横たわる彼女
腹を引き裂かれ
内蔵が飛び出し
とても醜い姿だった
しかし、とても美しかった
それは、私が愛した女性だからだ
私の愛する彼女はこのような姿でもとても美しい
私は彼女の前で初めて涙を流してしまった
『あぁ、愛しの妻よ…
私を置いていかないでくれ…
君がいなければ私は…私は…
また、昔のように心を殺してしまう…
お願いだ…昔のように…私を
こんな惨めな私を
助けてくれ…』
「私があなたをまた…いつか…幸せにする…」
コメント
5件
あぁなんかぴめちゃって感じがする…凄い好き
もう何か考察のしようがないほど物語がすごい……✨ これは…続きが楽しみになってくぞー(´。✪ω✪。 ` )