「そんな事が……ご無事でなによりです」
異世界に戻ってきた俺は、早速みんなに地球での出来事を報告した。
態々伝えたのは、全員に身の安全を留意して欲しいからだ。
「ああ。ただエリーの時とは違い、今回の犯人は偶々親父達を誘拐しただけだったが」
フラフラキョロキョロしている親父達がいたからこれ幸いと誘拐してみると、身元を調べたらなんとお金持ちの息子がいるではないかっ!ってな感じらしい。
奴らの携帯に残っていたメールのやり取りからそう推察出来た。
ちなみに奴らの死体はバーランド王国にある軍事施設で火葬した。
携帯も全て破壊したし、倉庫もぱっと見ではわからない程度には綺麗にしてきた。
奴らの身元は地元のギャング(?)チンピラ(?)みたいなモノだった。
犯人達が消えても誰も気にしないだろう。
気付いたとしても、俺との連絡は親父達の携帯からだったから、どうしようも出来ないだろうしな。
「それでね、話は変わるんだけど、ミランちゃん。やって欲しいことがあるって前に言ってたよね?」
「はい。それは一体…?」
今のミランは地球へ行くことが殆どなくなり、こっちでの仕事はライルの補佐をしている。
つまり、簡単に抜けられる状況ということだ。
「ミランちゃんにはセイくんの見張りをしてもらいたいの」
「えっ!?見張りって…なんでだよ!?もう落ち着いているから大丈夫だぞ」
ミランも驚いていたが、俺は自分のことだったため、輪をかけて驚いてしまった。
「本当にそういえる?」
「言えるぞ。帰ったらみんないるしな」
「それはセイくんのやりたいことなの?」
……何が言いたいんだ?
「セイくんには途中辞めになってることがあるでしょ?」
「…旅か」
「うん。でも、流石に今のセイくんを一人で行かせるわけには行かないの」
だからミランをつけると……
そうか。なるほどなぁ…って、なるかボケェイッ!!
絶対ミランと俺の関係をなし崩し的に進める為だろうがっ!!
「わかりました。セイさん。一人旅が良かったと思いますが、邪魔はしません。ご同行することを了承していただけませんか?」
「いや…聖奈は『セイくん?』…いや、なんでもない。ミラン。邪魔なんてことは絶対ないぞ!二人で旅を楽しもうなっ!」
はいっ!!という言葉と、とびきりの笑顔と共に、報告会はお開きになった。
「王国も連邦も問題なさそうだね」
旅に出ると言っても、もちろんすぐに出れるわけではない。
こう見えても俺には俺にしか出来ない仕事が少なからずあるんだ。
…まぁ俺がというより、転移魔法の需要だけど。
「王国はな?連邦は内部でもごちゃごちゃしてるみたいだぞ?」
「だからだよ。私達にとって問題ないって意味だよ」
さいですか……
「連邦は至る所で反乱というか、一揆みたいなモノが起こっているな」
「王国の情報戦の賜物だね」
聖奈の言う通り、連邦内で反乱が起きているのは、王国が連邦に流した嘘とまでは呼べない情報の成果だ。
王国に切り取られた元連邦は元の暮らしよりも良い暮らしが出来ているというもの。
俺が見たところ、別に良い暮らしではないのだが、連邦のように民が過剰に見張られたり、軍人の横暴を許したりといったことがない程度で、北西部にある国々と変わらないものだが。
王国は戦争には疎いが、地球でスパイや草と呼ばれる人たちを国内統制のために自国内で活用してきた歴史がある。
それをこれからは対連邦に向けて使っていくつもりなのだろう。
「外敵の心配もないし、この国に物資を集めてくれたからWSへの補充は暫く私だけで出来るし。うん。いってらっしゃい」
「ああ。でも本当に良いのか?」
「ん?それは一夫多妻のこと?それともミランちゃんというこの国にも地球でも有用な戦力を、セイくんの為だけに付けるって意味?」
いや!言い方っ!
もう少しオブラートに包めよなっ!
「両方かな?」
「なんで疑問系なのかな…まぁいいよ。私は前に言ったようにミランちゃんとエリーちゃんなら大歓迎だよ。むしろここで捨てるなんてことになれば、セイくんのこと…ちょっと疑っちゃうかもね。
仕事についてはミランちゃん離れしないとね。もちろん私離れも進めてるしね」
そうだな。聖奈はそういうやつだよな。
仕事も俺が不甲斐ないばかりにみんなに…いや、聖奈とミランに負担を掛けている。
ライルやエリーは好きなことをしているだけだから、辞めさせると逆に取り上げることになってしまうが。
しかし、二人は違う。
根本に俺を支える為というものがあるからな。
まぁそれでも、二人とも楽しんで仕事をしてくれているから有難いが。
それに甘えるのは違うよな。
「わかった。ミランとこの先どうなるかはわからんが、行ってくるよ」
「まだそんな風に思っているのはセイくんだけだよ……まぁ、そんなセイくんだからミランちゃんも私も好きなんだけどね」
「いや、俺も二人のことは好きだぞ?」
そういう意味じゃないんだよねー。
聖奈はそう言うと、再び書類仕事に戻った。
俺がここにいても邪魔になるだけだから、外に追い出した近衛と侍女を呼び、執務室を後にした。
よく晴れた朝、準備も完璧だ。
「セイを頼むな」「ミランが結婚したら次は私ですっ!」「間違っても女性が増えないように見張ってね」
「おいっ!おかしいだろ!?何故俺には見送りがいないんだ!!」
ここは王都の外門。
俺の周りには誰もおらず、みんなでミランを囲んでお別れの挨拶を交わしていた。
いや、挨拶というよりも、俺の悪口だな。
俺が不貞腐れていると、その輪から聖奈が飛び出して抱きついてきた。
ガシッ
「もうっ!拗ねないの。気をつけてね?あなた」ギュッ
うん…陰キャだからこういう時困るんだよね……
「あ、ああ。行ってきます」
「うん!いってらっしゃい!」
「ミラン。行こうか」
みんな見送っているが、例の如く転移でいつでも帰って来られる。
俺は全然なごり惜しくない別れを済ませ、ミランへと左手を差し出した。
「はいっ!」ギュッ
その左手を嬉しそうに両手で包んだミランは、俺に寄り添いながらニコニコ顔をこちらへと向けてくる。
……聖奈指定の二人旅の作法だが…絶対騙されてるぞ。
それに両手で割れ物を包むように持つのはやめなさい。
転ぶぞ?
俺の旅は再び始まりを告げた。
side聖奈
「あれ?コンちゃん、どこに行ったか知らない?」
「知らねーよ?」「私も見てないですぅ」
「まさか……まっ。仕方ないか」
あれ程二人の邪魔をしないように、今回は留守番だって言ったのに。
お邪魔虫ならぬ、お邪魔狼だね。
side聖
「今日はどこまで行くのですか?」
俺と手を繋ぎ、ニコニコ顔のミランが上目遣いで聞いてくる。
「今日は以前掘ったトンネルくらいまでは行きたいな」
「えっ?あそこまではかなりの距離がありますよ?転移魔法ですか?」
「いや、転移魔法は必要がない限りは極力使わない予定だ。走るからおんぶするぞ」
おぶるくらいなら転移しろよって?
景色や発展著しい国内もちゃんと見たいんだよ。
これでも王様だからな!
「お、おんぶですか…出来ればお姫様抱っこ…」
ミランが聞き取れない声量で何事か呟いている…怖いから早くおぶさって……
「し、失礼します」ぎゅっ
「キャインッ!?」
「「えっ!?」」
ミランが俺におぶさると、背中から聞き慣れた情けない悲鳴が聞こえてきた。
「まさか…」ゴソゴソ
俺は手探りでフードを探ると…いた。
「コン。聖奈に留守番だって言われてなかったか?」
首根っこを掴まれたコンは、情けない格好を晒している。
『嫌じゃっ!妾も行くのじゃ!!』
「ミラン…こう言っているが…」
俺は元々コンを連れて行くことは反対ではなかった。
ミランとの関係を早く進めて欲しい聖奈だけが反対していたのだ。
俺は旅の相棒の意見を聞く。
「ふぅ……しょうがないですね。いいですよ」
ミランは少し残念そうな顔をした後、溜息を吐き、優しく微笑んでコンに同行の許可を出した。
『やったのじゃっ!!』
「コン。ミランに感謝しろよ?それと基本はフードの中にいろ。いや…待てよ」
あれ?よく考えれば、俺の権力(?)が通用する国なら、放し飼いでも問題ないよな?
じゃあ、することは一つ。
『ミラン!さんきゅーなのじゃ!』
「コン。ついて来てもいいが、俺たちの言うことは必ず聞くこと。守れなかったら俺たちが帰るまでまた山に帰すからな?」
『ひぃっ!?わかったのじゃっ!!』
よし。
「じゃあ早速。コン。元の大きさに戻れ」
『ん?良いのかえ?じゃあ遠慮なくなのじゃ』
ポンっと情けない音の後、コンは体長5mを超える立派なフェンリルの姿になった。
「ミラン。これに乗って移動しよう」
俺はコンに断りもなくその背に飛び乗ると、ミランに手を差し出した。
「はいっ!」
ミランを引き上げ、俺の前に座らせると準備万端だ。
ミランは乗馬も得意だからか、馬以外の動物の背に乗ることが嬉しそうだ。
「コン!そういうことだ!走ってくれ!」
『容易い御用なのじゃっ!』
わぁ。
高速で過ぎゆく景色の中、ミランの嬉しそうな声が耳をくすぐった。
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