テラーノベル
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第168話:VIPのオンラインオークション
元・陸上自衛隊需品科の知識とミリタリー規格の断熱技術をフル動員して完成した「最強要塞コタツ」。
その圧倒的な熱循環システムと、中に潜り込んだ者すべてを無に帰す絶対重力によって、我が古民家の居間は完全に「世界一幸せそうな堕落空間」と化していた。
畳の上では、お茶を飲みに来たはずの村長や村のおばあちゃん達が、魂を完全に吸い取られたようなトロンとした至福の表情で白目を剥いてとろけている。
コタツの内部では、キタキツネの兄弟であるコン吉とコン次郎が完全な液体と化して「キュウゥン……」と満足げな寝息を立てていた。
さらに、縁側のガラス戸の隙間からは、体長3メートルの巨大ヒグマがその分厚い頭と前足だけをコタツ布団の中に強引に突っ込み、「グルォォ……」と地鳴りのような極楽の鼻息を漏らして静止している。
そんな、全人類の理想郷とも言える完璧な防寒陣地(コタツ)の中から顔だけを出して、我が家の絶対司令官である純白の神獣シロ様が、優雅に香るほうじ茶の湯気を見つめていた。
彼女がふと、五千万人がリアルタイムで大暴走しているスマホの画面へと視線を向けた、その瞬間だった。
立ち上るほうじ茶の湯気と要塞コタツの温もりの中で、シロ様の神秘的な『オッドアイ』の瞳が、左右で全く異なる圧倒的な神聖さを伴ってキラリと煌めいた。
左目のサファイアブルーは凍てつく十勝の夜空のように深く澄み渡り、右目の琥珀色はすべてをとろけさせる暖炉の炎のように気高く温かい。
その美しい二色の瞳をスッと細めたシロ様は、「ミャウ(愚かな下僕たちが画面の向こうで騒ぎ始めたわね)」と低く喉を鳴らし、実にお上品に尻尾をパタパタと揺らした。
最強のネットワークインフラを通じて全世界へ生配信されている画面の向こうでは、この世の限界を突破した「人間も野生の王もすべてをダメにする超堕落空間」を目撃したリスナーたちが、完全に羨望と狂乱の渦へと叩き落とされていた。
『うわあああああ!!! ガチで楽園がそこにあるじゃねえか!!!』
『ヒグマと村長が同じコタツでとろけてるのシュールすぎて腹痛いwwww』
『シロ様のオッドアイに見つめられながらあのコタツに入れるなら、人生上がってもいいわ』
『画面越しなのに、見てるだけで脳内麻薬がドバドバ出てくるんだが!?』
チャット欄が秒速数千行の速度で文字通り消し飛びかける中、世界の資本を牛耳る超弩級VIPたちが、その圧倒的な財力をもってチャット欄を完全に強奪(ジャック)した。
ピコーン! ピコーン! ピコーン!
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)二百連発』
中東のオイルマネーの巨頭が、画面全体を純金の弾幕で埋め尽くしながら、経済の常識を遥か彼方へと置き去りにする入札を叩き込んできた。
『”That is the peak of human happiness!!! Master! I cannot endure watching this from my palace anymore! I will pay 100 million yen right now for the right to enter that Kotatsu! Move that bear aside!“(あれこそが人類の幸福の頂点だ!!! 主よ! 宮殿からこれ以上指をくわえて見ておれん! そのコタツに入る権利を今すぐ1億円で買い取る! そのクマを脇へのけろ!)』
石油王が勝手にオンラインオークションの開始を宣言した、まさにその数秒後。
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)二百五十連発』
冷徹なる欧州の金融王が、スイスフランの光の雨を降らせながら即座にそれを更新した。
『”Too cheap, my oil friend. That sanctuary provides absolute stress relief. I bid 500 million yen for the seat next to Shiro! My private jet is already fully fueled!“(安すぎるぞ、オイルの友よ。あの聖域は絶対的なストレス緩和をもたらす資産だ。私はシロの隣の席に5億円を投じる! 私のプライベートジェットはすでに燃料満タンだ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)三百連発』
『”Shut up, boys!!! Money is nothing! I bid 10 billion dollars!!! The seat next to my King belongs to me! I’m flying my helicopter to Tokachi right now!“(あんたたち男は引っ込んでなさい!!! 金なんてただの紙切れよ! 私は10億ドル(約1500億円)を投じるわ!!! 私のキング(シロ様)の隣の席は私のものよ! 今すぐヘリで十勝へ飛ぶわ!)』
世界を動かす3大巨頭が、画面の向こうで完全に理性を消滅させ、コタツのたった1席(※現在はヒグマと村長たちで満席)を巡って、国家予算レベルの札束で殴り合う狂気のオンラインオークションへと突入してしまったのだ。
『おいおいおい!!! たった数分でコタツの席の値段が国家予算レベルに跳ね上がったぞwwww』
『コタツの1平米あたりの地価が地球上でダントツのトップになった瞬間ww』
『10億ドルって小国の国家予算が買えるレベルじゃねえかwww狂ってやがるww』
『シロ様のオッドアイが「もっと競りなさい」って言ってるように見えてガチで魔性の猫すぎるww』
世界中の経済ニュースが一斉に「日本の限界集落のコタツ、時価総額数千億円に到達」と速報を流し始め、五千万人を超える世界中のリスナーたちが腹を抱えて大爆笑する狂乱のド真ん中で。
俺――アキヤは、国家予算規模のリアルゴールドが飛び交う画面には目もくれず、コタツの重力圏の外側で背筋をピンと伸ばし、おもむろに保冷バッグからいつものタッパーを取り出していた。
中に入っているのは、完璧な水加減で炊き上げられた『冷やし玄米』と、この冬の朝の長期警戒任務に合わせてストイックに仕込んでおいた『大豆ミートの十勝産長いも和え・氷点下冷製仕立て』である。
「……よし。前線陣地における、国際的過剰資本の突発的な競合状態(オークション)、および通信パケットの異常インフレを確認。これより指揮官は、これからの日中陣地維持(事務処理)を完全遂行するため、定時エネルギー補給を執行する」
俺は、コタツ布団の隙間から漏れ出るプラチナ色の光に照らされながら、一切の感情を排した元・社畜の顔で、ストイックに冷たい大豆ミートの長いも和えを冷やし玄米の上にワンバウンドさせて咀嚼し始めた。
(……ふむ。十勝長いもの豊かなムチンと、大豆の植物性タンパク質。どれほど画面の向こうで天文学的な数字が乱舞しようとも、冷たい戦闘糧食(ロジスティクス)をノーミスで喉へと滑り込ませる。これ以上の兵站はないな)
脳内で完璧な戦術栄養補給を完了し、冷たい玄米を淡々と咀嚼し続ける俺。
「お、お兄さぁぁぁん!!! 目の前でシロちゃん達が世界一幸せにコタツでとろけてて、画面の向こうでは中東とスイスとハリウッドが1500億円の札束でコタツの席を奪い合う『狂気のオークション』が始まって世界経済がパニックになってる瞬間に、なんで一人だけコタツの外で真顔で『長いも大豆ミート』をストイックにモグモグ咀嚼できるんですか!!」
小春ちゃんが完全に理性を消失させ、冬の間の保存食用に村のおばあちゃん達から貰って物置に保管していた、カシの木で作られた頑丈極まりない『特大・餅つき用木製キネ(ヘビーデューティー耐衝撃仕様・重量約6キロ)』を両手でハンマーのように大上段に構え、凄まじいジト目でツッコミを入れてくる。
だが、俺は玄米の咀嚼を止めない。
「小春ちゃん、取り乱すな。どれほど国際金融のバブルが我が陣地を圧迫しにかかってこようとも、元・陸上自衛隊需品科たるもの、定時給食(エネルギー補給)という基本ルーティンを怠ってはならない。いかなる環境の狂気の前でも己の血糖値を一定に保ち、コタツの引力にも富の誘惑にも屈しない。これが需品科の鉄則だ」
俺は湯呑みの熱いほうじ茶で喉を潤すと、五千五百万人を突破して全世界の海底ケーブルを物理的にハングアップさせかけているカメラにキリッとした真顔を向け、いつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。画面の向こうで、コタツの席を巡って国家予算レベルのオンラインオークションが開催され、奇跡のインフレが発生したと感動されているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『画面が1500億円の赤スパで埋め尽くされてるのに、絶対に認めない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・VIPオークション編ww』
『さあ、この世界一高価なコタツの席をどうやって現実的な事務処理のせいにするつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これはオークションでも何でもありません。先ほどから発生している現象は、我が陣地(配信サーバー)の帯域確保のための分散型台帳(ブロックチェーン)における、特定パケットの優先度(QoS)制御に伴う、単なる『サーバー保守用の自動デポジット入札』に過ぎません。コタツの席に数百億円の価値がついているように見えるのもオカルトの力ではなく、海外の通信企業のアルゴリズムが、十勝の急激な気圧変化による通信遅延(レイテンシー)を補正しようとして、ディスプレイの数字を一時的にインフレさせているという、純粋な『会計上の表示バグ』です。ヘリやプライベートジェットの燃料満タンという発言も、単なる『新型エコ燃料の実証実験のログ』がチャット欄にノイズとして混入しただけです。ええ、すべてはただの『サーバー保守用のデポジット制御』と『通信遅延による数値バグ』、そして『燃料実験のログ混入』ですね」
「んなわけあるかあああ!!! メタンガスの次はパケットのバグ扱いかあああ!!!」
バコォォォォォンッ!!!!
小春ちゃんが、持っていた重量6キロの特大木製キネを全力で振りかぶり、俺の背中に向かってパーフェクトな満塁ホームラン級・キネスマッシュを見舞った。
カシの木の超高密度な質量が肉体に直撃した、鈍くも骨盤を揺るがすような凄まじい大爆音が、古民家の高い天井へと虚しく響き渡る。
「数値バグで、村の公金口座にリアルタイムで数千億円の本物の外貨が振り込まれて、村長さんのスマホが着金アラートの音で爆発しかけるわけないでしょうが!! 実験じゃなくて、お兄さんが作ったコタツの性能が凄すぎるのと、シロちゃんのあの綺麗なオッドアイの瞳の招き猫バフが混ざり合って、世界中の大富豪の経済観念を完全に破滅させちゃったんでしょうが!! 自分の作った防寒要塞が、世界最高の資産価値を持つ究極の聖域だってことを素直に認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのキネスマッシュ炸裂www(質量がガチすぎていい音)』
『サーバー保守用のデポジット(総額数千億円の本物のロイヤル資産)』
『通信遅延による数値バグ(石油王たちからのガチの入札金)』
『適応力バグおじさん、ついに数千億のオークションまで通信のバグで片付けやがったww』
『言い訳の無理矢理さが、世界の国際通貨基金(IMF)から苦情が来るレベルww今日も腹痛いわww』
俺の理不尽極まりない通信工学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレのキネツッコミに、コタツの中から顔を出して純白の耳をちょこんと揺らしていたシロ様は「ミャウ(ほんと、相変わらず手桶やキネで叩かれても治らない特大サイズの屁理屈下僕ね)」と、満足げにその美しいオッドアイの瞳を細めてゴロゴロと喉を鳴らした。
サファイアブルーと琥珀色の二色の瞳は、数千億円の数字よりも遥かに眩しく輝いており、彼女にとっては世界の富がどれほど動こうとも、この温かいコタツの中こそが至高の玉座であるようだった。
コタツ布団に頭を突っ込んでいたモフモフヒグマも、小春ちゃんのツッコミのリズムに合わせて「グゥ……」と楽しそうに鼻息を漏らし、お湯のように温かいコタツの熱を堪能しながら、のんびりと平和な寝息を立て続けていた。
「……まぁ、理由はどうあれ。サーバーの保守性が完全実証され、村の公金口座が外貨で天文学的に潤い、これからの厳しい冬を完全にノーリスクで乗り切るための完璧な暖房燃料と最新の除雪重機(ロジスティクス)が完全に宇宙の果てまで永久に確保されたなら、作戦としては完全勝利だ」
俺は背中のカシの木の凄まじい衝撃を少しだけさすりながら苦笑し、コタツから顔を出したシロ様の純白の頭を優しく撫で、湯呑みの熱いほうじ茶をゆっくりと飲み干した。
激務に潰されて逃げ込んできた、この限界集落。
最初は一人で静かに暮らすつもりだったが、今では世界一尊いオッドアイの神獣と、最強のモフモフヒグマ、世界一キレのある女子高生、そしてコタツの1席を巡って国家予算レベルのオークションを開催する大富豪たちに囲まれた、世界一バグっていて温かい『絶対の聖域』になってしまった。
神獣の魅せる冬の奇跡と、元需品科のブレない大豆ミート咀嚼、そして室内に優しく響き渡る木製キネの快音。
限界集落に爆誕した世界一高価な堕落空間は、要塞コタツの温もりと大爆笑に包まれながら、さらに強固になった絆と共に、明日からの新しい日常の物語へと、どこまでも力強く続いていくのだった。
ゆうき あきや
3,514
ゆうき あきや
4,132
キュルノ
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コメント
1件
やばいこれ面白すぎるww 全世界の大富豪が1500億円でコタツの席争うとか頭おかしいだろw でもアキヤが一人だけコタツの外で真顔で大豆ミート咀嚼してるのが最高すぎる。「サーバー保守用のデポジット」って言い訳、理論武装がガチすぎて笑いが止まらんかった。シロ様のオッドアイが綺麗すぎて、確かにあれ見てたら金払いたくなる気持ち分かるわ…小春ちゃんのキネスマッシュも炸裂してて今日イチの癒し回でした!