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壱花たちが冨樫に、真っ暗な海に戻される可能性がある話をすると、イルカを抱えた冨樫が言う。
「それ、飛行機だとどうなるんですかね?」
空中に放り出されそうだな……。
「夜間も飛ぶ飛行機に乗るときは、パラシュート背負って乗らないとですよね」
「……そんな奴、飛行機に乗せてもらえないと思うぞ」
そう倫太郎が行ったとき、老婆がレストランから移動しはじめた。
「どうする?
そういえば、まだ我々、なにも食べていないが」
「交代で食べて。
交代で見張りましょうか?」
そう冨樫が提案する。
倫太郎が、
「俺はまだ腹減ってないから、お前ら食え」
と言うので、冨樫と壱花は急いで食べることにした。
二人は空いていた窓際のカウンター席に並んで座る。
冨樫が生姜焼き定食で、壱花が大盛り海老天丼だった。
「美味しいですね~。
夜の海を眺めながら食べられるのがまたいいですね」
と壱花は笑ったが、冨樫は何故か席を変わろうとする。
「なんでですか……」
と言うと、
「いや、並んで夜景とか見ながら食事してるとか、カップルみたいじゃないか」
と言い出す。
「カップルだったら、がっつり大盛り海老天丼とか頼みませんよ……」
「付き合い始めはそうかもしれないが。
だんだん頼むようになるんだよ」
その言葉に、ふと疑問に思い、壱花は訊いてみた。
「そういえば、冨樫さんって、彼女いるんですか?」
「……いいからさっさと食え」
と睨まれる。
あの反応はどっちだったんだろうな。
まあ、どっちでもいいんだが、と思いながら、壱花は急いで食べ、
「冨樫さんはコーヒーでも飲んでてください。
社長、ひとりで食べるの可哀想だし」
と言いながら、倫太郎に電話してみた。
だが、つながらない。
「あやかしに邪魔されてるんですかね?」
「……海の上だからだろうよ」
海上では、つながる場所とつながらない場所があるようだった。
「もう世界の何処でも携帯、通じるつもりでいましたよ」
Wi-Fiは使えるようだが、制限がある。
壱花はとりあえず、倫太郎を探しに行くことにした。
まあ、広いとはいえ、船の中だ。
二人がぐるぐる船内を回って出会わないなんてこともそうないだろう、と思いながら、壱花は船の廊下を歩く。
倫太郎は意外に近くにいた。
大浴場の前だった。
「社長、交代しますよ」
壱花が声をかけると、倫太郎は渋い顔で言ってくる。
「ちょうどよかった。
あの老婆、もう終了した浴場の女湯に入っていってしまって」
「そうですか。
じゃあ、私、ここで見張ってますよ」
と言って、壱花は倫太郎と交代した。
またすぐに老婆は出てくるだろうと思っていたのだが、出てくる気配もない。
しかも、なにやら、ばしゃーっ、ばしゃーっ、と中から聞こえてくる。
不安になった壱花は、そっと覗きに行くことにした。